向かう
先は
近くの
遺跡『
パルーデル廃墓地』という
フィールドだった。
ここでは
アンデッド系の
ゴーストがうじゃうじゃ
出る。
普段は
何もないように
見えて、ぽつぽつ
ゴーストが
平和に
歩いているだけに
見える。
しかしひとたび
敵対的行為をすると、
見えていなかった
ゴーストが
大量に
湧いて
出て、
襲い
掛かってくるのだ。
冒険者ギルド認定難易度ランクB+だったと
思う。
「さあ、幽霊たち踊ろうか。その姿を見せたまえ」
俺は
黒い
禍々しい
杖を
掲げて、
目の
前の
ゴーストに
向ける。
無垢な
純真の
炎は、
黒魔術師が
使う
癖に、
聖属性がある。
ゴーストは
炎に
包まれて
炎上し、
燃え
尽きて、
後には
一粒の
ドロップアイテムだけが
残った。
ゴーストの
欠片。
そう
呼ばれている。
冒険者ギルドで
高値で
売れる。
さっと
急いで
拾う。
しかしこれを
手にすることは、
半ば
パーティーであれば
全滅を
覚悟する
程度の、
戦闘になることを
意味している。
周りに
ゴーストが、
次々と
湧いてくる。
その
数、
最低でも
十二体だろうか。
「イノセント・エリア・ファイア」
俺は
固有魔法「
エリア」
シリーズを
発動させると、
俺を
中心に
周り
全方向が
炎に
包まれた。
囲んでいた
ゴーストは、
次々と
炎上していく。
ぼと、ぼと、ぼと。
地面には
ゴーストの
欠片が
次々と
落ちていく。
そして、またそれをきっかけに、
ゴーストが
湧く。
「イノセント・エリア・ファイア」
俺は
感情もなにもなく、ただ
作業のように
魔法を
唱える。
パーティーであれば
自分中心の
範囲魔法などは
撃つことができない。
しかし
ソロでは、
一切の
遠慮なしに、
魔法が
撃ち
放題となるのだ。
俺固有の
エリア魔法は、
ソロで
使うことに
最適化されていて、
鍛錬を
積み
重ねた
現在の
戦闘力は、
一線を
超えている。
十二歳当時は、まだ
魔法の
威力も
全体的に
乏しく、
範囲魔法もほとんど
使い
物にならなかったが、
今は
違う。
何回も
何回も
涌いてきた
ゴーストも、さすがに
全滅したようで、ついに
出てこなくなった。
足元には
大量の
ゴーストの
欠片が
落ちているので、それをすべて
拾って
歩いた。
普通の
皮袋一杯になった。
それを
魔法袋に
入れる。
この
魔法袋は
俺の
元パーティーメンバーは
全員装備している。
容量は
荷馬車一台分ぐらいだが、ないよりはずっと
快適なので、そういう
装備の
分配には
感謝しておいてやろう。
そこそこのお
値段がする。
冒険者は
自己への
投資は
必須だ。
その
足でささくさと
次の
町へと
向かう。
元の
町ではまだ
ドルボたちが
活動しているかもしれない。
ドルボ達が
向かう
王都とは
逆方向へと
進んだ。
一人で
歩くと
ドルボたちより
倍は
速い。
前来た
時よりも、あっという
間に、
クエステン町に
到着してしまった。
国内で
上から
数えて
八番目ぐらいに
大きい
町だろう。
冒険者ギルドに
行く。
自分で
受付嬢に
話しかけるのは
避けたいが、かといって
誰かを
掴まえるには
誰かに
話しかける
必要がある。
ギルド前の
露店を
見つつ
様子を
見る。
すると
ギルドからちょっと
離れた
売れてなさそうな
露店が
妙に
気になった。
店主は
エルフの
金髪の
女性、
美少女と
言っていいだろう。
しかし
服がボロい。
茶色いシャレッけのないクソ
安い
ミニワンピースだ。
そのくせ
売っているのは、
黒魔術で
使う
呪具の
一種、
黒水晶の
アクセサリーだった。
俺の
事らしい。
確かに
俺は
黒魔術師だから、この
手のものに
詳しい。
付近の
人物で
俺以外に
客だろう
人物は
見えない。
しかし
俺は
目を
見張る。
くそボロい
格好に
似合わない、かなりの
高水準の
黒水晶なのだ。
なのに
値段がバカみたいに
安い。
いや、
店主はバカだろう。どう
見ても
専門店なら
倍以上の
値段はする。
エルフの
美少女は、びっくりしたのだろう
目を
丸くする。
「これ、安すぎる。どう考えても安い。おかしい」
「え、そ、そうなんですか? はうぅ、すみません、よく分からなくて」
顔を
赤くして、
目を
泳がすその
表情は、どこか
愛らしい。
正直俺はびっくりした。
俺はそれをかわいいと
思ってしまったのだ。
第三者的視点を
忘れていた。
「たとえ安すぎても、お客さんがよろこんでくれれば、私もうれしいから、別にいいんです……」
そう
言って、
微笑む
美少女。
俺は、ひと
目でこの
少女を
気に
入った。
見た
目も、
性格も――。
いい
子なのだろう。
近年めったに
見ない、その
邪気のない
笑顔はとても
眩しく
見える。
「ラティア嬢、いいか? これを持って冒険者ギルドへ行って換金してきてほしい」
「はい? なんで私が……ってこれ、ゴーストの欠片、こんなにたくさん」
「そうだ。俺が倒してきた。細かいことは聞くな、お使いクエストだ。成功したら一割やろう」
「いちわり、えっそんなにたくさん、いただけません」
俺は
ゴーストの
欠片の
袋を
持ち
上げ、
ラティア嬢に
押し
付ける。
そのまま
押し
切り、
彼女はなんとか
受け
取って、ふらふら
ギルドの
中に
入っていく。
もし
万が
一、このまま
金貨または
ゴーストの
欠片を
持ち
逃げされたら、それまでだが、
俺の
見る
目がなかったことを
恨むだけだ。
俺は
少し
少女に
正直さを
試すようなことをさせて、
罪悪感を
感じている。
十数分後、
任務を
無事完遂したのか、
満面の
笑みで
ギルドから
出てきて
スキップして
俺に
抱き
着いてくる。
「はいはい、おつかいクエストできました~」
彼女がやっと
離れると、
袋に
入っている
金貨の
山を
見せてくれる。
そして
俺が
適当に
数えて、
一割を
彼女に
渡す。
「えっ、ええっ、本当にこれを私に? 頭、大丈夫ですか?」
「失礼な。約束しただろ。忘れたのか?」
「約束……確かにしましたけど、でも、あんなの。でもでも、ありがとうございます~」
エルフなのに
尻尾をぶんぶん
振る
犬獣人かと
思った。
こんなところも、かわいく
思う。
俺もどうかしている。
彼女曰く、これが
ラティアの
俺との
運命的な
出逢いだった、らしい。