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オオカミとメカ

ターニングポイント ゼーレスヴォルフ強奪
「ブリューゲル博士! アイアンクロス本隊からお電話です!」


 海軍の技術士官の一人が、管制室に飛び込んできた。

「……なにかしら? 今は訓練中なのよ」

「緊急事態だとおっしゃっております! 直ちに取次をお願いします!」

「……はあ?」


 博士は戸惑いつつも、受話器を取った。

「もしもし?」

「――ババア! 緊急事態だ!!」


――稲妻のような怒号に、頭を抱える博士。その声は間違いなく、アイアンクロス大体所属のシルヴィア・フローベルガー少尉のものだ。

「なにがあったのよ。それよりババアはやめなさいっていつも――」

「あんたの娘が、アタシのゼーレスヴォルフを捕って脱走した!」

「――!?」


 それは博士にとって、信じられない言葉だった。

「どういうこと!? フィーアがっ!?」

「アタシだってわかんねーよ! いつも通り訓練していたら、突然あんたのガキが大事にしていたぬいぐるみが動き出して、駐屯地の中で暴れだしたんだ!」

「…………」


 ぬいぐるみが暴れだしたというシルヴィアの証言。普通の人間ならありえないと驚くことだが、この博士には心当たりがあった。

「これ以上の説明は少佐に引き継ぐ! アタシは今すぐ予備機であんたのガキを追いかける!!」


――それから、引き継ぎ相手が出てくるのには二十秒もかからなかった。

「……もしもし、ブリューゲル博士」

「少佐……駐屯地で何があったの?」

「駐屯地内の警備をさせていた兵士達の報告によると、ぬいぐるみが突然あなたの娘が閉じこもっていた部屋から一斉に飛び出したそうよ。シルヴィアと私が退治したけど、どうやらこのぬいぐるみはゴーレムに改造されているみたい」


――博士の娘、彼女の名はフィーア・ブリューゲル。四人兄弟の末っ子であり、姉三人が亡くなった事故で運良く彼女だけが生き残ったのだ。

「……それからフィーアは、どこへ行ったの!?」

「現在奪取されたゼーレスヴォルフは、市街地を避けながら北部へ飛行中。このままだとデルタネビュラ大隊の駐屯地を通過して、オシリスフォレストに入るわ」


 いずれにせよ彼女にとって、公私両面において、フィーアの脱走をこのまま許すわけにはいかなかった。

「――とにかく、アネットを急いでオシリスフォレストに向かわせなさい」

「……わかったわ」

「始末書は、捕縛が終わってからよ」


 その一言で、電話は切れた。

「……アネット少尉! 訓練を中止して、これよりオシリスフォレスト方面に向かうわ!!」

「!?」

「シルヴィア少尉のゼーレスヴォルフが、強奪された! オシリスフォレストに向かっているそうだから、先回りするわよ!!」
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