姉であるイングリットと違い、子供の頃から体力ははるかに丈夫だったリデラード。酒をやめると決意したことで、若くして極限まで衰えつつあった体力は、早くも回復しつつあった――
黙ってトレーニングを重ねる妹と、それを見守る姉。イングリットが持ってきた就職先、それは自らが後任の団長となった「星空の旅団レグルス」の入団試験であった。
現時点ではイングリットも「見習い」の段階にあるので、組織の長としての実験は今の彼女にはほぼない。だが彼女は、仮にそれがあったとしても、リデラードをコネで入団させることはせずに入団試験を受けさせるだろう。
母の代わりに妹の立ち直りを見守る。それが姉としての、責任であると。
――それから数日後。とうとう入団試験の日がやってきた。
特別に許可を得て練兵場を貸し切ったその会場にて、これから一週間にわたる試験が始まるのだ。その開会式の挨拶に、ギルドマスターであるネロ・カルカテスラ自らが壇上に登った。
「これより、星空の旅団レグルスの入団試験を始める!」
とうとうやってきた、採用試験の場にて。リデラードは激しく緊張していた。この時点でかつて失敗した試験の時とはまるで違う態度だった。
今まで自分を見守ってくれていた姉は、採用担当の方に回り、頼れる者は一人もいない。だが試験とは本来そういうものだ。かつての失敗でプライドを折られる前は、言われなくても自覚していたことを、彼女はあの時より強くもう一度心に刻んでいた。
「私がやることはあくまでギルドの長として、君たちを見守ることだけだ」
――ネロの声掛けに合わせて、試験官が壇上に上がってくる。そこにリデラードの知る者は、なんと
一人だけではなかった。
一人は、自身の姉である
イングリットだ。だがその隣にいるのは、長いこと離れ離れになっていた己の母
「レウルーラ・アンテス」であった。
それだけではない。彼女はとっくに顔も忘れているが、姉と同じ日に採用試験を受験した者も二人いた。総合成績で主席合格した「ヴェロニカ・ノイマイヤー」と次席合格の「ナナリー・ラナマン」の二人もいた。
「それでは、受験者諸君! 試験官の方々に一例!!」
ひどく緊張して、頭を下げるリデラード。まさかこのような場で母と再会することになるとは、思っていなかった。
「それでは、レグルス参謀長及び試験総監督のレウルーラ・アンテス様、あとはよろしくお願いします」
しかも母の役職は、参謀長であり試験総監督とのこと。
「……皆の者、よく集まってくれた。これより第一次試験の内容を発表しよう」
――行方不明になっていた母が、こんなところにいた。その事実に囚われて、リデラードはずっと呆然とし続けていた。