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VRあるあるあるき

031.メンテナンス
「じゃあ帰還石で戻ろう」

 外はもう暗くなっていた。
 ダンジョン前の復活ポイントに戻ってきた。
 次は転移結晶を使い、王都へ帰還する。
 2回ジャンプしないといけないのが少し面倒だしお金も掛かる。

「とりあれず今日はおしまい。解散しよう」

「「お疲れっさまです」」

 みんながまたハイタッチをして、ログアウトしていった。


 翌日。ログインしようとして、インできない。
 視界には『緊急メンテナンス』の表示が出ていた。
 夕方から始まり、予定では午後6時に終了だったのが、お知らせが修正、追記されていて、終了時間未定になっていた。
 オンラインゲームでは、こういうトラブルは、どこの運営もわりとあることだった。
 緊急メンテ、延長、終了時間未定、あるあるだ。

 一番怖いのは「永遠にお待ちください」である。
 データ保管ソフト、データベースが壊れてバックアップもないと、そのままサービス終了になったりする。
 重要な整合性の取れないバグが最初からある場合も、データがおかしすぎて復活できず、永遠のメンテに突入するゲームも稀にあった。

 業界用語には「ロールバック」というものもある。
 これはバックアップに戻して、最新のデータを捨てて「巻き戻る」ことを言う。
 場合によって48時間のプレイが消え去るとかもあった。
 また、レア装備が出て歓喜していたらメンテになってロールバックして、レア装備が電子の藻屑もくずとなって消え去って、絶望になったという話も、昔は聞かれた。

 アイテム課金や、ベータ版ではなく本番環境になっているとロールバックは補償を要求されるため、敬遠される。
 そのため、最近のゲームではロールバックはせず、問題がある人のみ個別対応を取る場合もある。
 その辺は運営が使っているツール類の出来のよさなどにも左右され、運営能力、管理画面側の見えないソフトウェアの出来具合が、実は運用における、ユーザーからの信頼に関係してくる。
 見た目とかゲームバランスよりも、この運営の対応こそがゲームに大切であることも多い。


 掲示板では愛するNPCに会えない電子ジャンキーたちのアビキョウカンが垂れながされていた。
 なぜか変換できないので、カタカナにしておく。

 俺もオムイさんたちに会いたいな。
 と、部屋でぼーとネットを見て過ごす。
 匿名掲示板では、延々メンテの嘆きが書き込まれ、たまに役に立つ情報が書き込まれるも、勢いのあるレスに埋もれてしまっていた。
 それに気がついた人もいて、WIKIに有用情報の暫定まとめページと、それを元にWIKI本体の各ページのチェック作業をしようと呼び掛けられ、メンテ中はWIKIの内容メンテをと同士が集まっていた。
 ゲームをするために時間を空けていたから、暇人が多い。
 ただ同じタイミングで同じ記事を修正することはできず、エラーになってしまうので、WIKI内の情報提供専用掲示板に一般利用者は書き込んで、常連のWIKIアカウント持ちのWIKI修正人が個別ページに反映していくように、呼び掛けられた。
 過去のゲームでも、このようなことはあったかもしれないが、俺は知らない。
 ただ、掲示板とWIKIを眺めて過ごしたことはある。
 残念なことは、ゲームにログインできないと、情報の真偽確認、検証が一切できないことだった。
 そういうのは、暫定情報ページに、未確認として残されたままになる。


 オムイさんからメッセージが来た。
 これは、インしなくても情報端末で読み書きできる付属サービスで、便利であるらしいが、使ったことはなかった機能だ。

 内容は「動物園、楽しいですよ」ということが書かれていた。
 女の子たちで集まっているようだ。
 最後にサーバー内の場所、ルームナンバーと一緒にどうですか、と書かれていた。

 俺は急いでヘッドギアのメインメニューを開いて、ペット&動物園を購入、ダウンロードする。
 プログレスバーの進捗表示を眺めながら、まだかまだかと待った。

 ダウンロード終了、さっそくインしてオンラインモードを選ぶ。
 アバターの選択では、ギアでの共有でVRファンタジーのものが選択できた。
 ご丁寧に装備付きだ。

 俺は再び「タカシ」としてゲーム世界に旅立った。

 ログインして指定されたルームナンバーの部屋とパスワードを入力して、参加する。

 オムイさんたちの動物園に行くと、中を探す。
 結構広いのだけど、ミニマップに光があるので、まっすぐ進む。

「おまた」

「タカシさん遅いですよ」

「師匠、しっかりしてください」

「ユマルはお兄ちゃんに会えて、嬉しいよん」

「セリナは。ボクはそのおっさんなりかけの顔が見れるだけで幸せだから」

 俺はおっさんだったか。
 まだまだ若いつもりだったから、ショックだ。

「そんなことより、アルパカ見ようぜ」

「わーい。アルパカさんだ。ユマル、アルパカだーいすき」

「ボクだって、もきゅもきゅ、ふわふわ大好きさ」


「よかったです。また会えて」

 オムイさんの言葉は心に響く。

「あ、ああ」

「こういうときに、かっこいい台詞、ひとつも言えないとこが、らしいですよね。うふふ」

「わりーかよ」

「そんなもんですもんね。どこかのコミュ障さん」

「おっおう」

「ほーら。アルパカさんのお口が可愛いですね」

「おまかわ、だな」

「なんです? それ」

「なんでもない。か、可愛いって言っただけ」

「ですよね。なんのために可愛い顔してるんでしょうね。アルパカさん」

「ペットだからじゃん」

「そうなんですか。じゃあ、女の子が可愛いのも、ペットにしたいんですか?」

「男の夢だろ。可愛い女の子を飼うの。もちろんそんなことしなくて、同棲、結婚となるわけだけと」

「ほうほう。そうなんですね」

 どうでもいいようなオムイさんとの会話は、そのあともしばらく続いた。

 ペンギン、クマ、ライオン、キリン、ゾウ、パンダ。
 アジアゾウとアフリカゾウ。
 ツキノワグマ、ヒグマ、シロクマ。
 似てる動物のおりが並んでいて、比較したりすることができる。
 無駄に凝っていて、中にはやる気のないライオンのオスとかもいて、みんなで笑った。
 普通の動物園はどうしても、いない種類がある。
 このゲームにもいない、マイナーな動物の種類もたくさんあるけど、それは致し方ない。
 ペンギンも種類が豊富で、イワトビのトゲの模様とか、エンペラーの大きさとか、見所はたくさんある。
 大人になっても勉強になることは多くて、ホログラムと音声案内機能で解説も聞けて、だいぶ動物に詳しくなった気がする。
 ウシ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウとかもいた。
 スイギュウが、ウシの品種ではないとか知らなかった。
 ネコ科の動物比べも楽しかった。
 皆可愛い顔してるけど、どこか澄ました顔をしていたり、仏頂面をしていたり、個性がある。

 メンテ、クソとか言う人も多いけど、その間に他のことをするのもいいと思った。
 ただひとりで相手が誰もいないと、クソとか言う人の気持ちも俺は今まで味わってきたので分かってる。
 ゲーム以外でも一緒に遊べる、妥協の産物のゲームのフレンドから、普通の友達一歩手前になれれば、世界はぐっと広がって、楽しいこともいっぱいあるって分かった。
 そういうのは珍しいのかもしれないが、最後まで諦めちゃダメだと思う。

 メンテは午後11時に終わったが、もう遅い時間だ。
 永遠でなくて本当によかった。
 この日は中途半端だからパスというのが普通かもしれない。
 でも俺たちはインをしてアイテムの整理をしたい。
 まだ出たレアの清算もしていないんだ。

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