設定を選択してください。

謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。

第6話 凶報
 セミリアの街は領主館を中心に道が整備されている。正直もっと小さな街だと思っていたのだが意外だった。しかしよく見ると崩れた壁や傷んだ建物が目に付く。長らく補修や修繕が出来ず、放置されていたのだろう。
 そして、これだけの規模の街にもかかわらず、出歩いている人は驚くほど少ない。人々の衣服も粗末なものである。

「これは、噂以上かもな」
「あうう……」

 このセミリアは元々男爵家の領地だったのだが、現在は辺境伯家の保護領になっている。
 先の内紛の後、男爵家に対して暫定的に主権を認める代わりに、領内の伝染病患者の受け入れを強要したのだ。

 結果、ここは死の街になった。

 住民にも病に感染する者が多発。この事態に慌てた辺境伯=俺の実父は、支援の手を差し伸べるどころか、関所を築いてセミリアからの流入を統制したのだった。

 街の住民たちは、辺境伯家には相当な恨みを持っていることだろう。しかも、辺境伯家の長男である俺が新たな領主となって赴任してきたのだから、最悪の事態も考えられる。

「あう……」
「大丈夫だ……くっ」

 無理に笑顔をつくったたつもりが、俺の意思とはうらはらに、目の前が急に暗転した。


◇◇◇


 その頃、辺境伯館では、マイヤー家の執事たちが深刻そうな顔で額を突き合わせていた。

「ジーク様は、ご無事だろうか」
「よりによって子爵家の馬車と警護とは」
「それよりジーク様抜きで領内は今後どうすれば……」

 ジークは【キンダーガーデン】のスキルを得たことにより、土魔法の力が増大したが、大陸では戦闘職を持たない貴族に対し戦場に出ることを禁じる不文律があった。
 ジークは戦に出ない間、こども園の園長として施設整備や通学路の敷設だけでなく、園児の給食を賄うため、畑を耕したり、用水路を敷設するなどして辺境伯領の内政に尽力してきた。

 実際、この三年で領内総生産額は上昇しており、負債の完済も目前だった。
これから黒字経営にかじを取ろうかという矢先の追放は、辺境伯領、そしてマイヤー家の財政を担う者たちに考えられないほどの打撃である。

 他貴族が攻撃魔法を使えないジークをあざけるのは、大陸でも珍しい土魔法の使い手に対するやっかみも多分にあった。ジークは本来、地方領主からは、喉から手が出るほど欲しい人材だったのだ。

 そして、今後のマイヤー家を憂いつつ、ジークの身を案じるのはメイドたちとて同じ。もっともこちらは、クランツの日ごろの悪行のせいでもあるのだが。

「よりによって次期ご当主があのクランツ様なんてね。お姿は綺麗ですけど、本当にお強いのかしら」
「それより性格よ。アメルダ様に似て裏表があるし、おまけに女癖も悪いよね。この前の狩りでも“山で獲物は獲れなかったけど、村で女は獲れた”なんて私たちに自慢してくるの。信じられない」
「最低。どうせならジーク様のところで働きたいなあ。ご無事なのかしら」
「心配よね~」


 ところがこの数日後、使用人たちの思いとは裏腹に、辺境伯館に凶報が飛び込んで来た。

「御屋形様! 男爵領から早馬がっ! ジーク=マイヤー様が、セミリアにて息をひきとられたとのことです‼」

「むう……」

 グランが受け取ったのは、ジークの死亡を知らせる書簡だった。

 関所を抜けたあと、一角狼の群れに襲われた。馬車は何とか街までたどり着いたが、ジークは既にこと切れていたという。

「これもまた運命か」
「そ、そんなジークが……」
「父上、母上、私がおりますのでお気をたしかに」
「ああ。クランツ。あなたは、なんて優しい子なの」
「アメルダ、かわいそうに震えているのか。儂とクランツがいるので、大丈夫だ」
「はい。あなた」

(くくく……)

 アメルダは、涙をこらえるグランに気遣われながら、湧き上がる笑みを押し殺していたのだった。
次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(Twitter)で共有する