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[総ルビ]海老郎の短編集

6.コーヒーと猫(2800文字)
●タイトル
 コーヒーとねこ -Coffee and Cat-

●あらすじ
高校こうこうせい男子だんし大樹たいきは、きつけの喫茶きっさてん彼女かのじょ出会であう。最初さいしょはぽつぽつしかはなせなかった会話かいわ次第しだいにできるようになってくる。
喫茶きっさてんによくかおねこについていく二人ふたりねこ後押あとおしで、二人ふたりなかはちょっとだけ前進ぜんしんしたのだった。

●本編
 おれすこまえからきつけのきってんがある。コーヒーcoffeeショップshopシルフィードSylpheed』だ。
 高校こうこういえ途中とちゅうからすこしそれたみち沿いにあり、それなりにきゃくいる。
 このあつ七月しちがつおんでは、冷房れいぼういたきってんすずむのにも最適さいてきだった。
 マスターmasterよんじゅうだいのおじさんだけどしぶくてそこもいい。

 高校こうこうねんつうさんくみ山梨やまなし大樹たいきかたはタイキ。
 たくのためゆうほうきってんによって、ひとりカウンターcounterせきすわ一杯いっぱいコーヒーcoffeeたのみ、クラシックclassicのBGMをきながら、エンジョイenjoyしていた。
 しずかに、店内てんないふんたのしみながら、ゆっくりコーヒーcoffeeあじわうのがきだった。
 過去かこけいなのは、いまはちょっとちがたのしみができたからだ。

 おれひだりどなりには、おれおな高校こうこうとなりクラスclassくみ真記まき、マキちゃんがすわっているからだ。
 彼女かのじょ最近さいきん、このきってんにふらりとったらしい。
 そこにはおれすわっていた。だん制服せいふくはまだ学生がくせいふくで、パッとではおな学校がっこうかはからない。
 じょセーラーsailorふく学校がっこうによってしょうなりともデザインdesignがあるから、おれはすぐにおな高校こうこうだとかった。
 いているせきは、一番いちばんすみおれひだりどなりか、おじさんにはさまれてこうがわしかなかった。
 彼女かのじょおれとなりえらんでこしかけた。
 すわると、おれ前側まえがわえるので、こうしょうえる。

「あっ」
「うん、おな高校こうこうだとおもうよ」

 おれはすぐにへんをした。クラスclassしょうもつけているので、どのクラスclassかもかる。
 おたがいに自己じこしょうかいをなんとなくして、そしてだまっているという選択せんたくもあった。
 おれはどちらかといえば、ソロsoloだしコミュcommu-しょうだし、おんな免疫めんえきがないタイプtypeだ。
 でも彼女かのじょは、すこあいだいたあとはなはじめた。

わたし、こういうきってん、あこがれてて」
「ああ」
「それでいままでたことなくてゆうして、ひとりだけど今日きょう、はじめてたんです」
「うん、それはよかった」
「はい」

 これで満足まんぞくしたのかはなしをやめた。
 彼女かのじょメニューmenuブレンドblendホットhotコーヒーcoffeeちゅうもんする。

 しばらくごんきってんないをじろじろしないはんながめたり、ふんたのしんでいた。
 そしてコーヒーcoffeeてきた。
 ミルクmilkとうれてかきぜる。

「いただきます」

 彼女かのじょかるくちだけで挨拶あいさつをして、そっとくちけた。

「あっ、美味おいしい」

 やさしいこえで、そうった。
 おれはなんとへんをすればいいかからないので、とりあえずうなずいておいた。

大樹たいきくんはこのきってん、いつもいるの?」
「ああ、毎日まいにちじゃないけど、たまに」
「そうなんだ」
「うん」

コーヒーcoffeeきなんだよね?」
「そうだな」
わたしき。コーヒーcoffeeもおみせふんも、なんだかき」
「そりゃよかった」

 なんだかなにはなしたらいいかからないけど、こうからはなしてくれるからべつ問題もんだいなかった。
 へんにはこまるけど、相槌あいづちなら適当てきとうでもいいし。

 ぽつぽつ、適当てきとうはなしをして、そしてしずかになる。そのかえし。
 そうしているうちに、きってん外側そとがわガラスglassまえに、ネコがやってきた。

くろネコちゃんがきたね」
「うん」
「あのじょうれんなのかな」
「ああ、よくるな、あのガラスglassまえがおりらしい」
「そうなんだ。お友達ともだちなの?」
「いや」
まえは?」
たしか、ロメオRomeoだったかな」
「ロメオくんね、じゃあおとこかな」
「そうだとおもうよ」
「ふうん」

 ロメオはガラスglassまえまるめてすわり、からだめている。
 あしがっていてにくきゅうえていた。
 くろネコと一口ひとくちっても、じつがあったりする。まずいろ。ロメオは金色きんいろだ。なかにはみどりっぽいもいる。そしてはなにくきゅうれいピンクpinkいろ。どちらもくろのほうがおおい。あとは完全かんぜんくろではなくおなかしろいなんてネコもいる。
 ロメオはしばらくながめたら、どこかへってしまった。
 おれたちもきってんることにした。もちろん彼女かのじょとは別々べつべつだ。


 そんなこんなで、たまにきってんくとマキちゃんとよくうようになった。
 最初さいしょはぽつぽつだったかいも、すこながはなすようになった。

 そんなある今日きょうもロメオがた。

「ロメオ今日きょうたね」
「うん」

 二人ふたりガラスglassしにながめているとロメオがすわったままおれたちのほうをいて「ニャー、ニャー」といた。

「ねぇ大樹たいきくん、なんかロメオんでない?」
めずらしいな、まるでごはん頂戴ちょうだいネコみたいじゃんか」
「そうだね。でもなにようがあるのかな」
「ネコにそんなことないとおもうけど」

 おれたちはてんちょう一言ひとことはなしてからみせてロメオのところにった。
 そうするとどうだろう。ロメオはがって、すこさきすすみ、うしろをかえった。

「なんだかついていってってるみたい」
「そうだな」

 おれとマキちゃんは、二人ふたりかお見合みあわせて、どうするって表情ひょうじょうをした。

「まぁついてってみるか」
「うん」

 おれうとマキちゃんがどうした。

 ロメオは何軒なんけんぶんとおりをすすんでいく。
 そしてうしろをかえってからみぎ路地ろじのほうへれた。

「あ、がった」

 マキちゃんのじっきょうちゅうけいきながらおれたちもついてく。
 路地ろじほそひとどおりもない。

 路地ろじをしばらくすすむと、あたりにいた。

「わぁ」

 マキちゃんはおもわず感嘆かんたんこえげる。
 なるほど、みちあたりはひだりれている。
 そのみち沿いはコンクリートconcreteひくかべになっていて、そのこうがわに、かわえてた。
 そのかわれいみずながれていて、水面すいめんひかり反射はんしゃしてキラキラかがやいていた。
 ロメオはそのコンクリートconcreteかべのぼって、そのうえすわってっている。

「ロメオちゃん、ここにれてきてくれたの?」
「にゃぁあ」

 かっているのかどうか。ロメオがへんをする。
 ネコはだん人間にんげんはなしかっていないふうえるが、たまに本当ほんとうかいしているんじゃないかっていうふう行動こうどうすることもあって不思議ふしぎだ。
 おれとマキちゃんは、そのコンクリートconcreteまえならんでってかわながめた。
 コンクリートconcreteひくぶんはばせまく、おれたちはかなりちか位置いちってないと、二人ふたりることができない。

「あっ」

 マキちゃんがちいさいこえで、反応はんのうする。
 あまりにちかかったので、二人ふたりが、そっとれていた。

「うん」

 なにかけつをしたみたいなこえをマキちゃんがごえでする。
 そのままうごかしてきて、おれみぎをマキちゃんのひだりがしっかりとにぎってきた。
 きんちょうする。ドキドキする。
 マキちゃんはそのつないだを、しき興奮こうふんしているのか、若干じゃっかんゆうにゆすったりする。

 そのうちいてきた。

本当ほんとうに、いいしきだねぇ」

 どこかのんびりと、リラックスrelaxしたこえでそうった。

「うふふ。あっ、きってん、お会計かいけいまだだったね。もどらなきゃ」
「お、おう」

 そうへんするのがせいいっぱいだった。
 もうすこ二人ふたりでこのままでいたい、なんてとてもえなかった。
 まぁ、またればいい、そうおもった。


「おお、二人ふたりともおかえり」
マスターmaster、ただいまです」
マスターmasterおれたち。すみません」

「いいって。お、なになに、どうしたのそれ?」
「それって?」
なんてつないじゃって、まぁ」

「おおっ」
「きゃっ」

 マキちゃんがはなして、ちいさくがってはなれていった。
 すこさびしいがしょうがない。

「ふふ、なんでもありません」

 やさしいかおで、いたずらっぽくうマキちゃんに、おれもマスターも見惚みほれそうだった。

(了)
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