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ある大学生の生態
観察記録1-1
「相沢さん、またあの子来たよ」
「なに?」
一緒に仕事しているおばさんが、唐突に俺を呼んだ。俺が前を見るとある見慣れた学生の顔が目に映る。
「…………」
目の前にいるのは男子大学生。背はやや高めで衣服も清潔感のある。顔も容姿端麗で、それは一見女性のようにも見える。髪型は男子にしては長めで微妙にウェーブがかかっている。まるでテレビとかで出てくる男子アイドルみたいな風貌だ。
しかしキレイなのは外見だけ。こいつの正体は奇妙な常連客だ。
俺がカウンターに目をやるとそこには食券がすでに置かれていた。食券の内容は……生卵、と書いてある。それが一枚置かれているだけ。
ああ、またこれか。こいつはこんな忙しい時になぜか生卵だけを買いに来る。それもほぼ毎日。それ以外のメニューを注文したことは一切ない。
「卵か」
「……早くください」
「ああわかったよ! やるからさっさと行け!!」
俺は小鉢に卵を入れて渡した。あいつはそれを受け取ったらそのまま列を離れて調味料が置いてある台まで向かった。
全く、あいつが来ると注文が滞るんよな。生卵を持ってくるのは見た目以上に手間なんだよ。俺の担当するメニューは卵なんて使わないから、手元にはおいていない。だから卵とじをやっている人からもらいに行かないといけない。
さっきも言ったけど丼ものやカレーは作り置きだからな。隣まで卵を貰っている暇があったら同じ時間で一つくらい用意できる。
――まあいい。今順番待ちしているのは六人だ。この時間帯から新たに順番待ちに入るやつは少ないから今日はこのくらいで終わりやろ。スパートをかけるか。
翌日。今日もいつもと同じように食堂は大盛況だった。
そして……あいつもいつもと同じだった。
「お前また卵か!?」
昨日とほぼそっくりそのままの状況が見事に再現された。
ただ一つ違うのは、昨日より後ろで順番待ちしている学生が多いということだ。
「早くください」
「ああ、卵来たで!」
そういって卵とじをしていたおばちゃんにお願いをすると、彼女は慌てて卵を持ってきた。俺もそれを受け取るとすぐに小鉢に入れてあいつに渡す。
そしてあいつも昨日と同じように調味料の台まで向かった。
全く、なんで混んでる中わざわざ卵だけを買いにくるのか。卵一つのために並ぶのは明らかに手間やろ。
毎日凝りもせずに来てるあたり、本人はその手間を承知なんだろうけど。少し理解に苦しむな。
まあいい。とにかく今は注文を捌こう。
「次は?」
「カレーください」
「カレーやな、少し待ってな」
今並んでいるのはこの子で最後。今日はそろそろ終わりやな。
「それにしても、あの先輩何考えてるんでしょうかね?」
カレーを注文した学生が話しかけてきた。先輩ってのは多分あいつのことだな。
「お前、あいつ知ってるんか?」
「同じ学科の上級生なんです」
「学科は何や?」
「電気工学科です」
電気工学科か。確かに実技科目が多いから他の学科よりは上級生と接触する機会が多そうだな。上級生のことを知っていても無理はない。
「あの先輩、昼休み以外でも食堂で見るんですけど、態度が悪いんですよね。ソファーで寝そべっていたり、それを見て笑っていたら無言でにらめつけてきたり」
あいつそんなこともしていたのか。悪いやつやな。
「しかもその後俺達が笑っていたことを先生に言いつけていたんですよ。『今年の一年には上級生に歯向かう無礼者がいる』とか言って」
マジか。そんなくだらないことで先生にチクったのか。というか、無礼者なんてこの年の学生が使うような言葉じゃないぞ、普通。
「とにかくそれが本当ならあまり刺激しない方がええぞ」
「そうします」
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