第一試験に関する説明が、一通り終わった後。受験者達は自由行動の時間に入った。
入団試験といっても、そんなに堅苦しいものではない。採用側が求めるものは、力と知恵、そして勇気の三つ。
知恵だけを試す学校の試験と比べたら、活気があって当然である。
――だが、リデラードはそんな雑踏をかき分けて、ある場所へ一人向かっていた。己の母の方だ。
とうとう彼女、母レウルーラを見つけた。
試験監督の席に、姉イングリットと共に座っていた彼女の方へ、リデラードは全力で走った。
久々に対峙した、母と娘。今までわがままで苦しめてきた娘と、それから逃げ出した母の両者が対峙する。
「……今の私は、お前をはじめとした受験者を監督する試験官。たとえ親族が相手でも、受験者と個人的な会話をしてはならない立場じゃ」
レウルーラは、はやくももっともな理由でリデラードを煙に巻こうとした。
知らない間に、ずいぶんと遠くに行ってしまった己の母に、戸惑うリデラード。自分と共にいたときよりも、元気になった姿。それ自体は何も疑問はない。
「……じゃが、一人の母として、これだけは言わせてもらう」
だが、彼女が驚いていたのは、母がこのようにギルドの重大な職に知らない間についていることだった。
「今回の試験は、まず最初にお前の一番苦手なことを試験することにした」
――その試験の内容とは。受験者同士で協力しあい、四人以上十人以内のチームを作ること。
「昔のままのお前だったら、絶対合格できないじゃろう。立ち直ると決意したなら、見事合格してみせよ」
この試験、一見リデラードにとって「姉よりは向いている」ように見えるかもしれない内容だが、実際は間違い。
時間以内ならば、信頼しあえないと判断した仲間はいつでもメンバーから外すことが認められているからだ。
姉のイングリットなら、最初の仲間を手に入れるまでのハードルは高くても、時間が経つごとに持ち前の真面目さを買ってくれる人が多く出ることだろう。
つまり長期的にはわがままで気の短いリデラードよりも、彼女の姉のような礼儀正しく一生懸命なことがすぐわかるような者の方が有利な試験だ。
「ほら、さっさと行くがいい。時間がもったいないだけじゃぞ」
離れ離れになっている間に、心まで離れ離れになってしまった親子。だが今は冷たく突き放すことこそが、リデラードに向けられた試験であった。