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僕の本ありませんか?

現実
 高校を卒業して、ブラックな居酒屋で働き、体と精神を病んで早3年。引きこもり生活に飽きた僕は、ラノベなら書けるのではないかとテンプレを元にしてカクヨムに投稿した。

 まったく反応がない。

 書き貯まった小説を、まとめて「ナロー」に投げたら、どういう訳か日間1位になった。

 人生何が起こるか分からない。

 2週間後、僕が全く知らなかった出版社から、出版契約の連絡が運営を通して来た。うん、運営を通してなので問題はないだろう。一応出版社を検索してみると、それなりに書籍を出している出版社だった。僕が知らないだけだったようだ。

 連載を続けながら、僕は出版のため何度も何度も書き直しをした。エピソードも丸ごと変え、エロいサービスシーンも増やした。

 引きこもりが深夜を惜しんで働いた。そして今日は念願の出版日。

 僕の住んでいる場所は、お隣が関東地方の県。県庁所在地ではないが一応市だ。文化都市などと名乗っているためか、本屋も10軒ほどはある。

 僕は、久しぶりに本屋巡りをした。一件目の小さな本屋には僕の本はなかった。

「まあ、個人経営の小さな本屋だから」

 2軒目、3軒目。やはり置いていない。8軒目大手のレンタル屋を兼ねたチェーン店。ここなら!

 ……何でないんだ! 店内のPCで検索したら、『お取り寄せ可』と出て来た。

「取り寄せならアマゾンで買うよ」

 そう呟いて最後の店に向かった。

「どうして置いていないんだ!」

 僕は店長に言った。店長とバイト1人の個人経営店。言われた店長が話を聞いてくれた。

「そうですか。でも身バレが嫌で出身地公表していないんでしょう? だったら分かりませんよね。ちなみにペンネームは?」
皿武さらぶ ★ れっど
 
 僕はコピー用紙に「皿」「武」「☆」「赤」と書き、サラブ レッドです、と名乗った。

「ひどいな」

 店長はサインを見、作家名を聞いてため息をついた。失礼な。

「では、サラブ レッドさん。いいですか?」

 他人から音声で作家名を言われると、めちゃくちゃ恥ずかしいな。うん。確かにやめておけばよかった。普通にサラブレッドとカタカナにしておけば。サラブで切れるとなんか嫌な感じになるのはなぜだろう。

「何部刷ったか覚えていますか?」

 僕は契約を思い出した。確か7000部?

「そうですね。8000部も届きませんでしたか。ところで、全国に書店はいくつあるとお思いですか?」
「え? 3000とか4000とか?」
「8500店以上あります」

 そうだよな。こんな市でさえ10軒以上あるし、隣町にもあるよな。

「それだけで、7000部では足りません。しかもネット販売で3~4割押さえられているとしましょう。残り4500部ですか? さらにラノベだと本屋以外、アニメ専門店などにも置いていますよね」
「そうですね」

「そして、本屋の棚は仕入れられる数に限界があります。大手が気合入れて宣伝している、絶対売れるラノベと、新人が小さな出版社で出すラノベ、どちらを仕入れるとお思いですか?」
「大手ですね」

「そうです。宣伝も大してしていない、しかも数が少ない本は大都市の本屋に並べないと売れないのです。たまにいるマニアのために向けてですね。それでも売れるかどうかは分かりません。せめて、地元作家として出版前にアピールしてくれていれば何冊かは仕入れたのですか……」

「今からは?」
「無駄ですね」

 結局、隣の市の本屋まで巡ったが、僕は僕の本が売られている所を見ることは出来なかった。

 一月後、打ち切りが決まったと、担当編集者から連絡が来た。
 うん。今の連載打ち切ろう。

 僕はペンネームを変えて、地元愛あふれる作家になろうと決めた。
 そして、出版するならカクヨムで、KADOKAWAのレーベルを目指そうと心に決めた。




 それが10年前の出来事。それ以来出版の話は来なかった。
 俺は、いつしか30を過ぎていた。

最新話です



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