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インヴォーク! 起動せよ、新生レグルス!!

不仲の姉妹
【作者コメント はじめに】

 これまでのエピソードはイングリット中心の視点で描写されていましたが、本章【第1章前日編】は明確に別人物の一人称で展開される話があります。

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 大事だいじ仕事しごと直前ちょくぜんに、特別とくべつ休暇きゅうかいただくことができた。
 この休暇きゅうかをどう使つかうかは、もうめている。
 すすんできたくはないけど、かなければならない場所ばしょわたしにはあった。



「……イングリット、おかえり」

「おかあさん、ただいま……」


 久々ひさびさったははは、まえにもしてやつれていた。わたしたちあかちゃんだったころから、大人おとなにしてはひくひとではあったそうだけど、このままやつれていくとあきらかにあぶないことは明白あからさまであった。

リデラードは?」

「……あの相変あいかわらずだよ」


――わたしかえってくるまでのあいだに、一番いちばんわっていてしかった状況じょうきょうは、相変あいかわらずわっていないようだ。
 リデラードは、わたしおな誕生たんじょうまれた、二卵性にらんせい双生児そうせいじいもうと

イングリットむかしからこんなにもいいなのに、なんであのむかしから……」


 正直しょうじきうと、リデラードとわたし子供こどもころからなかわるかった。もとからわがままな性格せいかくなのはっていたけど、おおきくなってもそれはなおらないばかりか、ますますわるくなる一方いっぽう
――でも、リデラードをこんな状態じょうたいえてしまったのは、わたしにもげんいんがある。

「ごめん、おかあさん……わたし仕送しおく以外いがいかたち二人ふたりなにもしてあげられなくて」

「あんたはなにわるくないよ……全部ぜんぶリデラードが、いつまでもわがままな性根しょうこんなおさないせいさ……」


――おかあさんはそうっているけど、結果的けっかてきにリデラードにトドメをしてしまったのは、ほかならぬわたし



「……リデラードはいっていい?」


 返事へんじはいつまでもかえってない。おさけげているのか、それがんだからねむっているのか。
 リデラードは就職しゅうしょく失敗しっぱいしてからずっと、おさけげる日々ひびおくっている。わたし一緒いっしょ職場しょくば面接めんせつったさい、この面接官めんせつかんひと失礼しつれいなことばかりっていた。

 実技じつぎ検査けんさとき態度たいど最悪さいあくで、ほか受験者じゅけんしゃひとたちとケンカをしたり、フェンシングの試合しあい反則はんそく行為こういってまでとうとしたり……

 それでも、全部ぜんぶ審査しんさでほぼ赤点あかてんだったわたしをとなりでみていたこのは、面接官めんせつかん言葉ことばいて自分じぶん合格ごうかく確信かくしんしていたようだ。

今期こんき採用さいよう試験しけん不合格ふごうかくだったのは一人ひとりだけです』


 はじめはわたしも、間違まちがいなく自分じぶんちるとおもっていた――だけど、面接官めんせつかん名前なまえんだのは、リデラードだった。
 それも「きみよりひどい受験者じゅけんしゃいままでたことがないし、今後こんごあらわれないだろう」とくわえて。

 それをいてリデラードがさきいただしたのは、わたし合格ごうかくした理由りゆうだった。リデラードが態度たいどだけを理由りゆう不合格ふごうかくになったのは、さすがにわたし納得なっとくできた。だけどほぼ赤点あかてんばかりだったわたし合格ごうかくできた理由りゆうは、わたしもこのときわからなかった。

 その理由りゆうを、所長しょちょうほう直々じきじきにその発表はっぴょうしてくれた。

『イングリットさんは、貴女あなたちがってとても礼儀正れいぎただしかった』

貴女あなた当社とうしゃ従業じゅうぎょういんほか受験者じゅけんしゃ失礼しつれいくちいたさい、イングリットさんはご自身じしんにはなにがないのにもかかわらずつね率先そっせんして謝罪しゃざいをしていた』

結果けっかには反映はんえいされなかったものの、イングリットさんの苦手にがてなことにも一生懸命いっしょうけんめい姿勢しせいつよいことは、担当たんとうした試験官しけんかん全員ぜんいんみとめています』

『よってわたしは、貴女あなたより彼女かのじょほうが、当社とうしゃもとめる従業じゅうぎょういんにふさわしいと判断はんだんしました』


――その宣告せんこくはリデラードのこころに、完全かんぜんにトドメをしてしまった。

 いや、本当ほんとうにトドメをしたのは、所長しょちょうではなくわたしであった。補欠ほけつあつかいとはいえどもわたし合格ごうかくしたことは、わたしのことを出来損できそこない』見下みくだしていたリデラードのこころおおきなきずをつけたのだ。

 それからリデラードは、当時とうじ時点じてんではまだ成人せいじんしていなかったのに、おさけげる日々ひびおくはじめた。

 そして元々もともとわがままだった彼女かのじょは、まえにもして反抗的はんこうてき性格せいかくになった。おかあさんがどんどんやつれていく様子ようするからに、わたし仕事しごとっているあいだにリデラードがなにをしてきたのかは、想像そうぞうすること自体じたい恐怖きょうふかんじた。

 いまわたし転職てんしょくして冒険者ぼうけんしゃキャラバンに加入かにゅうし、参謀さんぼう地位ちいみとめられている。わたしがさらにしょくについたことがわないのか、いまのリデラードはおそらくまえにもしてれている。おかあさんのきの電話でんわ仕事しごとちゅうにかかってきたこともあったほどに。

――このパンドラぱんどらはこを、いまからわたしけるのか。
 こわい、こわい、こわこわこわこわい……ドアノブをにぎっただけで、つよくおぞましい殺気さっき悪臭あくしゅうかんじるほどに。

「……はいるよ」


 それでもわたしは、ゆっくりとひらいた。
 その部屋へやにあったのは無数むすうにおかれたはこと、そこにしまったそらびん最低限さいていげん寝具しんぐ、そして苛立いらだつリデラードであった。

「――なにしに、たのよ」


 彼女かのじょわたしはいるなり、そのへんにあったビンをにぎりだした。

「……リデラード、今度こんど大事だいじ仕事しごとがあるんだ。出張しゅっちょうかけてくる」

「――それだけ? それだけをいにたの?」

「……おねえちゃんは臆病者おくびょうものだから、今度こんどたたかいでヘタしたらぬかもしれない」


――瞬間しゅんかん、リデラードの激昂げきこうしたさけびがひびわたった。

「――いいにならないでッッッ!!」


 瞬間的しゅんかんてきに、みみさえるしかなかった。

「そんなこと、いちいちいにるくらい意気地いくじなしな根性こんじょう戦場せんじょうくなら、いっそのこと本当ほんとうんじゃいなさいよ! 出来損できそこないのアンタが! アタシをいていいばかりて!! バチがたってんじゃいなさいよッッッ!!」


――挨拶あいさつたことを、わたし後悔こうかいした。

「――意気地いくじなしは、あなたのほうでしょう!」

「――!!」

「いい加減かげんげるのはやめなさい!! たしかにわたし臆病者おくびょうものだけど、いまのあなたにそれを非難ひなんされなければいけないほどではないわよ!」

「うるさい! うるさいうるさいッ!!」

むかしはともかくいまではあなたのほうがよっぽど卑怯ひきょうなさけない、意気地いくじなしで都合つごうわるいことからげてばかりの臆病者おくびょうものよ!!」

だまだまれッ! 説教せっきょうしにきただけならさっさとていけ!! さもないとババアもろとも本気ほんきでぶっころすわよ!!」


――やっぱりこのには、なにっても無駄むだだ。

「…………」


 即座そくざとびらめて、げるようにはしった――むかしはともかくいまはリデラードのことなんて、大嫌だいきらいだ。でも、おかあさん共々ともども見殺みごろしにすることはできない。そのために、わたしはこれからかうホワイトエンペラー要塞ようさいからかならかえってくる。
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