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爆弾魔の夢想(テスト投稿)
夢
なんでもできると思えた少年時代。目に映る全てに心を踊らせ、一瞬を楽しんだ。目まぐるしく移り変わる景色は万華鏡のよう。今では懐かしむことしかできない、その景色……。
僕は、馬鹿ではないよ。だから分かる。取り戻せない時間は沢山あること。足掻いたって、何をしたって、どうにもならない。懐かしい景色に思いを馳せれば、擬似的にその瞬間に戻れるとも言えるが、夢が覚めればそれは終わりだ。
ただ、輝かしい無垢の時代や、瑞々しい青の時代が恋しくて、逆に今の暗澹とした生活が憎いのだ。
――ベッドの上。
いつもなら囂しく、私の二度寝を妨げる彼らの歌――小鳥の囀りが無い。ノン・ストレスな代わりに、少し不気味である。ところで、今は何時だ?
うつ伏せのまま、寡黙な置時計を確認してみた。
突然、現実という鈍器で顔面を殴られた。私は急いで飛び起きる。寝室を出て階段を駆け下りた。
今日は平日。仕事というものがあるだろう。何を呑気に寝ている! 自分を叱咤しつつ、朝食にもならないコーヒーを流し込む。それからまた、階段を登り、着替えなければならない。間に合う算段など、最初から無い。
スーツを着た。少し皺がある。鞄は中身を確認せずに、乱暴に掴んだ。正直、今日はずっと寝ていたい。
家を出る。閑散とした住宅街は今日も平和だ。楽しいこともなければ、危険なこともない。悪くいえばあまりにも退屈。
十数分歩けばバス停に着く。そこから駅へ。電車に少し揺られれば、高楼の立ち並ぶ大都市が見えてくる。
――さっきから、謎の衝動が僕を支配していた。
車窓からビルが見えた。不規則に揺れる車内だから、規則正しい街並みも歪んでいる。田舎から上京中してきた若者などは、その景色を見て気持ちを大いに昂らせるのだろう。僕にとっては実に詰まらない。低質な映画を見ている気分だ。いや、それ以下か――、僕の人生はいつも。
鞄の中には数枚の資料と、ノート型のパーソナル・コンピュータ。まあ、最低限。何か足りない気もしたが、正直、どうでも良かった。それより……。この衝動は、何だ? さっきから段々と強くなってきている、この。今にも暴れだしてしまいそうな。
それから、僕は数分だけ電車に揺られ、ある駅で下車した。一般的な通勤時間は既に過ぎているため、プラットフォームはそれほど賑わっていない。
駅の構内に長居したくはなかった。あまり好きではない。僕は急いだ。
ビルが見えた。様々な店舗を内包した、複合型の商業施設だろう。その隣が、僕の目的地。会社。
その時、漸く謎の衝動の正体が分かってきたような気がする。会社の立派なビルを見て、強い憎しみを覚えた。
僕の手に握られているのは、ずっしりと重みのある包だ。これは、吃驚箱。とっておきだよ。僕は、これを会社にお届けするんだ。それから、仕事なんて諦めて、逃げる。僕だけね。他の社員は、精々、残り少ない人生を仕事で無駄にするがいい。
三十分後には、どうなると思う?
轟音と炎が、僕の苦痛の根源を壊す。すっきり、ハッピーエンド。――と、なったら良いのにな。久しぶりに夢想してみた。年甲斐も無く。爆弾なんて持ってないよ。面倒くさいけど、遅刻したことを謝って、これから頑張るしかないね。今回でクビかも知れないけどね。
夢を見るのも大概にした方が良い。
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