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黄金の魔女フィーア (旧版)

遺品がない
 二階は二人に任せましょう。見取り図では一階の方が大部屋が固まっている。二人よりも時間がかかるだろう。
 エミリーに気を払いながら、丁寧に調べていきましょう。



「うむ、なかなか多くの遺品が見つかったな」

 調べたのは食堂、書斎、応接室。そこにあった遺品を入口に近い食堂にまとめた。

「しかし妙だ。金になりそうなものは一つもない」

 壊れた食器や破れた本。確かにお金になるものではないわね。

「……それどういうこと?」

 エミリーが途端にティファレトさんをにらむ。

「どうした?」
「ここの村長金持ちだったんでしょ!? なのになんでこんなガラクタしか見つからないのよ!!」

 どういうわけか、何の前触れもなく怒りだしたエミリー。
 そんなに美術品が欲しかったのか。だとしても当たられるのは困るのだけど。

「エミリー。仮にこれらが金目のものだとしても、君のものになるわけではないんだぞ」

 そしてティファレトさんの説得。今日何度目かしら。
 遺品に関しては国家に献上することになっている。それも含めての報酬金であると誓約書に書いてあったはずだ。
 そうであるにもかかわらず、エミリーは遺品の価値に固執している。どういうことだろうか。

「そうだぞエミリー。何もそんなに二人に当たらなくても……」

 これまで自分勝手のせいで重傷を二度も負ったアレックスが言う。

「そんなこと言われなくても知ってるわよ!」

 さらに怒鳴るエミリー。忘れているわけではない……? ならなぜそんなに怒っているの?

「ここまで来てガラクタしかなかったら、ブライアンの死が完全に無駄になるじゃない!!」

――そういえばそうだった。ブライアンが死んだのは、お宝があるという話に目がくらんだことが原因。そしてアレックスも同じようにそれで重傷を負った。
 恐らくエミリーは、彼の分まで成果を挙げることが手向けになると信じているのだ。それがこんな廃品ばかりとは、死んだ彼に顔向けできないと。

「……エミリー。彼の死は無駄になどなっていない」

 静かに口を開くティファレトさん。

「……どういう意味よ? 何を根拠にそんなこと!?」
「彼の死が本当の意味で無駄になる時が来るとしたら、君達二人が死んだ時だ」

 ティファレトさんが私達の方を向く。その表情には憐れみが含まれていた。

「生者が生きてその死を悲しんでいる限りは、無駄な死など一つもないはずだ」
「…………」
「ましてやそれが、死者の守りたかったものなら尚更だ」

 ……悲しむ人間がいる限りそれは恵まれた死、ということかしら。

「だからエミリー、君は彼の分まで生きるんだ。君が後を追うことなんて、彼は望んでいないだろう」
「……わかったわよ! だったらあんたが責任もって最後まで私のことを守りなさいよね!!」

 助けてもらう立場にしては偉そうね。それでも見捨てる理由にはできない。
 それにあなたには貸しがまだ残っているから。あなたまで恩を返す間もなく死ぬなんて、認めないわよ。

「……そしてアレックス君、テオドール君が言ったように今度は君がエミリーを守るんだ。確かに君の不注意でブライアンは死んだ。その事実はもう変わらない」

 それは私も同じ気持ちだ。この先どんな危険にさらされるかわからない以上、私達は四人で力を合わせて進まなければならない。

「だからこそ、君がブライアンの代わりに、責任もって彼女を守ってほしい。私達も可能な限り協力するが、最終的に命運を分けるのは、君達の絆だけだ」

 信頼関係か……。確かにアレックスとエミリーの間には、私達と出会うより前の信頼がある。出会ってまだ日は浅いけれど、私とティファレトさんだって同じくらい強い絆で結ばれているつもりだ。
 だけど彼らとはまだそれが結ばれたわけではない。むしろエミリーは私達を拒絶している。

「……わかったよ」

 そう言ってうなずくアレックスの顔はとても暗いものだった。
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