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黄金の魔女フィーア (旧版)

赤髪の傭兵
「それにしてもあいつら……一体フィーアの何を知ってるってのよ! 実際に話したわけでもないくせに!!」

 馬車に乗ってもまるで我が事のように怒るミレーヌ。狭いから怒鳴り声が強く響く。まだ馬車が動いていないから、かき消す音もない。

「ミレーヌ、まだ怒っているのか」
「当たり前よ! あなたは友達の悪口を言われて腹が立たないの!?」

 ティファレトさんが諭してくれているのにその怒りは静まらない。これは相当頭にきているわね。
 私のためにそこまで怒ってくれるなんて本当に嬉しい。でもこのままじゃあ二人が延焼的に喧嘩になってしまうかも。

「その気持ちはわかる。私も彼らの物言いはあんまりだと思った」

 ティファレトさんは優しく諭してくれているから、何とかなってくれればいいのだけど……

「そうでしょ!」

 私のせいでこれ以上揉め事は起こせない。だからといってこのまま何も言わずにいるのも違う気がする。どうしよう。

「だがここで怒鳴っても何にもならん、無用な疲労を溜めこむだけだ」

――そう思っていたけど、やっぱりティファレトさんは大人だ。説得の仕方が上手い。ミレーヌに対しても、あのパーティーに対しても。そして彼はこう続ける。

「その怒りはこれから出会う魔物共にぶつけてくれ。その方が有意義だ」

 そう言ってくれたおかげで、私達は冷静になることができた。
 なるほど、確かに彼の言う通りだ。あんな連中に怒っていても仕方がない。今は戦いに集中しよう。
 ミレーヌと顔を見合わせる。

「うっ、わかったわよ……」

 彼女も落ち着いた様子だった。よかった、これで一安心ね。
 それにしても驚くほど素直に言うことを聞くわね。私が意見したらもっと反論してくるのに。

「ありがとう。私のためにそんなに怒ってくれて」
「当たり前よ。あなたは私の大事な友達なんだから」
「フッ彼らの物言いが気に入らなかっただけさ……」

 決めた。二人のためにもこの戦い、絶対負けない。まだ出発すらしていないけど、みんなでアルミュールに戻ろう。そのためにも全力で任務にあたるわ。

「あの、すいませーん」

 馬車の外から男の声。あのパーティーにいた人達とはまた違う、はっきりした声。

「なんだい?」

 真っ先に応対をするティファレトさん。馬車の外を見ると、そこには見覚えのある姿があった。あの赤髪の剣士だった。一人保存食を食べていた男子か。

「俺も第七班に配属されたんスけど、乗せてもらっていいッスか?」
「構わないよ。どうぞ」

 役割を決めたわけではないけど、もう完全に彼がリーダーだ。

「よっと、失礼しまーす」

 赤い髪に感情のない冷めた瞳。しかしそれは確かに戦士の顔だった。
――それにしても、この大剣の男。なんだか妙な雰囲気を感じるわね。うまく言えないんだけど、何か違和感があるような……

「まもなく出発します!」

――御者の方の呼びかけと共に、車輪が動き出した。そんな中彼は何のためらいもなく、私の隣に座る。

「えっ!?」

 特に返事をすることなく、彼はリラックスしていた。挨拶もしないのね……

「君は何て言うんだ?」

 そういえば自己紹介がまだだ。ティファレトさんが先陣を切って彼に問う。

「俺ッスか?」
「ああ。君はこれから私達と共闘する仲間だ。お互い知り合っていた方がいいだろう」

 無愛想な感じの彼だけど、ティファレトさんの問いには答えてくれた。

「テオドール・グートハイルです。よろしくお願いします」
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