●3.
エンチャンター
エルフの
美少女、
ラティア嬢の
クラスは
エンチャンターだった。
付与術師というやつだが、
身体的接触をしていないと、
効果を
発揮できないという、クソ
要素がある。
前衛が
立ちまわって
戦闘しているときに、いちいちくっついていられたら
邪魔以外の
何物でもない。
だから
クラスのうち『
最も
役立たずの
エンチャンター』と
呼称されている。
これは
事実だが、
俺には
関係がない。
俺は
ウォーロックだ。
そして
範囲魔法を
得意とする。
この
範囲魔法は
全方向で、
俺を
中心に
発動するため、
俺の
至近距離にいないと、
味方だろうが
死ぬ。
逆に
言えば、
俺の
至近距離にさえいれば、
安全なのだ。
魔力は
俺から
出ているが、
火の
玉が
俺の
体から
直接飛んでいくわけではないので。
放出された
魔力が
一定距離を
離れると、
物質化して
炎になるらしい。
俺の
背中に
引っ
付いて、
俺を
大幅に
強化してくれる
エンチャンターは、
相性が
非常にいい。
他職には
宝の
持ち
腐れだが、
俺個人には、
絶大な
効果が
見込める。
「というわけで、ラティア嬢は、俺と相性が非常にいい」
「はいっ、そうみたいですね。でも範囲魔法なんて実在していたんですか、おとぎ話ですよね?」
「バラエルの話か? 実話なのだろう」
「実話、なんですか、にわかには信じがたいです。すごいです」
「それにしても、相性がいいとか、なんか恥ずかしい台詞ですね」
頬を
染めて、
目を
逸らす
ラティア嬢。
おい
聖女だろ。なんだよエッチの
相性とか
想像してるのか。
むっつり
助平だろ
絶対。
ちなみに
エンチャンターに
似ているが
全然違う
職業に
バッファーというのがある。
補助魔法を
使う
魔法使いだ。
身体強化、
魔法攻撃力強化魔法などを
相手に
掛けることができるが、その
倍率は
低い。
確かに
身体的接触を
用いず、
ヒールのように
バフ魔法をするだけで、お
手軽なので
重宝するが、その
効果は
限定的だ。
それに
対して
エンチャンターの
強化は、
倍近いという
噂がある。
倍の
攻撃力とか、
想像を
絶する。
そして「
体の
相性がいい」
相手とは、さらに
倍ドンで
強力になるという、これまた
根も
葉もない、エッチな
噂がある。
だから
エンチャンターは
性的な
噂話が
絶えない。
彼女も
少なからず、そういう
話を
聞いたことがあるのだろう。
まったく
純真な
俺の
聖女に
何を
吹き
込んでるんだか。
「体の相性……た、確かめてみますか? 初めてなので本当か分からないんです」
もう
夕方。これから
寝る
時間だ。
目を
潤ませている。
夕日で
光はやや
赤いが、
ラティア嬢の
顔はその
中でもさらに
真っ
赤なのが
分かる。
なんだか、
俺と
ラティア嬢が
今からしけ
込むみたいじゃないか。
「あの、宿屋まで、一緒に行ってください」
「金貨やったろ、一人で行けないのか?」
「あの、一人で宿屋に行くと、連れ込まれそうになったことがあって、怖いんです」
俺の
腕の
裾をギュっと
強く
握ってくる。
その
手はわずかに
震えていた。
唇もきゅっと
結んで、
何かに
耐えるような
表情をしている。
どこにもクソ
野郎はいる。
なるほど、これほどの
美少女が
一人で
宿屋に
来れば、
一発ヤッてやろうという
不届き
者がいてもおかしくはない。
「一緒の部屋に、その、泊まって欲しいです。も、もちろんダブルベッドで」
なるほど、これは
問題だな。
俺のことは
怖くないのだろうか。
一番、
悪いことをしそうな
格好をしている
黒ずくめなのだが。
宿は
裏路地のヤバそうなところは
避けた。
お
嬢さんを
連れていけるような
宿ではない。もちろん
一発ヤるだけなら
別だ。
一本裏通りにある、
知る
人ぞ
知る
感じの
比較的綺麗だが
値段は
手ごろな
宿屋を
見つける。
ラティア嬢はまだ
俺の
服の
裾をギュっと
握って
離さない。
よほど
怖い
思いをしたと
見える。
ドアを
開け、
受付を
済ませる。
宿屋の
主人は、
俺をしっかり
見た
後ラティア嬢をさっと
見ていぶかしむが、
見て
見ぬ
振りをして、
何食わぬ「
俺は
何も
知らないですよ」という
顔で
鍵を
渡してくる。
「くれぐれもトラブルはご遠慮ください」
俺はできそこないの
笑顔を
貼り
付けて、それに
応じる。
ラティア嬢も
怖がりながらも
笑顔を
浮かべて
店主に
頭を
下げる。
店主はその
時初めて
ラティア嬢の
顔をはっきりと
見たのだろう。
鼻の
下を
伸ばして
店主は
一言。
俺は
一瞬意味が
分からなかった。
宿代を
払ったのはこちらだ。
「その子、いくらだったの? 後で俺にも貸してくれる? それでいくら?」
「奴隷でしょ? いくらで買ってきたんだい? それとも化粧もしてないけど娼婦なの?」
俺は
店主をにらみつけるが、
平気な
顔をしている。
無駄に
場数を
踏んだこういう
店主は
質が
悪い。
「ひっ、こわ。これだからウォーロックはおっかねえ」
「あーはい。すみませんね。で一発だけでいいよ、いくら?」
「貸出するわけないだろ、頭に魔法叩きこむぞ」
「うひょおお。こりゃあ失礼。どうぞごゆっくり。げへへ」
エロい
顔を
浮かべて、
俺たちを
奥に
促す。
ラティア嬢の
顔を
見たら、
目に
涙を
浮かべているが、
声を
上げて
泣かないように
必死に
我慢していた。
俺の
服の
裾はシワがよって、
痛そうなぐらいギュッと
強く
握られている。
こんな
子になんてことを。
守らないと。
そんな
感情になるのは
俺の
中では
非常に
珍しい。
部屋に
入り、
内鍵をおろす。
これで、あのゲスい
店主も
入ってこれない。