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謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。

第10話 神獣の仮面
「いいか、ジーク殿【キングガーデン】は『王の庭』という意味じゃ。まさに王たる資質の持ち主。神のスキルとも呼ばれておる……もぐもぐ」
「凄いというのはわかったんだけど、具体的にどんな力があるんだ?」
「マナカ様、口の中に食べ物を入れておしゃべりしてはいけません」

「……それが、わらわにも詳しいことはわからんのじゃが、魔力量はとんでもないことになっとるぞ……」
「マナカ様! お行儀が悪いですよ」
「小さくなると、体がうまく動かんのじゃ。大目に見てくれんかの」
「言い訳してもダメです。黙ってこちらを向いてください」
「むうぅ……」

 スモッグに着替えたマナは、エリンダに𠮟られながら、口の周りについたソースを拭いてもらっている。
 午前中は、元の姿に戻ってしまったショックで寝込んでいたものの、さすがに昼頃にもなると、お腹がすいたようで自分から起きたようだ。



「何はともあれ、ジーク殿が魔力を定期的に供給してくれると助かる」

 食事を終えて、物欲しそうに俺に頭を近づけるので、なでなでぽんぽんしてやった。一日一回はして欲しいそうだ。

「これからお世話になるお礼と言っては何じゃが、ジーク殿にぴったりのモノがあるのじゃが……」
「これは……」
「古来より伝わる神獣の仮面じゃ」

 マナが俺に手渡したのは、白虎の仮面。白虎は、古来より国を守る神獣とされてきた。

「虎人族が困っていた時にわらわが力を貸してやったことがあっての。この仮面はそのときに友好のしるしとしてもらった物じゃ。かれこれ三百年ほど前のことじゃが、保存状態が良いから今でも十分被れるじゃろう」

 俺が言われるがまま仮面を被ると、たちまち俺の顔と一体化した。白地に黒の虎耳と丸い尻尾、そして手のひらには肉球が出来た。
 神獣の仮面は被った者の魔力で虎人族の力を宿すという。声もマスク越しのせいか少し低く、別人のようになった。

「ジーク殿はこれをつけて、わらわの傍に……。いや、わらわをジーク殿の傍に置いてくれんかのエリンダ、すぐに館の者を集めてくれい」



「皆の者、よく聞いて欲しい。この度わらわは、相談役としてリューク殿をお迎えすることとなった。リューク殿はわらわの右腕であるが、良き友人でもある。皆、わらわと同等に扱うように」

「これからしばらくやっかいになるが、よろしく頼む」
「ジーク殿よく似合っておるぞ。いや、もはやリューク殿じゃったか。それからしばらくなどと言わず、ずっと一緒にいてくれい」

 そして……。

「『ジーク=マイヤーここに眠る』か……」

 ジークの葬儀に参列した俺は、リュークとして自分の墓に花を手向けたのだった。


◇◇◇


 一方、俺の死が伝わったマイヤー家では形ばかりの喪に服した後、慌ただしく遠征軍が出発した。天山山脈のすそ野に広がる湖沼地帯を縄張りとする、リザードマンの討伐である。

 グラン自ら軍を率いて出陣したものの、予定戦場を前にして足踏みを続けていた。この事態に、グランのイライラは募るばかり。

「ええい、何をしておるのだ!」
「はっ、それが……」
「まだ動けぬとは、一体どうなっておるのだ! 後続部隊は遅すぎるではないか」
「それが、補給部隊が遅れているらしく、この山越えの悪路に苦戦しているようです」
「ぐぬぬ……」

 スキル【聖騎士】の加護により守られた無敵の主力部隊は、悪路もものともせず、いつものようにすすむのだが、後に続く工兵や補給部隊は遅れがちである。

「御屋形様は、ああ言われるが、こっちはたまったもんじゃねえぜ」
「そうそう。今までは、行軍しながらジーク様が、道を整えてくれてたものな」
「全くバカな話さ。戦ってのは、補給のことなのによ」
「違いねえ」

 辺境伯軍が長期の遠征をするようになったのは、ここ2、3年のことである。そしてそれらの戦は、全てジークの土魔法のおかげで、補給部隊は楽々と通過することができた。
 工兵の数もほんのわずかで良かったのだが、今回は大勢の工兵が必要だったにも拘わらず、工事がなかなかすすまない。

 いつもはどんな悪路でもジークがストーンウォールで地面の上に石壁をつくって、舗装していたが、今回は、人や馬の力で岩や倒木を撤去し、陥没部分を埋めて少しずつ進むしかないのだ。

「くそっ何たる体たらくじゃ」

 結局、辺境伯軍は何の戦果も挙げられないまま、領内に引き返すことになった。



「御屋形様、後方部隊が一角狼の群れに襲われています!」
「何だと! この辺りは奴らの縄張りではないぞ!」
「それが、なぜか……」
「ええい分かった! すぐに向かう。我に続け!」


……


「……まさか、こんな」
「御屋形様、生き残った者は全員、物資を持ったまま逃散した模様です」
「く、くそっ!」

 そこには、一角狼の群れに蹂躙されつくした補給部隊の残骸があるだけだった。
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