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スペース・スカウト~僕は宇宙の偵察兵~

第1話 資源を奪う地球
「あーあ、ヒマだなー、おいれんなんか面白い話しろよ。相変わらず仕事熱心かよ」

「んー? なんだオリバー? まーた仕事サボってんのか? ったくモニターぐらい真面目に見れないのかよ? まってろ、ちょっとトイレ行ってくる」

「あいよ」

 山口 蓮はトイレへ行くために席を立った。
 用をすませた後、手を洗う。

 洗面所の鏡で自分を見るが、三白眼にほっそりとした体つきの自分が居た。
 昔に流行った男性アイドルグループの草薙なにがしに似ていると言われる。

 ハンドドライヤーで手を乾かす。

 病原菌やウィルスをまき散らすと言うことで、ハンドドライヤーは地球ではあまり使われないが、ここは資源の乏しい火星である。贅沢は言ってられなかった。

「おっと、コーヒー買っていかないとオリバーのやつが怒るな。僕の分と合わせて二本っと」

 コーヒーはもちろん合成コーヒーである。

 天然物は火星では超が三つほどつく高級品だ。


「オリバー、コーヒー買ってきたぞー」

「おー、いつもわりーなー」

 この筋肉マッチョはオリバー・リード。
 こいつは彫りの深いイケメンで、金髪をパイナップルのような髪型にしている。
 大昔の俳優の、アーノルド・シュワなんちゃらと言う人に似ている。
 少なくとも筋肉は良い勝負をしているだろう。

 
「AIは暴走していないか?」

 蓮がオリバーに尋ねる。

「ああ、AIは暴走していない。ちゃんと採掘作業をしているぜ」

 彼らの席の目の前のモニターは火星の採掘場が映し出されており、様々なレアアースを採掘していた。

「しっかし、AIを監視するだけってのも退屈な仕事だな。早く帰ってジム行きたいぜ」

 オリバーがあくびをした。

「オリバー十五時の休憩時間だよ」

「つっても、俺らはテレビを見るぐらいしか娯楽がないけどな」

 二人はブツブツ文句を言いながらテレビをつけた。

 チャンネルは国営チャンネルの一つしか無い。


 テレビをつけると、火星の総督が演説をしていた。

 日本語である。

 ここ火星に最初に入植できたのがたまたま日本だったため、敬意を表して日本語が標準語になっている。

 別の言語を話しても良いが、首から下げるネックレスタイプの翻訳機があるので問題にならない。

 事実、連もオリバーも日本語を話していた。

「で、あるからして、我々の資源は徐々に地球に奪われつつある! もう我慢できない! 地球に対して、日本に対して鉄槌を下すべきだ」

 放送では「そうだそうだ」と言う与党議員たちの声が続く。

「なあ、オリバー、これって戦争になるのかな?」

「んー俺は筋肉以外の事はわからん。だがな、俺にも怒りがある」

「なんだオリバー?」

「プロテインがまた値上げしたんだよ、ひでぇだろう?」

 オリバーはボディビルのモストマスキュラーのポーズをしながら言った。

 腹の前で両こぶしを逆さにして合わせるあのポーズだ。

「そういや、このコーヒーもずいぶん高くなったなぁ……」

 日本による搾取は、火星の民をじわりじわりと真綿のように締め上げていた。

 その怒りがいつ爆発するのかは誰にも分からなかった。
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