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VRあるあるあるき

016.寄生・養殖
 明日はお休みなので、今日は夜中まで遊んでも問題なかった。
 このゲームでは夜中どうなるかとかWIKIにそういう情報はいちいち書かれていない。
 役に立ちそうで役に立たないWIKIにイライラしつつ、この後の予定を考える。

 オム子と露店で夕食にする。

「オム子、夕食何食べたい?」

「いつまで私はオム子なんです?」

「プレイヤー名も一応でも偽名のほうが安心だろ」

「あ、そうですね。なるほど。どこで聞かれているか分からないですもんね」

「そういうこと」

「じゃあ、今日は、カレーにしますか」

「カレーの屋台?」

「そう。屋台です」

「あったっけか」

「向こうで匂いしてましたよ」

「気がつかなかった。連れてって」

「了解です」

 オム子に連れられて、カレー屋台に向かった。
 近づくとカレーのいい匂いがしてくる。

「おっちゃん、カレー2つ」

「異世界人だよね。パンだけどいいかい? ご飯じゃないと嫌とかいうお客さんもいてさ」

「パンか。まぁいいよ」

「はい。注文はカレー2杯ね。ちょっと待ってて」

 屋台の椅子に座って待つ。
 お水は飲み放題だ。

「はい、カレーお待ち」

「いただきます」

「いただきます」

 オム子と並んでカレーを食べる。
 普通のカレーだ。
 少し辛めだと思う。

「雰囲気あっていいですね」

「嬢ちゃん分かるかい。そう屋台の雰囲気がいいんだよ。さすが見る目が違うね」

「俺も屋台好きだよ」

「はいはい。何もおまけなんてしてやらねぇよ」

「別にいいよ。カレー以外とかトッピングとかないの?」

「トッピングはゆで卵とかチーズ、ビーフ煮込みがあるよ。ビールどうだいビール」

「いいね。ビールいくら? あとカレーもいくらだった?」

「ビールは1kラリル、カレーも1kラリルだよ」

「カレーちょっと高くね?」

「肉たっぷりビーフカレーだぜ。パンだって高級小麦を使ってるパン屋のだぜ」

「ああ、うまいよな。俺も普段からこういうの食べたいぜ。一人暮らしだと面倒くさいんだよな」

「分かります。分かります。私もそうですよ。タカシさん」

「オム子、分かってくれるか」

「はい」

「ビールは悪いが、先に装備強化とかに回したいんだ。金貯まったらまた来るよ」

「おおう、頑張れ新米冒険者」

「ありがとう、おやじ」

 俺たちは普段の自分たちの食事を嘆いて、カレーを美味しくいただいた。
 食べ終わるころ、隣に中級冒険者らしい人たちが来た。

「お、新入り飲んでるか?」

「いえ、まだ貧乏なんで、飲むのは次回以降にしますよ」

「辛気臭いね。そうだ養殖してやろうか。知らない養殖?」

「いえ、知ってますけど、遠慮しておきます。悪いですし、急にレベル上がると色々慣れとか勘がおかしくなってしまうので」

「お、結構知ってる感じだな。感心感心、一人でも大丈夫そうだな。そうか、まぁ、頑張れよ」

「はい。お先に失礼します」

「おお、お休み、新米」

「では、私も失礼します。おやすみなさい。先輩冒険者さん」

「なんだ、隣は姉ちゃんだったかフードで分からなかったぜ。女連れとかずりーぞ。こっちは男しかいねえのによ」

「女の子には優しくしてあげないと、ついて来てくれませんよ。ただでさえ、強そうだから怖がられちゃいます」

「なるほど。覚えておくぜ。アドバイスありがとよ、姉ちゃん。おやすみ」

 俺たちはカレー屋を後にした。
 まだギリギリ太陽が出ていて、影が長く伸びている。
 この国ではこれぐらいが夕食の時間で、日が落ちると露店はすぐに閉じる。
 明かりの魔道具は一般的だが、外を出歩くのは日暮れまでという習慣のようだ。

 今さっき先輩が言った『養殖』または『寄生』。
 これは、低レベル者を高レベル者が引率して、高レベルの敵と戦わせて、ダメージを受けたり敵を集めるなどの補助を高レベル者が行うことにより、極めて高い効率でレベルアップをさせる方法だ。
 協力者が必要な行為で、ソロでは難しい行為となる。
 誰もいない場所でひっそりと行うならともかく、人が多い狩場などですると、迷惑行為とされる。
 また養殖自体をよく思っていないプレイヤーも大勢いるので、清廉潔白を貫きたいプレイヤーはこういうことはしないほうがいい。

 寄生は高レベルプレイヤーにおんぶに抱っこで、依存して狩りをするまたはダンジョンやボスに挑むような行為一般をさす。
 一部のネトゲでは、IDでの野良パーティーのマッチングに初心者や寄生者が混ざると攻略に失敗することがあり、顰蹙ひんしゅくを買ったり、ウザがられたりする。

 寄生とは若干違うが、ほとんど役に立たない女の子を連れて歩くその女の子を「姫」と呼び、姫プレイとか呼ぶことが多い。
 男性は一人であるとは限らず、複数の男性たちからクラブの紅一点として、守ってもらうようなプレイを指すようだ。
 姫には周りの男性たちがアイテムをプレゼントしたり、接待プレイ的なことをする。
 これも中身が女の子だったらいいが、ネカマがばれると、男が逃げて行ったり、クラブが崩壊したりする危険がある。

 俺とオム子も曲解すれば姫プレイに当たるかもしれない。
 ただオム子は自分で敵も倒すし、ご飯も自分でお金を払っているから、そんなことはないと思う。

 カレーを食べて残金30.5kラリルだ。
 序盤は、金勘定をしっかりしないと、破産というかすぐ0になる。

「オム子、このあとどうする?」

「明日休みですし、ちょっと宿屋見学していきませんか」

「俺と?」

「他に誰がいるんですか」

「そうだけど」

 まさか、一緒に宿屋とか、会って2日目ですよ奥さん。
 変な意味とかないのかもしれない。
 本当に、宿屋を見学だけするつもりの顔をしている。

「まあいいや、行こう。どこにあんの?」

「私は知らないですよ」

「そうなの? たぶん門の近くかな」

「そう言えば、門の辺にそれっぽい店が何軒かありましたよ」

「そっか。じゃあ、南門かな」

「はい」

 俺たちは南門方面に進んだ。
 発見した。「テサーレンの宿屋」だ。
 明かりがついていて、中では男が酒を飲んでいるのが窓から見える。
 この世界の窓はガラスがない、むき出しだ。

「楽しそうですね」

「お、おう」

 男の間を若いお姉さんがビールを持って歩いていた。
 ドアを開けて中に入る。

「いらっしゃい。お酒? いやお泊まりですね」

 後ろのオム子を見て、泊りと断定するのはやめてくれ。
 恥ずかしすぎる。

「お泊まりといえば、お泊まりかな」

「一泊5kラリルです」

「はい」

「まいど。部屋は205号室ね。はい、鍵」

「どうも」

 そそくさと酒飲みたちの視線から逃げて二階に上がる。

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