設定を選択してください。

VRあるあるあるき

022.露店開設
 俺たちは、露店のフリーエリアに移動した。
 大きいところは出店の申請と場所代の支払いが、商人ギルドであった。
 このフリーエリアは小さい少量のアイテムを売り買いする場所で、初心者の露店主が多いエリアだ。
 広場みたいな場所に、順番に座って並んで商品を並べている。
 気をつけないと持ち逃げされそうだけど、そういう犯罪ももちろん町の衛兵に御厄介になるので、おすすめしない。

 2コマ連続して空いているところに入る。
 ここでは人がスペースに入るだけで使用できる、とのことを生産者ギルドの人から聞いた。

 初『露店開設』だ。

 ここでうんちくタイムだ。
 露店については以前にも転売問題として、少し説明したと思う。
 露店システムは、比較的古いMMOが採用していた。
 新しいゲームではマーケット方式が多い印象だ。
 露店ではお店を出している間、その場から動けずに、放置するしかないゲームもある。
 また職業制で商人しか露店を開けないなんてゲームもある。
 どういうつもりなのかと言うと、普通の人は声掛けをして、売り買いをさせようという考えかたらしい。
 実際にはサブキャラで商人を作ってそのキャラで販売するのが普通だった。
 それでは不便だとして、違うゲームでは「売り子」のバイトをフリマに置いて、自分は狩りなどに出かけることができるようになった。
 しかし狩りなどをしないなら、相変わらずログインしたままの放置が必須だった。
 そして次の世代のゲームでは、露店はログアウト中にも設置でき、一週間の間置きっぱなしにできたりするゲームもあった。
 最後は露店がなくなり、マーケットによる一覧販売形式になった。

 マーケット方式は、ある種の物の売り買いのロールプレイを捨てたのだ。
 すなわちRPGでの「ロール」演じるという要素を不要と判断したことになる。
 情緒がないと思う人もいると思われる。
 またマーケット方式では、出品者名を表示するゲームと表示しないゲームがあり、表示すらされないと、生産者だったとしても、その名前を知る手段が完全になくなっていた。
 マーケット方式を採用したゲームは、RMT対策の側面を持っていたので、他の方法によるアイテムの譲渡を厳しく制限するゲームもある。
 またマーケット自体が公式によるRMTになっている場合もある。
 これらの状況は、賛否意見が分かれると思う。

 ゲーム内に売り場という「場所」が存在することで、それらしさがある「露店」も、風情やマーケティング的な場合や、特売市場のプレイヤーイベントなどが行えるので、あるなら、あったほうがいいと個人的には思っている。

 VRゲームでは、よりファンタジーらしくなってきて、旧世代の露店が復活したのだ。
 しかもスリや万引き、値段交渉、売りも買いもできて、会話もできるという、なんでもあり方式だった。
 それは、ヨーロッパやのみの市とほとんど同じで、本当に異世界みたいで、ある種の興奮を覚える。
 お店の人になる楽しさも、露店で物を発見する楽しさも、人類は再び手に入れられた。
 ビバ、ローテク、露店市場。

 ただ怖い区画もある。
 それは奴隷市場だ。
 ファンタジー小説なら当たり前だけど、ゲームでは奴隷はあまり登場しない。
 おそらく年齢制限的な問題があるのかもしれないし、人権問題がどうのこうのというかもしれない。


 というわけで露店の場所を確保した。

 俺と同じ靴が2足。アイテム名「縄文人毛皮ブーツ」が1足を地面に置いて並べる。
 ちなみに靴の「1足」という単位は左右ペアで1つと数える。
 隣では、オムイさんが、同じように3足の「ファニーローファー茶」を並べている。
 時間は午前11時、ゲーム内時間では午後4時ぐらいに当たる。

 客は流れてくるので、声掛けはする必要がない。
 というかみんな基本的には静かにしているようなので、それに倣う。
 自分たちだけ集客なんてしたら目立ってしまう。
 マナーとか分からないので、真似するに限る。

 サンダル履きの女の子2人組がやってきた。

「ねえねえ、このローファー可愛いよ」

「本当だ。欲しいかも」

「お客さんどうですか? 私も履いてるんです。新品ですよ」

「そうなんだ。いくらなの?」

「えっと、それが4kラリルぐらいかな? たぶん」

 ブタの皮の値段なんて調べてないから分からない。たぶん3kぐらいじゃないかな。
 靴の相場もよく分からなかった。たぶん安いので5kぐらいだと思うんだ。

「4kかぁ。いいよ、一緒に買う?」

「うん。くださいな」

「4kラリルずつになります。ありがとうございました」

「さっそく着替えを。よいしょ。どう似合う?」

「うん。似合うよ。私のほうはどう?」

「似合ってる。やっぱローファーいいよね。靴屋さんも初心者なんですよね? お互い頑張ろうね」

「はいっ! 頑張りましょう」

 若い女の子は元気があっていい。

「お友達になればよかったかな」

「まあ、また機会があったら、話してみれば。靴見れば分かるよ、きっと」

「そうですよね。うん」

 オムイさんの作った靴と同じローファーを履いている女の子は見たことがなかった。
 デザイン的な部分でも、ファッションを頑張れるゲームということが分かる。


 数組、数人の人たちが立ち止まってくれたけど、買わずに去っていった。
 次に来たのは社会人カップルっぽい人だった。

「ちょっとこれ、縄文人だよ。ウケル」

「俺は絶対に履かないぞ」

「私が履こうか? がおーってライオンごっこみたいにするの」

「意外と、いいかもしれない」

「ちなみに縄文人いくらです?」

「縄文人は3kラリルだよ。他のは4kラリル」

 俺はさりげなく答えた。

「あんたは普通のにすれば。私はワイルド路線にするわ。縄文人と普通のください」

「まいどあり、7kラリルです」

 所持金22.6kに回復した。
 残る靴は俺の普通の靴が1つ、オムイさんのローファーが1つだ。
 現実時間では昼前で、お昼ご飯を食べに落ちる前だろう。
 ゲーム内は夕日になってこちらも夜の食事の時間だ。
 人通りはさらに増えて、また立ち止まってくれる人が結構いる。

 またカップルだった。
 俺たちみたいに革鎧を着ている。
 でも足元がやはりサンダルだった。

「靴売ってるよ」

「おお、いいね。革靴。サンダルはさすがにな」

「男物と女物、一個ずつでちょうどいいじゃん。セットで買お」

「うん。セットでください」

「あ、ローファーは彼女と取引してください。革靴は俺のほうで。まいどあり」

 所持金更新。26.6kラリルだ。
 靴1足で4k。魔術石も10個で4kだったので、靴を売ったほうが商売になる。
 また魔力が溜まってきたので、石を5個、魔術石にしておいた。

次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(Twitter)で共有する