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アリストーン・オンライン

#016. 闘技場
 翌日、学校にて。

「あのね、琉亜るあ君、VR部なんだけど、こういうネットの部は前例がないみたいで、正式に認可するかちょっとめてるんだって」
「あ、そうなの?」
「はい。それでですね、当分の間、仮認可のままになるみたい」
「了解」
「でも、別に問題ないから、現状維持ってことね」
「分かった」

 なるほど大人の事情はややこしいのだろう。

 そそくさと家に帰って、部活をしよう。

 ログインする。

「こんばんは、エリス」
「こんばんはです。ご主人様、ルルさん」

 今日は妹も部活が定休で早く学校から帰ってきて、先にログインしているはず。

 ▼ログインボーナス
 4日目 復活の結晶小(30%)、カードガチャ券*2枚

 復活の結晶小か、自分には使えないが、妹とか死んだときには活用しよう。
 ガチャ券は2枚だけだから、これ単体では引けない。
 毎日集めて引いてくれって意味だろう。

 本日もありがとうございます、運営さま。

 ガチャ券に関しては、譲渡不可属性がついているので、誰かにまとめて渡したりできないようだ。
 もっとも、要らないカードをガチャ券にする場合は、カードのまま渡してしまえば相手がガチャ券に変えることができるので、あまり問題にはならない。

「エリス、20ジェム以下のカードとかある?」
「ないですね。最低価格の強化1のアメジストカードでも90ジェムで売ってました」

 ものすごく安い20ジェム以下の不要カードを5枚買ってきてそれをガチャ券にすれば、割安でカードを引けそうだが、さすがに今はそこまで安くなっていたりしないようだ。
 まあ、そりゃそうだわな。

 100ジェムが購入費で、20%のマージンだから、これ単体では赤字だ。
 おそらく11連だと思うけど。
 さらに強い強化カードなどは高値で売れば黒字だ。
 これで1000TEAの諸経費を除いてトントンにはなる。

 あーあ。それでマーケットでジェムを入手して、またカードを引いてと何回もやれば、カード引きまくれると。
 なるほどな、考えたわ。
 これでレアモンスターカードを入手できる可能性がある。

 ただやりまくると、アメジストカードの相場が下がって原価割れする可能性もあるから、博打ではある。
 今だから出来る芸当だろう。

 俺は500ジェムくらいしかないから、元手も必要だな。
 アバター装備の三日月のドレスアーマーが2000ジェムの評価額だったが、売りたくはない。

「お兄ちゃん、こんばんは」
「ルルさん、こんばんは」

 妹のウタカとクラスメートで隣の席のタピオカさんが合流する。
 そういえば、あと3人、VR部に女の子を勧誘しているはずだけど、まだ見ていない。

「観光ガイドブックなんだけど、闘技場やってみるか?」
「あ、うん……対人戦なんだっけ?」
「そうだよ」
「私、あんまり対人は得意じゃない」
「私もそうですね」
「だよねぇ」

 人間を攻撃することに躊躇ちゅうちょする人は多い。
 特にリアルなフルダイブVRでは、昔でいうマウスクリック、スマホポチポチとはだいぶ感覚も異なる。
 実際に目の前に、相手が立っているのだ。

「NPCと対戦もできるよ」
「NPCさん? 高度AIさんだよね」
「そう」
「ほーん」

 ちなみに最近妹はよく「ほーん」という。

「あとは身内と対戦する。相手指名の対戦」
「お兄ちゃんと私が戦うの? それなら……」
「お、戦うか?」
「私、強いよ?」
「まじか、俺だって」
「私に勝てると思う? エルフちゃんよ」
「そっか、エルフは攻撃力が低くて、魔法特性じゃん、今冒険者だよ」
「ほーん」

 よく分かっていないらしい。
 装備はみんな同じくらいだ。
 種族は俺がヒューマン、タピオカさんがキャットレイス、ウタカがエルフだ。
 妹はネックレスの種類が違う。
 それからタピオカさんはストルンカードを装備している。

 攻撃力そのものはあまり変わらない。
 動きが一番早いのはキャットレイスなので、この3人なら運動神経もいいタピオカさんが勝ちそうだ。

「ということで、俺の分析ではタピオカさん強いよ」
「ほーん」
「やってみないと分からないですね」

 謙遜するタピオカさん。
 奥ゆかしいところもかわいいが、たぶん本当に強い。

 妹はどこかどんくさいところがある。
 俺の家系だから、さもありなん。

「そういえば、エリスの有効期限って10日間だったよな」
「はい。あと6日ですね」
「間違えてジェムを使い切っても困るから、先に券を購入しておくか」
「あ、ありがとうございますっ」

 エリスが涙を流す勢いで、感激している。

 エリスの延長は「ガイド妖精ルルコ使用券(31日)」の200ジェムだ。
 さくっと購入処理をしてしまう。
 これで今月は大丈夫っと。

「エリス、その、またよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お役に立ってみせます」
「頼りにしてる」

「私はワッフルの使用券が31日で、ルルコお試し券の期間も加算されてるから、大丈夫」
「お兄ちゃん、私も延長する……よし」

 ウタカも延長券を買ったようだ。

「それでは、コロシアムに行きますか」
「はーい」
「ういっす」

 コロシアムは中央地区、試練の塔の近くに建っている。

「では俺とウタカが先に対戦して、勝ったほうがタピオカさんと勝負でいい?」
「う、うん。あ、ジャンケンみたいに負けたほうも私と戦闘すれば全員2回試合できるよ」
「おう、そうするか」
「わかった」

 受付で指名制を選択、俺とウタカが対戦者だ。

 コロシアムの闘技場に入場する。
 レフリーのおっちゃんの前に俺とウタカが距離を開けて対峙した。

「レディー、ゴー」
「うりゃああ」
「よっと」

 ウタカが俺に突っ込んでくる。
 もちろん単純な妹の軌道は直線的だ。

 俺はさっと右に避けて、これをかわす。

「ぬう」
「甘いな」
「んもぉ」

 今度は俺がナイフで攻撃、しかし妹はそれを避ける。
 なかなか思ったよりやる。

 次はナイフでの攻撃のし合いになった。

「うりゃうりゃあ」
「どりゃあ、どりゃあ」

 両者の攻撃でダメージが入り、お互いがHPを削り合う。

 どちらが先にくたばるか。
 こうなると基礎攻撃力が高い俺のほうがちょっとだけダメージが高い。
 それから攻撃間隔も俺のほうが回転が速い。これは半分はプレイヤースキルだ。

「どりゃあ」
「あうち」

 妹のHPがついに全損する。

「勝者、ルル」

 >ルルは闘技場でウタカに勝利。50CP獲得

 ぱふぱふ。
 わぁわぁ。

 なぜか観戦席から、歓声が上がった。
 俺って実は有名人なのか?
 いや、そんなことないか。ここで行われている試合すべてがこんな感じなのだろう。

 次は俺とタピオカさんだ。

「レディー、ゴー」

 動きはタピオカさんのほうが俊敏性が高いので有利だ。
 俺はVR慣れというか、ソロ用のRPGで体の動きを鍛えてきたので、脳が覚えている。

「とーりゃー」
「んふ」

 俺が試しに突っ込んでみたが、あっさりかわされる。

 次は接近戦に持ち込み、攻撃し合う。
 妹の時と同じだ。

「うりゃあ、おりゃあ」
「はあっ、えいっ」

 俺の攻撃の2割ぐらいは避けられるか、防がれてしまう。
 対してタピオカさんの攻撃は的確で、クリティカルが出たり、ほぼ命中したりする。
 俺のほうがVRに慣れているはずなのに、動きはタピオカさんのほうが上だった。

 そのまま差は縮まらず、決着がつく。

「勝者、タピオカ」

 >ルルは闘技場でウタカに敗北。25CP獲得

 ぱふぱふ。
 おおおぉおお。

 なんかさっきよりも歓声が大きい気がするが、気のせいか。
 あと声が野太い人がいる。

 さて勝者と敗者ではどちらが勝つかだいたい予想できるが、3回戦。

「レディー、ゴー」

 タピオカさんとウタカの試合だ。
 ウタカが先に攻めるが、タピオカさんはそれをかわしたまま、一撃を入れる。
 その後もタピオカさんの動きが明らかにいい。
 俺との戦闘で少しコツを掴んだのか、俺の時よりもよく動く。

 ウタカがタピオカさんに一方的に蹂躙じゅうりんされて、そのままエンド。

「勝者、タピオカ」

 ぱふぱふ。
 うぉおおおお。

 今回も野太い歓声が聞こえる。
 俺もそれに混ざって、声を上げた。

 とにかくこれで観光ガイドブックも完了だろう。
 ささっと操作をして完了を押す。

 >「闘技場でPvPをしてみよう」完了。10ジェム。8000TEA取得

 それから闘技場ポイントというポイントを貰った。合計75CP。

 闘技場はとりあえずこれでクリアだ。
 また暇な時にでもやってみよう。

 ただし、暇な時というのが現状ないので、なかなか難しい問題だ。
 嬉しい悲鳴を上げつつ、次の事を考えよう。

 えっとなんだっけ、ああ『ダンジョン』があるんだった。
 フィールドもいいけれど、ダンジョンも行ってみる価値がある。

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