くり抜いた樹木の中のような空間、これが新型兵器の操縦室だった。両手は操縦用のグリップを握らされ、脚は肉でできたような質感の衝撃緩和装置に固定されている。
『ええ。大丈夫よ、ピッケンハーゲン少尉。少佐の代わりに引き受けてくれてありがとう』
――私が搭乗したのは新型ゴーレム、アーティフィシャルメイジ。ブリューゲル博士が造った、文字通りの新兵器だ。
『アネット、あなた本当にいいの? 今からでもやめにしない?』
少佐の引き留める声が響き渡った。実をいうと、このアーティフィシャルメイジは三か月前から性能テストが始まっていたらしい。
だけど、テストパイロットをしていた大隊長、ベアトリクス少佐が「こんなもの、信頼できない」と日増しに性能テストを嫌がるようになっていた。
『一応言っておくけど、これはおもちゃじゃないのよ』
――正直に言うと、興味本位で「一度乗ってみたいです」と言ってしまった自覚は、少しある。
でも、おぼろげに覚えている前世で観た映画に出てくるメカに、これはそっくりだった。
――そして、少佐の嫌がる様子と、困り果てた博士の様子を見て、直感的に私が代わりをやらないといけない気がしたんだ。
兵器に搭載された音声システムは、ブリューゲル博士の声を模したもの。脚から私の魔力を吸い上げて、起動するみたい。故に魔法使い以外には扱うことができない兵器のようだ。
ついに見えた光。そこには開いたゲートが映し出されていた。ゲートの先に直進すればそこには魔物達の群れがある。
『これより、新型ゴーレムアーティフィシャルメイジの実地テストを開始するわ』
――普段なら、一人で相手をするのは無理がある数だ。
だけど、少佐と博士が見ているんだ。逃げ出したりしない。
「アネット・ピッケンハーゲン『シュヴァルツ・シュルテン』発信します!!」
燃料が燃える音が、強く響き渡った。戦場に向かって、急接近……さあ、始めよう!!
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造語紹介 シュヴァルツ・シュルテン
アーティフィシャルメイジ
の発展型機体。
既存のゼーレスヴォルフの予備機を、アネット少尉の得意とする近接戦闘用に装備を調整したもの。
試験用の機体のため、装備は柱のように巨大な剣と、胴体に内蔵されたマシンキャノンのみ。