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黄金の魔女フィーア (旧版)

戦士二人の激突
「行くぞ!!」

 ついに起きた大きな動き。思いっきりの雄叫びを上げ、トロールが突っ込む。

「ふんぬう!!」

 そして両腕で獲物を振り下ろす。だがテオドールはそれを待っていた。強靭な肉体と侮れない知性を持つトロールを相手に正面から挑むのは分が悪い。だから反撃できるチャンスを探るのだ。

「遅いんだよ!!」

 横に回り込む。轟音と共に大穴が開き、そこにハンマーがめり込む。

「ぬう?」

 次の攻撃のためにハンマーを持ち上げる動作、これこそがテオドールの待ち望んだチャンスであった。

「はあああぁぁぁぁッ!!」

 己の全ての力を込めて剣を振るうテオドール。横腹に分厚い刃を叩き付けた。

「ぐおっ!?」

 完全に直撃。噴き出す赤黒い血がその一撃の重さを物語っていた。
――だがテオドールは気が付いている。この様が己の予想したものではないことに。
 肉に引っかかり剣がこれ以上通らない。本当ならば胴体を真っ二つにしてケリをつけるつもりだったのに、そこから先へは繋がらなかった。だからと言ってここから引き抜こうにも中途半端に深く入ったことが邪魔になる。

「中々やるな! だがッ!!」

 戸惑っている間にトロールは別のハンマーを取り出す。こちらは片手用の軽量ハンマー。

「そらあ!!」

 腹で刃を受け止めたまま、ハンマーを叩きつける。一撃で刃は折れ、金属音が響き渡る。

「クソッ!!」

 武器を失い全力で逃げるテオドール。その間にトロールは手放した獲物を再び取る。

「今のは見事だったぞ。だが少しばかり読みが足りなかったな」

 痛みをものともせずに迫るトロール。普通ならなすすべがない状況。

「……読みが足りないのはあんただ」
「何?」

 だが彼は諦めていなかった。

「ミレーヌ、今だ! 援護を!!」
「オッケー!!」

 両手を前に出して魔法を唱えるミレーヌ。テオドールが逃げたのは彼女と反対側。確実に魔法が間に合う距離までトロールを離したのだ。

「フラッシュバスター!!」

 放たれる三つの光弾。ただでさえ見切るのが困難な魔法を手負いでかわせるはずもなく、三発全てがクリーンヒットする。

「おのれ……!!」

 振り向き向かうトロール。トドメを刺すつもりが、思わぬ窮地に立たされた。

「邪魔をするなあッ!!」

 捨て身の攻撃で迫るトロール。ハンマーがミレーヌに迫るが、それより早く魔法の迎撃が勝った。

「ぬおっ」
「……よし!!」

 ここぞとばかりに迫るテオドール。トロールは既に浅からぬ傷を負い後ろに気を回すどころではない。
 剣は失ったが予備の武器はまだある。銀のナイフとオーダーメイド品のフランベルジュ型ナイフ。目の前の敵は軽装故に、どちらの武器でも充分対抗できる。

「こんのおぉぉぉッ!!」

 背からフランベルジュで切り裂く。トロールが苦悶の叫びをあげると共に縦一文字に血液があふれ出た。
 そしてそのまま背中側から組み付く。トロールの力ならあっさり振り払えるはずだが、痛みにより力が入らず追撃を許してしまう。

「終わりだあぁー!!」

 喉への一撃。軽く手首を振るだけの斬撃でいとも容易く切り裂かれ、血しぶきを放った。

――そして正面に倒れ込むトロール。いくら屈強な肉体を持っていようとも、この世の生物全ての共通した急所である喉を切り裂かれたのだ。耐えられるはずがない。
 一転して静寂が訪れた。聞こえる音があるとしたらテオドールの過呼吸だけ。

「……ほう、やるでは……ないか、若者よ」

 静寂を破る声、トロールのものだ。

「名は……何という?」

 再生能力が発動したようだが、喉を修復するのが精一杯のようだ。
 戦う意思はすでにない。彼の最後の望み、それは自分を倒した戦士の名であった。

「……テオドール・グートハイル」
「テオドールか……良い名だ」

 望みが叶った途端、彼は穏やかな表情になった。出血によって耐え難い苦痛を味わっているだろうに、その表情からはそれを一切感じさせない。

「俺の名も教えてやろう……俺はプロケラ……」

 プロケラ、それは古代語で嵐の戦士という意味であった。

「最後にお前のような戦士と戦えて、満足だ……」
「……どうも」
「だが心しておけ……我らは尖兵にすぎん……いずれ同胞たちが、我らの死を糧にしてお前達の帝都を食い破る日が来るだろう……」
「…………」
「そのことヲ、ワ・ス・レ・ル・ナ……グフッ」

 果てたトロールの残した言葉。負け惜しみと呼ぶにはやけに意味深であったが、テオドールは気を取られることなく背を向ける。

「……なにしているんスか?」
「えっ」
「こんな奴に構うことはない。さっさとティファレトさんとあんたのダチを、助けに行くッス」
「…………」

 ミレーヌは今の言葉が気がかりに感じているようだが、二人はそのまま地下倉庫へ足を進めた。
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