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オオカミとメカ

鎮圧を終えて
『――こちら、アイアンクロス大隊所属、シルヴィア・フローベルガー少尉だ! アネット、聞こえるか!!』


 ――そんな中で、遅れた援軍がやっと来た。

『シルヴィア!? 来たのね!!』

『……その様子だと、もう終わったみたいだな』


 ぐちゃぐちゃに損壊した己の乗機を見て、バツが悪そうにシルヴィアがそう言った。

『急いでそいつと中にいるガキンチョを連れて帰るぞ』

『……そうだね』




 それからのこと。ゼーレスヴォルフを強奪したフィーア・ブリューゲルは、基地に連れ帰られてすぐ、医務室に運ばれた。
 幸いにも見た目より傷は浅く、回復は早く済んだのだが。

「…………」


 ――事情を聴きとろうとアネットが医務室へ向かうと、そこには衝撃の景色があった。
 フィーアがベッドに、拘束されている様子だった。

「少佐、これはどういうことですか!?」

「見ての通り、逃げ出さないように拘束しているのよ」

「いくらあれだけのことをしたとはいえ、子供相手になんてことをするんですか!!」


 完全に四肢を、ベッドの手すりから延長した鎖でつながれているフィーアを見て、アネットが叫ぶ。

「一応言っておくけど、博士の承諾はもらっているわ」

「!?」


 あろうことか、母である博士の承諾もおりているらしい。

「……!!」


 その時、鎖の金属音が響き渡った。

「……目を覚ましたか」


 ベアトリクスが即座に、理不尽な拘束を施した子供の方を向く。

「……離せええ!!」


 目覚めるなり、彼女はさっそく暴れだした。

「大人しくしなさい」


 ――が、そこに少佐は拳銃を向けた。

「――!?」

「私はアイアンクロス大隊所属、ベアトリクス・イーダ・シェーンハイト少佐だ。君が我々の保有する兵器を強奪した件に関して、事情を説明してもらおう」


 銃を向けながら話した彼女は、証言を強要していた。

「無論、これ以上抵抗の意志を見せるなら、この場で射殺する」


 青ざめ始めるフィーア。その顔は、母親相手にも見せたことのないおびえた顔であった。

「少佐!!」

「……どうやら、抵抗する気はないようね」


 その顔を見て、ベアトリクスは銃を降ろした。

「さて、話しを聞かせてもらうわよ」

「…………」

「なぜ我らの保有する、ゼーレスヴォルフを奪った?」


 拘束されるフィーアに、ベアトリクスは質問を続ける。

「…………」


 再び沈黙するフィーア。

「答えるんだ!!」


 沈黙するフィーアに、ベアトリクスは再び銃を向けた。

「あれの開発者は、君の母であるジークリンデ・ブリューゲルなのは知っているな? 彼女はわが軍の軍需品開発に欠かせない人材。君の短慮な行動の責任を彼女に取らせ更迭するのは遺憾だが、君が沈黙を貫くならそうしざるを得ない」

「……言えない」


 だが、それでも彼女は口を割ろうとしない。

「なに?」

「あいつの奴隷になり続けるくらいなら、ここで親不孝な子供として死んでやる!!」

「…………」


 ここでフィーアがあいつと呼んだ人物、それが彼女の母であるジークリンデ・ブリューゲルであることは明白であった。

「……どうやら、口を割らせるのは無理そうね」


 ベアトリクスは銃を降ろした。

「少佐、乱暴すぎますよ!!」

「仕方ないわ。この様子じゃ、何を言っても無駄でしょう。それにこれ以上、彼女に尋問する理由はないわ」

「少佐、それはどういう……」


 少佐がフィーアの方へと視線を向ける。
 彼女の視線とフィーアの視線が交錯した。

「しばらく時間をあげるわ。私の気が変わるより先に、正直に話すことね」

「…………」

「それとあなた、博士のことが……いや、お母さまのことがずいぶんお嫌いなようだけど、私は博士より怖いわよ?」

「……あんただって、あいつと同じだ! 暴力でしか人を従えられないんだ!!」

「軍隊の規律というのは、もとよりそういうものよ」


 その二人の視線が互いににらみ合う中、ベアトリクスがアネットの方を見る。

「私はこれから博士に聞き取りに行くわ。この子は任せたわよ」

「……わかりました」


 渋々ながらアネットが頷くと、フィーアは再び恐怖の視線で少佐を見ていた。

「結局は口だけの威勢ね、子供はみんなそういうものよ」


 フィーアを拘束する鎖を外しながら、ベアトリクスは呟いた。
 そんな彼女に、少佐は無言でいた。
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