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VRあるあるあるき

023.アバター
 串焼き屋のお姉さんを探したら、いつもの場所にお店を出していた。

「お姉さん、こんにちは」

「こんにちは。こんばんは、かな」

「現実の昼間もやってるんですね」

「土日の昼間はアルキア時間で夕方の繁盛する時間だけだよ。私だってずっとやってるわけじゃないさ」

「あはは、そうだよね。ところで俺はタカシ。こっちはオム子。お姉さんは?」

「私はパトリシアだよ。第一陣、中堅プレイヤーさ」

「これからもよろしく、お願いします。それで、アベルボアのお肉、買い取りしてもらえますか?」

「ん? いいよー。西の先の小さいヤツだよね。肉質がいいんだよ、あいつら」

「そうです」

 俺はアベルボアのお肉をちょうど10個取り出して渡す。
 皮もまだ残ってるのでまた靴とかカバンにしようと思ってる。
 槍で突き刺しても、問題ないのは助かる。
 そこまでリアリティがあると、メイス系のほうが皮の為にはいいことになる。
 ついでにレベルも4になった。

「いい肉だ。筋が少なくて、脂と赤身が層みたいになってるでしょ」

「はい。言われても比較できないのでよく分からないけど」

「私も分からないですね」

「オム子も、こう言ってるから、セーフだな」

「ははは、3kで合計30kでいいかい?」

「おけおけ、どもっす」

 オム子も同じようにお肉を取り出す。

「私も8個、いいですか?」

「いいよ。さんぱで24kだね」

「ありがとうございます」

「まあ、在庫は余ってるけど、仲間にずっとアベルボア倒しやってもらうわけにもね」

「在庫、多いんです?」

「そりゃ、いっぱいあるよ。アイテムボックスって同じのいっぱい入るんだよね。重さも感じない」

「そうなんですね」

「うん。そういえば、いい靴履いてるね。10kぐらいしたでしょ?」

「あっこれアベルボアの革靴で自作です。4kで売ったんですけど、10kもするんですか?」

「新品ならするよ。見たって新品か分かんないけど、気持ちの問題でしょ。だって他人の履いた靴ってどうよ」

「確かに」

「私、その気持ち分かります」

「オム子ちゃん、でしょ。いくら臭くないって言ってもね。だから新品は高いんだよ」

「ふーん。そんなもんですか」

「うん」

「では、また」

「はい、さいなら」

 俺たちも、少し広いところに移動した。

「この辺で落ちることにしようか。オム子また夜くる?」

「はい。少し遅くなって7時ぐらいですね」

「分かった。夜インしたら通話かメールして」

「了解です。ではアディオス、ゴロス」

「ああ、アディオス。ゴロス?」

「ふふ」

 オム子が粒子になって消えていった。
 俺も昼飯にしよう。ログアウトした。


 現実で午後6時。ゲーム内で朝の日の出ごろ。
 俺は一人でインをする。
 イノシシの皮があと10枚。
 多くのオンラインゲームではログアウト中は自然回復なしだけど、このゲームは回復するようだ。MPが全快になっていた。
 ということで、皮を加工しに生産ギルドに行って、レンタル作業所を借りる。

「よし、いっちょやりますか」

 皮を3足、革靴に加工した。
 同じく3足、オム子ローファーにする。
 実物を見たのでイメージできた。
 真似というヤツだ。
 縄文ブーツを2足作る。
 そして革のブーツを2足イメージして作ってみた。
 ブーツのほうが防御力が補正値で1だけ高かった。
 でも多分履いたら、履き慣れないから長靴みたいに動きにくいんだと思う。
 女性は慣れてるかもしれないけど、男はほとんど未経験だろう。
 計10足が完成した。
 手で縫ってとかだったら、今ごろくたばっていたかもしれない。

 時間もまだ余っている。
 急いで外に出て、フリーエリアに移動した。

 俺は靴を並べて「10k均一」と書いておく。
 どこにどうやって書いたかというと、ペンと紙で書いた。
 生産ギルドのガイドブックの付録だった。

 靴はNPCのお客さんはあまり多くないようだ。
 みんな最低限の靴くらい履いている。
 初心者は初日だけじゃない。
 今日は日曜日だから、いつもよりたくさん人がいるような気がする。

 昼間稼いで、お金がある初心者が主に靴を買ってくれた。
 中級冒険者であろう、ハーフアーマー、半分金属と半分革の鎧のパーティーで4人、立ち止まってくれた。

「靴屋か。初心者だろ。感心感心」

「いらっしゃい」

「靴も補正優先だと安全靴とかなんだよね。半分金属の革靴。重いんだよ。町歩きにいいね、こういうの」

「ありがとうございます」

「俺はそうだな。原始人シューズ、いかしてんじゃん」

「すげー。これなんで思いつかなかったんだろな。初めて見るわ」

「俺も欲しいわ。義賊プレイとか山師プレイとかでよさそうだ。普通の靴はその辺でも売ってるから、原始人もっと作れよ。売れるって。俺たちマニアはロールも少しするから10kぐらいならネタに使っても平気さ」

 一時間もしないで完売。
 10k10足。すなわち100kラリルの収入になった。
 うはうは。
 靴はこだわらないか、鎧セットの一部だったりもするので、あまりプレイヤーは作っていないようだった。
 まだ開始から間もないこともあって、試されていないことも多い。
 アイディア次第で新規開拓の余地がたくさんあった。

 もうすぐオムイさんが来るので串焼き屋の近くの小さい広場までくる。
 小さいのに広い場所とはこれいかに。
 小場ではないのか。

 旧PCのMMOゲームでは、データ数が無駄に多いのは開発費の問題があるため、余分な装備はほとんど存在しない。
 だから露店でも目新しいものは少なくて、生産活動として低級者向け装備はあまり流行らない。
 ファッションが盛り上がるゲームでは多いけど、靴はそれほどでもない。
 ガーターベルトとニーソックスがオタクの間で流行ってしかもレア装備で高値で流通するぐらいだろう。
 見た目装備、通称アバター装備を装備とは別に重ね着できたり、補正装備と見た目装備を合成して、両方の特性を持った合成装備にできるゲームなんかも存在した。
 あとはあらゆる装備からアバター装備を作り出すアイテムがあり、好きな補正装備と好きな装備の見た目だけ再現したアバターを同時装備するゲームもある。

 このゲームでは、アバター装備はないらしい。
 材料を工夫するなどして、見た目がいいまま、強い補正を産み出すテクニック、技術力といわれるものが必要なんだそうだ。
 同じような見た目でも材料、製作工程、魔法エンチャント要素とかで大きく違う補正を産み出せると、ガイドブックにも攻略WIKIの生産指南にも書いてある。

 最初の低レベル用装備はシンプルで、強くなるごとにゴテゴテしたいかにも強そうな見た目になっていくことが、RPGあるあるだと思う。
 それで最低装備が意外とシンプル故に、独特の可愛さがあったりする。
 そのため、最強装備の上に最低装備のアバターを重ねる人が一定数いる。MMOあるあるだ。ネタ枠か可愛い枠かは微妙なラインだ。
 これには、最強装備姿だと詐欺師が装備を奪い取ろうと声を掛けてきたり、廃人とバカにされたり、貸してとカリパク野郎がしつこく声を掛けてきたりと、実被害がたまにある、これもMMOあるあるなので、自衛という意味もあった。

 オムイさんが粒子をまとって、広場に登場した。
 俺がストーキングしているみたいであるが、断じて違う。
 アバター考察を終了する。

 今日もオムイさんは天使のような顔だけど、フードで髪の毛などを隠していて、少し地味だ。
 ストーカー対策でもあるので残念だけど、しょうがない。

「おはよう、オムイさん」

「おはようございます。タカシさん。オム子じゃなかったの」

「いけね。心の中では今でもオムイさんって呼んでるから」

「そうなんですね。朝ご飯何にします? もう食べましたか?」

「まだだよ。一緒に食べようと思って。何でもいいよ」

「じゃあね、ピザみたいなのにしましょう。惣菜パン」

「惣菜パンとピザを一緒にされた。まぁ似てるけど」

「でしょ。しかも作り置きだから、冷めちゃってますね、きっと」

「うん」

「では、出発」

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