設定を選択してください。
[総ルビ]海老郎の短編集
11.好意3000倍、幼馴染に使う(2000文字)
●タイトル
固有スキルは好意3000倍、間違って幼馴染に使う
●あらすじ
間違って俺の固有スキル「好意3000倍」を幼馴染に使ってしまった。普通なら戻るはずが彼女はずっとそのままでそれ以来好き好き光線を浴びせてくる。しょうがないのでそれ以来付き合っていて一緒にダンジョンにもぐりレベルを上げてスキルが制御できるようになるのが目標となった。そんな俺と彼女のダンジョン&ラブコメ&現代ファンタジー。
●本文
俺は斉藤歩夢。十六歳。
この世界にいつの間にかダンジョンが出来て十年。
みんな当たり前のように以前からダンジョンがあったような風に気にしていないが、俺はずっと気になっていた。
他の人の認識では前からあったような気がするらしい。
実際、徐々にダンジョンの数は増えていき、今では家の近所にもある。
そしてダンジョンで戦闘をするとレベルが上がる。
レベルが上がるとスキルを覚えることがあった。
俺がスライムとゴブリンばかりを倒してレベル10に到達したとき【好意3000倍】というレアスキルもしかしたら固有スキルを取得した。固有スキルは英語でユニークスキルともいう。
「アユム君、好き好き、結婚、結婚しよ、はやく」
「あぁ十八になったらな」
「待ちきれない。私、キュンキュンしちゃう」
「まったく、マユはすぐそうだ」
「だってアユム君のこと好きなんだもん」
誰はばかることなく、俺に好き好き光線を浴びせてくる。
俺は一つ過ちを犯した。
そう、三河真由、十六歳。俺の幼馴染。
軽い気持ちで好意3000倍をマユに使ってしまったのだ。
どうせ状態異常なので他のスキル同様、効果は十分くらいだろうと高を括っていたのだけど。
永遠効果があるなどと思っていなかった。
それ以来、好き好き光線は留まることを知らない。
マユと手を恋人つなぎでがっちりつないで登校する。
高校へ行かないといけない。
毎朝のことでもう慣れたとはいえ、さすがにマユが迫ってくるのが衆人に晒されて、なかなか精神にくるものがある。
「放課後はダンジョンにもぐるぞ」
「うん。アユム君のしたいこと、なんだってしていいんだよ」
「そ、そうか」
「もちろん、あんなことも、こんなことも」
そういって胸をギュッと押し付けてくる。
もとから俺への好意はいくらか高かったのだが、3000倍のせいで天井を突き抜けていた。
「キスしたくなってきちゃった」
「え、路上でか?」
「うん。今すぐじゃないとヤダ」
「しょうがないな、さっとだぞ」
「うん」
こっちに顔を向けて口を突き出してくる。
チュっとキスをすると、顔をこれでもかと真っ赤にして頭が沸騰したような顔になった。
3000倍でもまだまだマユは初心そのもので、好き好き光線を向けてくるものの「行為」そのものは、あまり進展がなかった。
これは元から彼女が奥手であることと関係あるのだろう。
そんな清楚なところも俺は好きだった。
「んふふふ、キスしちゃった。キスしちゃった」
「お、おう」
「アユム君の唇、柔らかいの。大好き」
「俺も好きだぞ」
「えへへへ、うれしい、天国に行っちゃいそう」
こうしていると幸せそうだ。
なんだか危ない薬品でも使っているのかという気もしないでもないが、全部俺のスキルのせいなのだ。
そういう意味では罪悪感もある。
本来の彼女は、手をつなぐのも、恥ずかしくてできない。
でも俺のことがほんの少し好き。気になって気になって仕方がない。
でも、でも、だって……。
みたいな子だった気がする。
もはや恋は盲目という病気になってしまったように見える。
学校に着いたら、授業を受ける。
後ろからすごい視線を感じる。
彼女とは同じクラスで、彼女の席は俺より後ろ側だ。
一日中、ノートはちゃんと取ってはいるようだけど、一秒でも暇さえあれば俺を見ている。
その執着心は怖いほどだけど、やっぱりこれもスキルのせい、なのだろう。
当然のようにお昼は彼女の手作り弁当だ。
何が入っているか分かったものではない、のだけど断ると、ワンワン泣いて手を付けられなくなる。
最初、ちょっと怖かったので断ろうとしたら大変なことになった。
ちなみにこの好意3000倍のスキル、本当なら「俺が意識すれば」効果がなくなる。
敵に使っても手足のように扱うことができる。
一種のテイマーと同じだ。
そして効果を切ってからそいつも倒してしまえば、全部元通り。
そのはずなんだけど、幼馴染には効果がなくならないのだ。
どう頑張っても、俺のことを好き過ぎて、元に戻らない。
前はこんな子ではなかったはずなのに、どうしても以前のようになってくれなかった。
悪い気はしないものの、怖いといえば怖い。
元に戻してやりたい。
俺は制御できるようになることを夢見て、日々ダンジョンにもぐってレベル上げをしている。
もちろんマユも一緒についてくるといって聞かない。
彼女が「私が守るんだ」と言って前衛をしている。
俺はどちらかというと魔術師なので、ファイアとかアイスとかウォーターとかを使っている。
とにかく、そんな感じで日々は構成されていた。
ダンジョンにもぐって敵を倒し、おかしくなってしまった彼女を元に戻したい。
戻ったうえで俺のことが好きなら、幼馴染のマユと普通の恋がしたい。
そう願っている。
X(Twitter)で共有する