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オオカミとメカ

オオカミたちの休息
「……いい加減にしなさい!」

 互いに言うことを聞かない親子。度重なる喧嘩の果てに、母親がとうとう手を出した。

「兄弟の中で一番出来損ないのお前を、なんで私が今日まで育ててきたのかわかっているの!?」

 この母親、ジークリンデ・ブリューゲルにはかつて事故で亡くなった三人の娘がいた。
 生き残ったのは、この母親が一番出来損ないと思い込んでいる四人兄弟の末っ子であるフィーアであった。

「うるさい! 出来損ない出来損ない言うなあ!!」

 お互いがお互いを思いやらない言葉を重ねた末に、娘はとうとうナイフを振り上げ始める。

(ッチ、またか)

 母親は足早に逃走し、娘を部屋に閉じ込めたのであった。














 その頃、アイアンクロス大隊駐屯地では、昼休みの真っ最中であった。

「だぁーかぁーらぁー!!」
「うるせええ!!」

 だが、それが任務中の数少ないお楽しみになるとは、限らないのがアイアンクロス大隊である。
 みっともない女子同士の言い合いに、周囲の兵士は耳を押さえるしかない。

「うわ、あの二人また喧嘩している……」

 喧嘩のあらましとしては、アネットのテーブルマナーが発端。
 田舎育ち故か、あまり上品とは言えないその佇まいに、没落したとはいえ名家出身のシルヴィアが言い合いを吹っ掛けたという流れだ。

「お前のそういうところが嫌いなんだ! 少しは上品にできないのか!」

 もっとも、このシルヴィア少尉も、彼女は彼女で戦地にいる際は、アネットが食事をしている隣で堂々と喫煙をしていたりするのだが……

「あんたこそ何度言ったらわかるのよ! いっつもいっつも、ご飯を台無しにすることばっか言うのをやめろって言ってんのよこっちは!」
「――いい加減にしなさいッ!」

 そこに響き渡った、大隊長の一喝。

「二人共、なんで静かに食べることくらいもできないの! あんた達の喧嘩に付き合わされる身にもなりなさいよ!」

 この二人の喧嘩は、大隊長のベアトリクスでしか止められない。他の兵士達は心の中で「まあいつものことだ」と思いつつ、巻き込まれないようにそそくさと、レーションを片手に退散していく。

「すみません……」
「……申し訳ありません」

 共和国軍最強とうたわれるアイアンクロス大隊の双璧、黒い鎧と白い剣の異名を持つアネットとシルヴィア。
 その実態は、見ての通り軍人とは思えない幼稚な精神性の持ち主なのである。




「……それよりあなた、ブリューゲル博士から、次の任務のことは聞いているのよね?」

 喧嘩が収まった後、大隊長は気品良く食事をしながらアネットに問う。

「あなたと博士を、トリスト海軍第1艦隊に預けることになった」

――トリスト海軍第1艦隊、ウロボロス級竜騎士空母を旗艦とする、共和国海軍の艦隊だ。
 司令官はミハイル・マイヒェルベック准将。ベアトリクス少佐にとっては、同じ軍拡推進派同士でありながら政治思想のわずかな差異で政治的対立している将校の一人である。

「…………」

 ひどく緊張するアネットに対して、全く興味を示さないシルヴィア。
 この二人もベアトリクスとミハイルの仲を把握していないわけでは決してなかったからだ。

「よりによって、ミハイルにあなたと博士を貸すことになるとは、私でも思わなかった」
「少佐、それはつまり、ミハイルの奴がババアの造ったアレを欲しがったってこと?」

――ブリューゲル博士をさりげなく侮辱する、シルヴィア。普段なら注意をするところだが、アネットとの話が大事と判断した少佐は話を続ける。

「シルヴィアが言った通り、博士の造ったアーティフィシャルメイジを海軍が欲しがった。潜水装備として活用したいと」

 陸軍の扱う通常兵器としては、まだ正式配備が決定していないアーティフィシャルメイジ。実を言うとこのベアトリクス少佐こそが配備に反対している張本人の一人である。
 アーティフィシャルメイジの駆動系は、魔力式。搭乗者の魔力と機体を連結させ、手足のように滑らかに動かす起動を実現している。
 だがその駆動系こそが最も配備に支障をきたす原因でもあった。魔法使いにしか使えない兵器の時点で、扱える士官が限定される代物。
 アイアンクロス大隊には優秀な魔術師が多く所属しているから、テスト製造したものをそのまま用いているのだが、他の部隊に配備するために必要な課題はまだ何一つ解決していない。

「なるほど……」

 アネットより先に納得し始めるシルヴィア。確かにアーティフィシャルメイジの装甲は、水圧を防ぐ潜水装備としては比較的適しているだろう。
 それなら海軍が欲しがるのも納得だと、アネットよりも先にその答えへたどり着いた。
 既存の機体をそのまま流用するのはさすがに無理があるが、それは彼らのニーズに合わせて新型を開発すればいいことである。

「だけど、なんでアネットまで貸すことにしたのですか?」

 ブリューゲル博士は、間違いなく新型開発に必要だ。だが、アネットまで別働任務に貸し出す理由まではわからなかった。

「――操縦訓練には教官が必要。訓練教官として貸せるのは、アネットだけよ」

 後ろの一言に、二人は驚愕した。

「ええ!?」
「なんだって!?」
「私が――」
「アネットが――」
『訓練教官!?』


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