「――なんとしてでも、踏みとどまれ! 正規軍が来るまで本陣を死守せよ!!」
「ええい、うるさい奴め! そんなことは元よりわかっている! それでもやるんだ! 敵本陣から援軍が来る可能性がまだあるのだぞ! 死にたくないなら可能な限り奴らの頭数を減らせ! 減らせ! 減らせぇ!!」
シャドウが
退却したおかげで、ネロの
率いる
本陣は
後方の
迎撃に
集中できるようになった。
だが
攻撃隊に
参加したメンバーは、
誰一人帰ってきていない。
相手が
悪かったことを
考慮しても、
本陣が
孤立無援に
陥ったというのは
本来なら
一番避けるべき
状況であった。
イングリットも
急ぎ、
護身用の
拳銃を
握る。
実銃は
訓練でしか
撃ったことがないが、
生き
残るためにはネロの
言う
通り、
戦うしかない。
自分の
身は
自分で
守る、
参謀とは
言えどもそれを
覚悟した
上で
彼女は
冒険者になったのだ。
――
本陣の
防衛は、
熾烈な
戦いを
極めた。ギルドの
精鋭と
言えども、
強力な
大型鳥形魔物の
数々には
苦戦を
強いられ、
死傷者は
着々と
増えていく。
そして――イングリットにも
死のかぎ
爪が、
迫ろうとしていた。
やってきたグリフォンは、
一際大きかった。
拳銃を
撃ちまくるが、かすりもせずにあっという
間に
弾切れ。スピードリローダーを
使ってすぐに
再射撃するものの、
累計12
発の
弾丸は
敵に
致命傷を
与えることはできなかった。
恐慌状態になり、
残りの
弾をリロードする
手つきが
震えていた。リボルバー
拳銃は
比較的連射が
効くものの、
一度撃ち
終わったらスピードリローダーを
考慮しても
再装填に
時間がかかる。それすらも
使い
果たせば、それはもうただの
鋼鉄の
飾りにすぎない。
死のかぎ
爪が、ついに
彼女の
喉元まで
迫った。
恐怖心が
完全に
決壊した、その
時だった。
かぎ
爪と
喉元が
血に
染まるより
先に、
火薬が
弾ける
音が
響き
渡った。
泣き
顔のイングリットが
目を
開くと、そこには
頭を
正確に
撃ち
抜かれたグリフォンが
墜落していた。
銃声が
聞こえた
方向を
向くと、そこには
黒い
鎧を
着て、
白く
長い
髪を
後ろから
出した
仮面の
騎士が、
拳銃を
握っていた。
銃口からは
硝煙が
昇っており、
足元には
一発だけ
空薬きょうが
落ちていた。
――そう、この
騎士はイングリットを、たった一
発の
弾丸で
救ったのだった。
――だが、イングリットはそれよりも
驚いたことがあった。
「もう少しで共和国軍が救援に来る。それまで持ちこたえるんだ」
そう、
男だと
思っていた
仮面の
騎士から
発せられた
声は、
明らかに
女のものであった。
仮面の
騎士の
援護により、イングリットはその
後しばらく
持ち
直すことができた。
そしてとうとう、
本陣にトリスト
共和国陸軍所属『アイアンクロス
大隊』が
現れた。
『こちら、アイアンクロス大隊所属、アネット・ピッケンハーゲン少尉です!』
――
現れたのは、
新型軍用のゴーレム。
『大隊長の命令により、アーティフィシャルメイジを用いて先行しました!! これより周辺の警戒及び負傷者の救護に当たります!!』
想定より
早くやってきた、
予想外の
救援を
見上げるギルドの
冒険者達。
共和国軍が
搭乗型のゴーレムを
秘密裏に
開発していることはギルドでも
噂になっていたが、それが
救援部隊として
実際に
現れるとは
誰も
思っていなかったようだ。
『あなた達はアイアンクロス本隊と合流してください! 衛生兵の準備はできています!!』
「……助かります。今の私達に戦闘を継続する余力は既にありません」
――これにより、ギルドと
共和国軍の
共同作戦である、ホワイトエンペラー
要塞攻略作戦は、まだ
前半戦が
終わったばかりだが、ひと
段落がつくことになった。