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謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。

第5話 一角狼
「まずい! すぐ準備をしろ!」

 馬車が出発したと同時に、藪の中から黒い塊が次々に飛び出して来た。一角狼と呼ばれる極めて危険な魔獣の群れである。

 しかし生息域が違う。なぜここに?!
 いるはずの無い魔物の襲撃。不自然極まりないことだが、今は生き延びることが全てだ。

 俺は客車を切り離し、御者台に直接荷台を取り付けた。

「よし、すぐに出せ!」
「あう……」


「ぐおおおおーーーん!」

 荷馬車が走り出すや、魔獣の叫び声が迫ってきた。

 俺は揺れる荷台につかまりながら詠唱を開始した。

「大地の壁よ、高くそびえよ! ストーンウォール!」
「ぎゃううう~ん!」

 先頭付近の何頭かは、地面からせりあがった石壁に激突したようだが、しばらくすると左右からまわって再び追いかけてきた。

「大地の力よ、ぬかるみの元に導け。ドロップ!」
「くおおおん」

 先頭を走る二、三頭がぬかるみにはまると、後続の数匹も巻き込まれるが、まだ二十頭ほどもいる。こんなとき、攻撃魔法が使えないことが恨めしい。

“ガタッ”

 馬車が悪路に車輪を取られ傾いた瞬間、先頭の一頭が大きく跳躍した。

“ズバッツ!”

「きゃううん」

 俺は体勢を崩しつつ、喉元を横なぎに剣を振ったのだが、魔物は息絶えることなく地面に転がった。
 義母から贈られた両手剣は、造りこそ立派だったが、あろうことか刃つぶされた単なる鉄の棒だったのである。俺はこの剣を見て、義母の殺意を確信したのだった。

「大地の力よ、ぬかるみの元に導けっ! ドロップ!」
「くおおお〜ん!」

「くっ!」

 またもや一匹が大きく跳ねてきた。俺は必死で薙ぎ払ったのだが左手をやられた。このあと、俺は土魔法と剣で何とか一角狼の攻撃をしのいでいく。


 そこから悪夢のような時間がはじまった。


(くそ)


 意識が遠のいていく。

 揺れる荷台の上で上手く止血が出来ず、思いのほか出血が多かったようだ。

 俺の魔力もそろそろ尽きるだろう。血に濡れた腕を押え、もう一度詠唱をはじめようとしたとき、馬車がびりりと揺れた。

「ひひーん!」

 馬のいななきと共にスピードが上がった。
 おかげで俺は、遠ざかりそうな意識をもう一度取り戻すことができた。

「ぐおおおん!」

 それにしても、一角狼の群れはかなりしつこい。
 通常なら通常は群れのリーダーが斃れると、四散するはずなのだが、最後の一頭になるまで俺たちを追い続ける気のようだ。

「大地の力よ、ぬかるみの元に導け、ドロップ! 」

 俺は最後の詠唱を唱えると、大の字で倒れ、泥のように眠ったのだった。


◇◇◇


「……うっ」

 眩しい朝日で目を覚ました。どうやら生きているようだ。左腕の出血は止まっている。俺はシャツの袖を切り裂くと手早く処置を済ませた。

 体を起こすと目の前に石造りの城門が見える。セミリアの街だろう。

 馬車が城門に近づくと、城門がひとりでに開いた。
 血に濡れた左手を庇いながら馬車を降りると、俺の後を女御者が付いてきた。

「ところで、お前の名は……」
「あう…」

 よく聞き取ることが出来ない上、筆談しようにも字が書けないらしい。
 おまけに、声を出すこと自体もつらそうだった。

 「ミイ」と言っているように思うのでそう呼ぶと、猫耳をピクピク動かして嬉しそうな顔をした。きっと合っているのだろう。

「ここまで運んできてくれて感謝する。これはせめてものお礼だ。もう好きにしていいぞ」

 俺は、金貨の入った袋を渡そうとしたのだが、ミイは受け取ろうとしなかった。

「……」
「一体どうした?」

 俺を見上げてふるふると首を振っている。どうやら俺に付いてきたいらしい。何か理由ありのようだ。

「ならば、ひとまず付いてくるか」
「あう!」

 俺の言葉に嬉しそうに耳をぴくぴくさせるミイ。

「そうと決まれば約束通り、この金は受け取ってもらうぞ」

 何しろ魔物の群れを振り切った後、ここまで運んでくれたのだ。
 逆に俺はこの命の恩人に対して、いくら刃が付いていないとはいえ、半ば脅すように剣を突きつけた後ろめたさがある。

 俺は無理やり金を渡すと二人で領主館に向かったのだった。
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