酒浸さかびたりの日々ひびを過すごす、姉あね共々ともども成人せいじんしたての年齢ねんれいになったリデラード。
　今日きょう、偶然ぐうぜんにも彼女かのじょは、久ひさしぶりに早起はやおきをした。してしまった。

――故ゆえに彼女かのじょは、ある事態じたいに気きが付ついた。気きが付ついてしまった。

「……ババア！　ババア！　どこ行いった、ババア！！」

　酒さけと朝食ちょうしょくを用意よういするために、長ながい間あいだ籠城ろうじょうしていた部屋へやを出でた時ときのことだった。己おのれの母ははレウルーラが家いえからいなくなっていたのである。

「マジでどこに行いったんだよ、あのババア！！」

　泣なきながら怒いかり、その場ばにいない実じつの母ははを罵ののしり倒たおすリデラード――実じつは彼女かのじょは、この景色けしきを見みる日ひがいつか来くることを自覚じかくしないうちに覚悟かくごしていた。

「うわあああああん！　うわあああああん！」

　成人せいじんする前まえから酒浸さかびたりの日々ひびを過すごしていた彼女かのじょ――自分じぶんのことを快こころよく思おもう人間にんげんなんて、もうこの世よにはいない。その事実じじつには自覚じかくのありなしを問とわず、とっくの昔むかしに気きが付ついていたことだろう。

「うわあああああん！　うわあああああん！」

――故ゆえに今日きょう、実際じっさいに一人ひとりで家いえに残のこされたという事実じじつを知しり、彼女かのじょは慟哭どうこくしていた。

「うわあああああん！　うわあああああん！」

　慟哭どうこくしながら、握にぎったビンの中身なかみを一気いっきに流ながし込こむ彼女かのじょ――逃にげ道みちを断たたれたからこそ、彼女かのじょには逃にげることしかできなかった。

　今いままでずっと逃にげてばかりであったからこそ、この期きに及およんでも逃にげるしか選えらぶ方法ほうほうがなかった。

　母ははという当あたり散ちらすのにもっとも都合つごうのいい標的ひょうてきを失うしない、彼女かのじょに逃にげ道みちを提供ていきょうするのは目めの前まえにある酒さけのみであった。

「うわあああああん！　うわあああああん！」

　彼女かのじょの壊こわれた心こころをますます壊こわし続つづけた悪魔あくまである酒さけ――このままではダメだと、彼女かのじょ自身じしんも心こころのどこかで気きづいているのだろう。

　だが、それに気きづいていても――いや、気きづいてしまったからこそ、彼女かのじょにはもう後戻あともどりはできなかった。

「お母かかさぁぁぁん！　お姉あねちゃぁぁぁん！　お願ねがいだから帰かえってきてよおお！！」

　孤独こどくという心こころの傷きずを埋うめるために、酒さけに逃にげた彼女かのじょ。

　その酒さけが、孤独こどくという心こころの傷きずを埋うめることは決けっしてなかった。むしろそれは彼女かのじょにより深ふかい絶望ぜつぼうをもたらしていた。

「私わたしを一人ひとりにしないでええええ！！」

　故ゆえに彼女かのじょは、自分じぶんから手放てばなした家族かぞくへ助たすけを求もとめる。身勝手みがってなのは自分じぶんでも承知しょうちだった。

　彼女かのじょの人生じんせいは幼少ようしょうからずっと身勝手みがってを積つみ重かさねてきた。それで母ははと姉あねを苦くるしめ続つづけた人生じんせいだった。

「――リデラード、リデラード！？」

――だがその時とき。

「！？」

　玄関げんかんから聞きこえたのは、確たしかに姉あねの声こえであった。

「うわあああああん！　お姉ねえちゃぁぁぁん！」

　この日ひのこの瞬間しゅんかんが、彼女かのじょが今いままでの人生じんせいで唯一ゆいいつ、姉あねを姉あねとして心こころの底そこから呼よんだ瞬間しゅんかんであった。

「……ふう」

　リデラードの散ちらかり切きった部屋へやを、一人ひとりで掃除そうじした姉あねイングリットは、そこの窓まどから見みえる外そとの景色けしきを見みていた。

　その先さきには、酒さけでボロボロになった体からだを鍛きたえ直なおす己おのれの妹いもうとの姿すがたがあった。

『もう絶対ぜったいに、離はなさないで。お酒さけはもう、やめるから』

　彼女かのじょはもう、二度どと酒さけに逃にげないと誓ちかった。そして今いまは、姉あねが持もってきた就職しゅうしょく先さきへの試験しけんに向むけて体からだを鍛きたえている真まっ最中さいちゅうである。

　姉あねであるイングリットと違ちがい、子供こどもの頃ころから体力たいりょくははるかに丈夫じょうぶだった彼女かのじょ。
　酒さけをやめると決意けついしたことで、若わかくして極限きょくげんまで衰おとろえつつあった体力たいりょくは、早はやくも回復かいふくしつつあった――

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