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黄金の魔女フィーア (旧版)

半年ぶりの冒険
 カマーン村の惨劇から半年。報酬金のほぼ全てを研究と素材の購入に費やした私は、より強力なゴーレムを建造した。
 グラーネは二号機から五号機まで再建造完了。ウッドナイトは派生型を含めて五十体以上新造した。その内三十体はバロン以上の戦闘能力を持ち、もうドゥーエの指揮なしでも家を守ることができる。

「…………」

 しかしこの身に余る力をどう使うか。製法を公表したらこの国の軍は間違いなく侵略戦争に使う。未だに時代遅れな帝政を続けている彼らだから、間違いない。
 民間人を魔物から守るためならともかく、人間同士の殺し合いを楽にするために自分の発明品が使われるのは癪だ。許してはならない。

「お母様、お茶ができました」
「ありがとう」

 いつものお茶の時間。より充実した成果をあげるためには、休憩も大事だ。
 助手として作ったゴーレム、ドゥーエと共にお茶の時間を過ごす。この時間が最も心が休まる時。私が作ったのはあくまでメイドや執事であって兵器ではない。帝国軍の侵略になど、使わせてなるものか。

「フィーア、いるー?」

 そこに聞こえる友の声。ミレーヌが家に来た。それを聞きつけたドゥーエは即座にカップを置いて奥の部屋へ逃げていく。まるで猫のような早業だ。

「いるわよ。どうぞ」

 カギを開けて迎え入れると、そこにはティファレトさんもいた。

「やあ、こんにちは」
「あら、あなたも来ていたの? 久しぶりね」
「はは、こちらこそ」

 私の知らない間に二人は何回も一緒に冒険しているらしい。仲良くなるのも当然の流れだろうか、いがみ合う仲でなければいいことだ。

「座ってもいいかな?」
「どうぞ」

 荷物を置いて机についた二人。何かお話があるみたいね。

「おや、飲みかけのお茶がもう一つあるね?」

 一人でいるならあるはずのない、もう一つのお茶。事情を知らない人は驚くだろう。

「これはドゥーエのよ」
「なに? あの子、ゴーレムなのにお茶を飲むのかい?」
「ええ、あの子に限らず私のゴーレムは動力に水と魔力が必要なの」

 この森の土壌は魔力を多く含んでいる。それはここで採れる湧き水にも多くしみ出している。それをお茶にして飲むという形でこの子は動力を供給しているということ。

「……なるほど、そういうことなのか。勉強になったよ」

 さて、お客さんが来たのだから彼らにもお茶を出さないと。新しいコップを用意するわ。

「さあ、あなた達もどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 おかわりは追加で沸かさないとダメそうね。沸かす準備をする。その間に二人の話を聞こうかしら。



「ほーら、待て待てー! 今日こそはお姉さんと遊んでもらうわよー!」

 家の中ではしゃぎまわるミレーヌ。気が付くとドゥーエを追いかけまわして遊んでいた。

「…………」

 機械的に逃げるドゥーエ。造り出してから対面させるまでに日にちを置いてしまったためか、あの子はミレーヌのことがあまり好きじゃない。おそらく私みたいな大人しい人間と話をすることだけに慣れてしまったからだ。

「……はあ、やっぱりつれないなー」

 早々に飽きて戻ってきたミレーヌ。逃げ足の速さに疲れたようだ。そもそも彼女は追いかけっこをしたかったわけじゃなく、遊び相手が欲しかっただけだもの。

「フィーア、お茶ちょうだい」
「はいどうぞ」

 椅子に座って一息つく彼女。ここに来るたびに同じことを言っている気がする。
 彼女の後ろではドゥーエが無言のまま食器の片づけをしている。家事用のゴーレムだから仕事はできるのだけれど、どこか不愛想に見える。
 でもこれが本来の形だ。誰かの命令を聞いて働くのがゴーレムの役目。自我を持って自由に生きるのは、私が作ったからに過ぎない。
 命令を聞くだけの道具として作ったつもりはないけれど、こういう態度を取るのも無理がないのかもしれない。
 そんなことを考えながら、私も自分の分を用意してもらった。

「そういえばフィーアさん、実は頼みたいことがあるのだけど」
「あら、何?」
「またあなたの力を借りねばならない事件が起きた。この依頼書を見てくれないか」

 ああ、なるほど。また冒険の誘いか。依頼内容は『近郊の魔物の掃討及び神殿の奪還』と書いてある。

――村の近隣で魔物の勢力が活発になっている。奴らの急襲に遭い、儀式のための神殿を占領されてしまった。速やかに奪還したいが、我々の戦力では村を守るだけでも精いっぱい。冒険者の派遣を要請する。
         ムラクモ族族長ブラジェナ・パヴェロパー


「……え、ムラクモ族?」

「ティファレトさん、これって?」
「ああ、私の母さんからの依頼だ。十人近く冒険者が必要らしい。私も戻って参加するつもりだ」

 なるほど……故郷を守るための帰郷に付き合ってくれということか。報酬金は五万アルム。前の仕事とほぼ同額だ。

「わかった、私も行くわ。二人で来たってことは、もうミレーヌは承諾しているの?」
「もちろんよ」

 強化された戦力、それを活用するべき時が早くも来たか。見たところカマーン村の時ほど状況は悪くないようだけど、彼の故郷を守るための戦いだ。気は抜けない。
――ん? 何かしら、この文は?

「追記、帝都にいる我が愛しの息子ティファレトよ。嫁は取れたかの? 早くわらわに孫の顔を見せておくれ……?」
「…………」

 読み上げた途端、浮かない顔をするミレーヌ。

「ああ、これか。こういう話は手紙に書いてくれたら喜んで返事を書くのだが……」

 ティファレトさんも困り果てていた――というか、自分しか読まない手紙でもこういう話はさすがに恥ずかしくない?

「まあいいや。冒険者についてはギルドにも頼んでいるから、とりあえず今は私達三人で出発しよう」

 微妙な空気の中、即座に仕事の話に戻したティファレトさん。やっぱりこういうところはどこかずれている。しかもそれがお母さん譲りだったとは……

「ドゥーエ、聞いた? ここから長い仕事があるわ。チャリオットを用意して」
「……はい」

 よそよそしく物陰から出てくるドゥーエ。二人からは目をそらしたまま外へ出ていった。

「……フィーアさん、一体何をするつもりだい?」
「しばらく待ったらわかるわ」

――それから五分も経たない内に、馬のひずめの音と車輪の転がる音が聞こえてきた。できたようね。

「さあ行きましょう」

 扉を開け、二人を外に案内する。そこにあったのは荷台を牽引する二騎のグラーネだ。

「うお、これはすごいな」

 そう、大規模な戦いに備えて戦闘用の荷台を用意したのよ。チャリオットに改造したことでグラーネの戦闘能力は強化された。騎手なしでも私の命令で自在に移動を制御可能。中にいる乗員は攻撃だけに集中できる。

「わー、すごーい!!」

 新しいもの好きなミレーヌは早速飛びついた。あっという間に荷台に乗り込んではしゃいでいる。まるで一番風呂を喜ぶ子供みたい。

「ティファレトさん、村への地図はあるかしら?」
「ああ、これだ」

 受け取った地図をグラーネに見せる。新しく地図を記憶させる機能を付けたのよ。

「この村まで向かうわよ。いいわね?」
「リョオッカイ……」
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