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[総ルビ]海老郎の短編集

4.異世界薬屋で保険事業を始めました(7000文字)
●タイトル
異世界いせかい薬屋くすりや保険ほけん事業じぎょうはじめました

●あらすじ
異世界いせかい転生てんせいしたウィルはれない薬屋くすりや息子むすこだった。
たかポーションpotionはおかねがないひとうことができない。そこでをつけたのが保険ほけん制度せいどだった。ポーションpotion保険ほけん加入かにゅうすればその資金しきんやすポーションpotionうことができるようになるとかんがえた。
その目論見もくろみはあたり、保険ほけんへの加入かにゅうはひっきりなしになりいそがしくなった。そこで奴隷どれい少女しょうじょやとって仕事しごとをさせることにした。その優秀ゆうしゅうギルドguild薬屋くすりや協会きょうかい、そして教会きょうかいとちょっとめるものの、うまくいくようになる。

●本編
 日本にほん普通ふつうんでいたがおれ不幸ふこう事故じこんでしまった。
 転生てんせいさき異世世界せかい薬屋くすりや一人ひとり息子むすこだった。
 そして十五じゅうごなつおれ前世ぜんせ記憶きおくおもした。

「おい、ウィル、ウィル、今日きょうなにをするんだい」

 おれ――ウィルは今日きょうなにをしたらいいかからない。
 うちは薬屋くすりやだ。いわゆるポーションpotionだった。
 傷薬きずぐすりぐらいなら近場ちかば薬草やくそう調合ちょうごうするだけでできるので安価あんか大量たいりょうれるから、なんとかぎりぎりの生活せいかつはできていた。
 しかし本当ほんとうにぎりぎりなのだ。
 効果こうかたかポーションpotion材料ざいりょうたかいので結果けっかとして高価こうかになり、どうしても需要じゅようがあまりなく、今日きょうもすることがもうなにもなかった。

 一般いっぱん庶民しょみんはちょっとおおきな怪我けがをしても、ポーションpotionうほど余裕よゆうがないいえおおい。
 それはこのまち、バイブルンがちゅうくらいの規模きぼまち特産とくさんひんもなく、景気けいきわるいということにも関連かんれんしていた。

 しかしおれはこのまえ前世ぜんせ記憶きおくもどしたのだ。
 そう記憶きおく知識ちしきでもある。前世ぜんせ享年きょうねんさんじゅっさいおれ日本にほん発展はってんした教育きょういくまなび、日本にほん一般いっぱんてき知識ちしきぐらいはっていた。

 ポーションpotionたかくて、ってくれるひとすくない問題もんだい

 これの対処たいしょ方法ほうほうがすぐにあたまかんできた。日本にほんでは社会しゃかい保険ほけんというものがあった。
 健康けんこう保険ほけんのことだ。
 年金ねんきん制度せいどのほうは制度せいどがクソだといわれていたが、健康けんこう保険ほけんのほうはそこまでわるくない制度せいどだった。

 薬屋くすりや会員かいいんつのり、健康けんこう保険ほけんはじめれば、おかねがたくさんないひとでも公平こうへい緊急きんきゅうポーションpotionませることができるとかんがえたのだ。

 しかし健康けんこう保険ほけんは、ちょっと知識ちしきがあるだけでも簡単かんたんではないとすぐにわかった。
 まず、冒険ぼうけんしゃとかいう存在そんざいだ。かれらはモンスターmonster戦闘せんとうをよくするので、ポーションpotion需要じゅようおおい。
 一般いっぱん市民しみん冒険ぼうけんしゃおな値段ねだん健康けんこう保険ほけんはいると、当然とうぜん市民しみんこまるし、赤字あかじになったらおれ一番いちばんこまる。
 じゃあ値段ねだんえるとして、いくらにしたら黒字くろじ経営けいえいになれるか、どうやって試算しさんしたらいいんだろうか。
 かなりの難題なんだいだった。

 ひとまずかんがいたのは、一般いっぱん健康けんこう保険ほけん冒険ぼうけんしゃよう健康けんこう保険ほけんべつつくるということだ。それぞれで採算さいさんせい計算けいさんすれば、そこそこ公平こうへいだろう。たぶん。
 冒険ぼうけんしゃようむずかしそうだということがかったので、ここでは保留ほりゅうとする。

 そもそも、ここバイブルンは村々むらむらかこまれている交易こうえき中継ちゅうけい地点ちてんなので、モンスターmonsterがあまりいなくて、冒険ぼうけんしゃかずすくない。交易こうえき護衛ごえいすこしいるくらい。
 だからポーションpotionもあんまりれない。

 でだ。一般いっぱん市民しみんであっても危険きけんなことは色々いろいろある。馬車ばしゃかれたりするし大工だいく仕事しごとなど最初さいしよからやや危険きけん仕事しごともいくつかあるとおもう。

 まずおや仕組しくみを説明せつめいしたが怪訝けげんかおをされただけでスルーthroughされた。

「というわけで、薬屋くすりや健康けんこう保険ほけん加入かにゅうしてくれれば、積立つみたてきんちかいけど積立つみたてわらなくても会員かいいんポーションpotionやすうことができるんだ」

 何回なんかい説明せつめいしたらおやもなんとなく理解りかいしてくれたようだった。
 結局けっきょく有料ゆうりょう会員かいいんサービスserviceはいるとやすえるという説明せつめいになった。
 これなら商業しょうぎょうギルドguildとかの仕組しくみにちかいものがあるので理解りかいしてもらえるようだ。

 おれ必死ひっし近所きんじょひとおれ友達ともだち家族かぞくとか身近みぢかひとから次々つぎつぎなんとか説得せっとくして会員かいいんすこしずつではあるがやしていった。
 もちろんかたくなにそんな余裕よゆうはないとっぱねるひとたちもいた。

大変たいへんだ。大変たいへんだ。おれ親父おやじちてきた木材もくざいたっておお怪我けがしちまった。たすけてくれ」

 はしんでたのは友達ともだち一人ひとりだった。かれ一家いっかはたまたまおれ保険ほけん加入かにゅうしていたのだ。

 おれポーションpotionセットsetって現場げんばはしった。

「い、いてえ。これじゃあ当分とうぶんはたらけねえ」

 友達ともだち親父おやじ高価こうかポーションpotionせる。
 そして値段ねだん本来ほんらいさんわりであるとげた。

たしかにまえ説明せつめいされたとおりの値段ねだんだが、本当ほんとうにいいのか?」
いんです。そのための保険ほけんですから」
たすかる。かたじけない」

 こうして骨折こっせつしていたおじさんはポーションpotion回復かいふくし、またすぐはたらけるようになった。

 そんなことがあれば、すこしはおおきいまちだとはいえ、世間せけんせまい。すぐに保険ほけんうわさになり、加入かにゅうしゃ一気いっき倍増ばいぞうした。
 うちは書類しょるいやまでてんてこいになった。


 怪我けがりつおもったほどではなく、最初さいしょ契約けいやく次々つぎつぎえて、うちの薬屋くすりや大金たいきんまいんできた。
 ごはんもちょっぴり貧乏びんぼうめしから普通ふつうぐらいのグレードgradeのものがべられるようになったのがなによりのたのしみだ。

「なあウィル、最近さいきん仕事しごといそがしいだろう」

 うちの薬屋くすりやぎょうは、営業えいぎょうそとくことはほとんどなくなり、高価こうかポーションpotion製造せいぞう事故じこ現場げんばなどへの出張しゅっちょうぐらいになった。
 それでもきゃくがどんどんとくるから非常ひじょういそがしかった。おれ人生じんせい一番いちばんはたらいた。

「それでだ。だれかをやとうというのもかんがえたんだが」
「ああ、おやじやとえば? それならおれたすかる」
「そうなんだけどな、ちょっと奴隷どれいおうかとおもってる」
奴隷どれいっすか」
「そうだ」
「なんで奴隷どれいなんか」
「ただのアルバイトarbeit大金たいきんどくすぎる」
たしかにな」

 奴隷どれい。この世界せかいにも奴隷どれい制度せいどがちゃんとある。
 一番いちばんおおいのが借金しゃっきんなど現金げんきん収入しゅうにゅうとしてられた子供こどもたちだ。
 一番いちばん値段ねだんたかいのはおれおな十五じゅうごさいぐらいの
 健康けんこう保険ほけんがなかったころは、一家いっか父親ちちおやにそうな怪我けがなおすために子供こどもってくすりう、なんてことも何回なんかいてきた。
 おれはそういうのもくしたかったんだ。

「だから明日あす奴隷どれいしょうのところへ一緒いっしょって、えらんでこよう」
「わかった」

 翌日よくじつおれとおやじで奴隷どれいしょうのところにきた。

「いらっしゃいませ~。今日きょうはどのようなをご要望ようぼうでございましょう」

 ふと気味ぎみ五十ごじゅうくらいのおっさん店主てんしゅは、をモミモミしてせまってきた。

「あのまちぐらいの計算けいさんができるかんじかな、おやじ? あとは?」
「おう。あとはこいつ、息子むすこのウィルに『ちょうどいいの』をえらんでほしい。ウィル。条件じょうけんなかから、予算よさん範囲はんいないきなえらんでいいぞ」
「ちょ、おやじ!」

 このまちではじゅく流行はやっていて、ほとんどの簡単かんたん計算けいさんぐらいはできる。

「ほうほう。息子むすこさんのお世話せわをさせる要望ようぼうですな」
「そうです」
「では、おんながいいですかな」

 そういわれて、おれかおのぼるのをかんじた。おんなおれにあてがわれるんだから。
 ちょっとよるのことをかんがえてしまった。
 だってお世話せわってそういう意味いみだろ。

 店主てんしゅ下働したばたらきに要望ようぼうつたえて、奴隷どれい少女しょうじょたちじゅうにんばかりをれてきた。

「どうですか。どのもかわいいばかり。計算けいさん基本きほんはできるばかりですよ」

 たしかにどのもそれなりにはいい。
 ただあさのぼろいふく一枚いちまいっきりで、ちょっと元気げんきがないばかりだった。
 彼女かのじょたちのくびには奴隷どれい首輪くびわがはまっている。

 全員ぜんいん自己じこ紹介しょうかいをした。
 うえ十七じゅうななさいした十二じゅうにさいまでで年齢ねんれいにははばがあった。
 容姿ようしもおっぱいがおおきいからちんちくりんのちいさいまでいろいろだった。
 ちいさいもまだ成長せいちょうはするだろう。

 このたちのなかからおれ奴隷どれいう。そうおもうと責任せきにん重大じゅうだいだ。
 およめさんとんでいいかは微妙びみょうだ。
 近所きんじょおんなたちだって、何人なんにんいはいる。ただったり男女だんじょなかになるような一人ひとりもいなかった。
 みんなそれなりにいそがしい。ひまなのはおれくらいだったのだ。

 そのなかから、おれえらんだのはさんばんだ。
 年齢ねんれいおれおな十五じゅうご金髪きんぱつ碧眼へきがんしろはだ可愛かわいまるかおつき。やさしくて純真じゅんしんそうな白魚しらうおのようなひくめ。そしておっぱいがそれなりに主張しゅちょうしている。

「じゃあさんばんが、いいです」
「わあ。わ、わたしですかっ」

 こえすずのようなりんとしたたかんだこえ。このこえとくきだった。
 彼女かのじょうるませて、両手りょうてまえんで、しんじられないというような反応はんのうだった。

「クスティーナだな。奴隷どれいがわ選択せんたくけんはないから、指名しめいされたら決定けっていだ」
「はいっ! ああの、よろしくおねがいします」

 礼儀れいぎただしくあたまげるクスティーナちゃん。そうすると袈裟けさくびまわりがひろがって、なまおっぱいのふくらみが半分はんぶんえていた。
 おれ凝視ぎょうししてしまったが、いてをそらす。

「あっ、きゃっ」

 彼女かのじょこえげていそいでばして、むね両手りょうてかくしていた。

なにをしているクスティーナ。おげのまえに、全身ぜんしんせなさい。あと傷物きずものだったとかクレームclaimをつけられるとこまるんでね」
「そんな、奴隷どれいしょうさま
「ささ、そんなふく、さっといで、素肌すはだをおせしなさい。でないと手続てつづきをすすめられない」
「は、はい……」

 クスティーナがゆっくり、そっとあさふくぐ。
 それはもうピカピカのきれいなからだだった。やわらかそうな曲線きょくせん本当ほんとうにきれいだ。
 クスティーナはずかしそうにほそめていた。
 文句もんくけどころなんてあるわけなかった。

 こうしてクスティーナをげた。

「ではおう」
「おげありがとうございます」
「そうだ。まずはふくわないと」
普通ふつうグレードgradeふくでしたら、いっちゃくサービスserviceいたしますよ」
「それはたすかるよ」

 こうしておれたちにられながらクスティーナは自分じぶんあたらしいふくた。
 ふく普通ふつうまちおなじだけど、首輪くびわかくしようがない。かくしてはいけないのだ。

「じゃあいこうか、クスティーナ。おれはウィルだ。よろしくね」
「よろしくおねがいします。ウィルさま。――ご主人しゅじんさま

 おれよりひくいクスティーナはそと世界せかいこわいようだ。

「あの、失礼しつれいします」

 そういうとおれうでってからだをくっつけてくる。
 うでにおっぱいがたって、あたたやわらかい。
 びくびくしているクスティーナにはわるいけど、なんだかしあわせだ。

 クスティーナは美人びじんだ。どちらかというとかわいいかおだけど、非常ひじょうととのっている。
 そんな奴隷どれいで、おれにべったりだと、さすがにまわりに注目ちゅうもくされた。

 クスティーナをれてかえり、みんなでごはんべた。
 奴隷どれいだからべつとかはない。

「こんなに贅沢ぜいたくなごはんを、ありがとうございます」

 地面じめんあたまくようないきおいで、おれたちにおれいってきた。
 ごはんはバクバクそれはもうびついて、おいしそうにべていた。こっちまでなんだか微笑ほほえましくなる。

 クスティーナよう布団ふとんセットsetとかってあるわけもなかった。
 おれ一緒いっしょ布団ふとんはいり、二人ふたりる。
 おれはもう心臓しんぞうがばくばくいっていた。

やさしいご主人しゅじんさまでよかったです。すごくうれしいです。布団ふとんあたたかい。ご主人しゅじんさまのいいにおいがして、あたたかいです」

 そういうとそっとからだせてきて、そしてほっぺにチューをしてきた。

「ふふふ、うれしいです」

 そういうとクスティーナはねむってしまった。つかれていたのかもしれない。

 クスティーナはおもった以上いじょう優秀ゆうしゅうだった。
 まず計算けいさん完璧かんぺきだった。
 そしてきゃくあつかかた上手じょうずだった。とくおとこたちは彼女かのじょ魅力みりょくにメロメロで、契約けいやくはぐずぐずするきゃくはほとんどいなくて、ほとんどクスティーナにわれるがまま保険ほけん契約けいやくをしておかねはらっていった。
 そして首輪くびわをしているので奴隷どれいとわかるクスティーナにチップtipまではらっていく。
 奴隷どれい基本きほんてき無給むきゅうなので、チップtip唯一ゆいいつ個人こじん資産しさんなのをみんなっているのだ。

 こうしてめちゃくちゃいそがしかった仕事しごとがクスティーナにだいぶまかせられるようになり、いち段落だんらくした。

 しかし事件じけんはやってくる。

「おい、冒険ぼうけんしゃ相手あいてには健康けんこう保険ほけんとやらに加入かにゅうできないってのは、どういうことだ。おれたちにもれさせろ。ポーションpotionたかいんだよ、このやろう」

 そう冒険ぼうけんしゃよう健康けんこう保険ほけん後回あとまわしにしていたため、いままでことわってきた。それがついに我慢がまんできなくなったらしい。
 おれ仕方しかたがなしに、冒険ぼうけんしゃよう健康けんこう保険ほけん事業じぎょうはじめることにした。
 かけきん一般いっぱんけのばい設定せっていしてみた。
 いま一般いっぱんけはかなりの黒字くろじをたたきしていて、すこきんぎのようながしているので、これくらいでちょうどいいはずだ。

 当然とうぜんのように、冒険ぼうけんしゃギルドguildだまっていなかった。
 そして薬屋くすりや協会きょうかいだまっていなかった。

 ここ最近さいきん、うちの薬屋くすりや保険ほけん契約けいやくでその適用てきようけるため、まちひとポーションpotion場合ばあい、ほぼうちの独占どくせんになっていたのだ。
 そうしたらほか薬屋くすりやはおまんま状態じょうたいになるところだった。

 こうして冒険ぼうけんしゃギルドguild薬屋くすりや協会きょうかいおれたちのさんしゃ協議きょうぎ結果けっか保険ほけん管理かんり薬屋くすりや協会きょうかい独占どくせんし、利益りえき冒険ぼうけんしゃギルドguild薬屋くすりや協会きょうかい、そして薬屋くすりや各店かくてん分配ぶんぱいすることというのが、決定けっていした。
 クスティーナはおれたちがはじめたことだから、独占どくせんけんがあると主張しゅちょうしてゆずらなかったが、奴隷どれいのいうことをまともにいてもらえるはずもなく、利益りえき分配ぶんぱいとなった。
 まだ薬屋くすりや各店かくてんぶんのこっているだけでもマシというところだとおれおもう。

 いままでよりも高価こうかポーションpotionはたくさんれている。
 それだけでも利益りえきまえくらべるとばいちかい。

 それにおれ不安ふあんがあった。
 本来ほんらい保険ほけんにはまんいちのために「保証ほしょうになる大金たいきん必要ひつよう」なのだ。
 だから日本にほん保険ほけん会社がいしゃなんおくという準備じゅんびきん資産しさんっている大手おおて会社かいしゃしかなることができない。
 異世世界せかいではそういう常識じょうしきがなかったので、おれたち貧乏びんぼう薬局やっきょく自転じてんしゃ操業そうぎょうはじめることができた。
 もしまんいち自転じてんしゃ操業そうぎょうちゅうまちだい事件じけんがあり、ポーションpotion大量たいりょう必要ひつようになったらうちではとても対応たいおうできないところだった。
 だからギルドguild薬屋くすりや協会きょうかいのようなおおきくておかねもあるところ事業じぎょううしだてになっていてくれるなら、ねがってもないことというふうかんがえることもできる。

 ついでに面倒めんどうくさいことはほとんどをギルドguildなどに丸投まるなげすることにした。
 冒険ぼうけんしゃギルドguildでは、まち所属しょぞく冒険ぼうけんしゃはぼぼ保険ほけん契約けいやく必須ひっすとされた。そのぶん加入かにゅうしゃえる。

 まち住人じゅうにんギルドguild協会きょうかい主催しゅさいになったので、安心あんしんしていままで加入かにゅう消極しょうきょくてきだったひとたちも保険ほけんはいってくれるようになってきた。
 なかにはうちのみせのクスティーナと会話かいわすることが目的もくてきで、なんでもないのに何回なんかいみせにやってくるおじさんとかもいる。
 うちはキャバクラとかではないんで、はやかえってほしい。

「ボルブさん、ようもないのにわたしいにてくれるのはうれしいけど、仕事しごと邪魔じゃまです。あんまりしつこいと出入でい禁止きんしにしますよ」
「そんな、クスティちゃん。ひどいよ。おれはキミと仲良なかよくしたいだけなのに」
「うれしいけど、メッですからね。たまにならいいですけど、連日れんじつはダーメです。はい、わかりましたね?」
「う、うん。わかりました。最後さいごになでなでして」
「しょうがないですね。はい、なでなでー」
「ううう。ありがとう。じゃあね」

 しぶしぶ退散たいさんしていくボルブおじさん。
 いいとしして、十五じゅうごむすめになにやってんだか。

 おれ怪我けが現場げんば急行きゅうこうすると「なんだクスティーナちゃんじゃないのか残念ざんねん」とかわれる始末しまつだ。
 クスティーナは最近さいきん聖母せいぼかくやというかんじにみんなのやさしいおねえさんなのだった。
 ほかのおじさんたちもちょくちょくみせにクスティーナにあまえにる。こわい。
 おくさんの愚痴ぐちだったり。
 それをクスティーナは笑顔えがおときには真剣しんけん表情ひょうじょういてあげている。

 いっそのこと、クスティーナとの相談そうだんじょつくって有料ゆうりょうにしたほうがいいかもしれないとおもえるほどだった。
 奴隷どれいおれ主観しゅかんえらんだんだけど、大当おおあたりをいたようだ。

 もちろんよる、クスティーナにあまえられるのはおれだけなんだぜ。ふふふ。
 ご主人しゅじんさま特権とっけんはすばらしい。
 おっぱいにかおめたり、あたまをなでなでしあったり、いつも二人ふたりでいいことをしている。
 クスティーナは本当ほんとういやされる。とってもいいだ。


 そんなこんなで平和へいわ日々ひびだったが、また事件じけんだ。
 今度こんど教会きょうかいだった。

「クスティーナさま解放かいほうし、教会きょうかいしなさい」

 まち教会きょうかい神父しんぷたちだった。教会きょうかい勢力せいりょくには騎士きしだんなどもあり、おお人数にんずうではないけど戦闘せんとうしょくもいる。

「クスティーナさまポーションpotionまずしいひとたちにやす開放かいほうし、まちおとこたちのなやみをき、そしていやしてくれる素晴すばらしい女性じょせいだときます。それを奴隷どれいだなどと。いますぐ、奴隷どれいから解放かいほうし、そして教会きょうかいでおあずかりするにふさわしい聖女せいじょです」

 神父しんぷ半分はんぶん血迷ちまよったようなことをってくれる。
 これにはおれもどう対処たいしょしたらいいかからない。現代げんだいではむかしよりも教会きょうかいちから絶大ぜつだいとはいえないけど、それでも一定いってい地位ちいっている。
 それにさからうというのは、結構けっこうきびしい。

 おれみせまえ対応たいおうしていると、なかからクスティーナがてきた。

教会きょうかいみなさまこんにちは」

 クスティーナがあたまをしっかりと笑顔えがおであいさつをすると、教会きょうかいおとこたちもみんな、ほおゆるめてだらしのないかおになっていた。
 こいつらもすっかりクスティーナきょう信者しんじゃらしい。

「クスティーナさま、おうるわしゅう。奴隷どれいなどという身分みぶんにされてしまい。いますぐ開放かいほうしてげますからね」
「いえ、教会きょうかいみなさま。わたしは、いいのです」
「よくありません」
「よくいてください。わたしたちはたしかに奴隷どれいです。でもこれはたんなる契約けいやくなんです。保険ほけん契約けいやく一緒いっしょなんです。奴隷どれい契約けいやくわたしなにこまっていません。ウィルさま、ご主人しゅじんさまわたし大切たいせつに、やさしくしてくれます。わたしは、いま地位ちい奴隷どれいでも十分じゅうぶんに、いえ十分じゅうぶんすぎるくらいしあわせなんです」
「なんと、しかし奴隷どれいですぞ」
神父しんぷさま奴隷どれいだからとしたるのですか?」
「それは奴隷どれいであるし……」
わたし一般いっぱん市民しみんよりもさい下層かそう奴隷どれいであると、そううんですね、それをうえから解放かいほうしてやると」
「そんなつもりはクスティーナさま
だい丈夫じょうぶです。わたし奴隷どれい契約けいやくでご主人しゅじんさままもられているんです。このきずなはなくしたくないんです。親切しんせつはうれしいですけど、ごめんなさいね」
「は、わかりました。クスティーナさま今日きょうは、これにて失礼しつれいします」

 クスティーナはおれのこと、大切たいせつにしてくれるご主人しゅじんさまだとおもってくれてるんだな。
 すごくうれしかった。
 もちろん、このよる二人ふたりでたくさんなでなでした。


(了)
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