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謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。
第2話 義兄と義弟
「おい、いい加減、返事してくれないか」
「…………」
館を出発してから四日が過ぎた。
馬車は古びている上、この辺りまで来ると街道も舗装がされていない。
思いのほか揺れは少ないのは御者の腕のおかげだろうが、それでも疲労は、日一日と澱(おり)の様にたまっていく。
しかし、体の疲れよりつらいのは、アメルダが付けてくれた子爵家の者たちが、誰も口をきいてくれないことである。そして彼らがこそこそ密談している様子は、俺に実母の死因を想起させた。
アメルダは、周囲には慈母ように振る舞っているが、俺の実母の殺害に関与していたという噂がある。このままでは俺も母と同じく毒殺か、あるいは盗賊の仕業と見せかけて、斬殺されてもおかしくはない。
「……クソっ」
この先にある関所を出れば、俺が与えられた領地=追放先になる。
暗殺者が動くなら今夜かそれとも明日の夜か―――。
俺は義母から恩着せがましく贈られた剣をしばらく眺めると鞘におさめて再度唇を噛みしめた。
(お前らの思い通りになんてさせねえよ。絶対に)
俺はうすら寒い馬車の中でひとり、生き残るための思考を必死でめぐらせていたのである。
◇◇◇
その頃、辺境伯館では、マイヤー家によるクランツの【聖騎士】スキル付与を祝う宴が催されていた。これは実質上、父の後継として家督と領地を受け継ぐということを内外に知らしめるものである。
マイヤー家の寄子となる騎士爵や義母の実家である子爵家からだけでなく、侯爵家や公爵家といった王都の大貴族までもが招待された煌びやかなものだった。
その宴の主役であるクランツは金髪碧眼、長身の優男。ご令嬢たちの熱い視線を一身に集めていた。
「まあ、あの方がクランツ様……なんてお綺麗な瞳なのでしょう」
「長いおみ足に、純白のお召し物が素敵ですわ」
「しかも、我が国二人目の【聖騎士】スキルをお持ちとか」
「きゃあ、い、今クランツ様がちらりとこちらを……」
「ど、どうしましょう」
そ知らぬ顔をしつつも、自分に注がれる賛辞に酔いしれていたクランツの元に、主賓として招かれた公爵が近づいてきた。
「はじめましてクランツ殿」
「これはこれは公爵様、以後お見知りおきを」
「宮廷では貴殿の【聖騎士】スキルの噂で持ちきりです。陛下からもぜひよしなにと」
「これは、もったいないお言葉」
「それから、これは内々なのですが、一度王宮に遊びにおいでになられませんか。王妃様が第二王女のセレーネ様を是非クランツ殿にご紹介したいと」
「な、何と、王都の花と名高いセレーネ姫を……是非お伺いしたく思います!」
「では、よしなに」
(ふふふ……。当然のこととはいえ、王家といえども僕の実力を無視できないようだ。まあそれも当然か。第一王女じゃないのが少し不満だが、王都に行くついでに第二王女の顔でも見てやりに行くか)
「まあ。クランツ様と話されているお方は、公爵様じゃなくて」
「ひょっとして、ご縁談かしら」
「そんなの、嫌ですわ」
「どうしましょう」
(それにしても下々の女どものうっとおしいことよ。どいつもこいつもサカりやがって、まるでサルだな。こんな下層階級の女どもなど一夜の相手でも願い下げなのだがが……。ゴミ相手に気が重いが、一応サービスしてやるか)
「今日は、私のためにわざわざお越しいただき、ありがとうございます。皆様のお美しさに比べれば、美の女神でさえ裸足で逃げ出すことでしょう。今日は存分に楽しんでいってください。乾杯」
「「「きゃ~っ‼」」」
クランツは、熱い視線を送る貴族令嬢たちに流し目でウインクすると、わざとらしく前髪をかきあげてグラスを傾けたのだった。
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