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黄金の魔女フィーア

傷ついたアレックス
 無事獣の魔物を討伐した私達は。ひとまずテントを用意して、ひと時の休息についた。

「さてと、さっきは助かったよミレーヌ。まさかあれを一撃で倒してくれるとはね」

 飲み水を渡して礼を述べるティファレトさん。

「えっへっへ、すごかったでしょ?」

 迷わず受け取るミレーヌ。表情は疲れを感じさせないが、多分無理をしている。それとも自身の功績に喜ぶあまり、疲労を意識できていないのだろうか。

「しかし、そんなにリスクのある魔法だったんスか……」

 そこにテオドールの声。いつになく不服そうだ。

「……あんた、何か言いたいことでもあるの?」
「いや、これからはもっとローリスクに勝ちたいと思っただけッス。一度撃ったら一時間も使えなくなる大砲に頼りすぎるのは良くないッスからね」



 ――だけど私の戦いは、終わっていない。むしろここからが本当の戦いだ。

「うううっうううっ!」
「大丈夫よ、落ち着いて!」

 必死で負傷者を励ますエミリーと、激痛に苦しむアレックス。これから彼を治療しなければならない。

「あんた、あのソイル・リジェネートって魔法できっと治せるのよね!?」

 助けてもらう側なのに相変わらず偉そうなエミリーだが、負傷者を前にしてそんなことを言っている暇はない。
 アレックスの負傷箇所は、あまりにも損傷が大きい。あの魔物に右腕を丸ごとちぎられたのだ。普通なら出血のショックで既に死んでいてもおかしくないほどの重症。

「……このままだと、さすがに難しいわ」
「なんですって!?」

 怒るエミリーの声が私を追及しにかかる。

「どういうことなのよ、あんた! さっきは治せたじゃない!」
「あれは傷が深くても、胴体が無事だったからよ」
「!?」

 そう、問題はアレックスの腕の方にある。

「これは丸ごと右腕を失っている。それを土だけで作り出すのは不可能だ。仮にできても拒絶反応ですぐちぎれるか、土の雑菌が全身に波及してしまう」

 今回は丸ごとちぎられた上に、落とした腕も魔物にボロボロにされ使いものにならない。ブライアンの腕が無事だったなら、それを移植することもできなくはなかったが……

「そんな……!?」

 だけどここで折れてはいけない。私は自分にできる限りのことをするだけだ。
 そう覚悟を決めた時だった。

「……なあ、その魔法ってえ」

 辛そうな声でアレックスが全力を振り絞って質問する。

「ようはぁ、つなぎ目を作ることしかできねえってことなんだよなあ……」

 彼の私見はその通りだ。つなぎ目を作って肉を修復することだけなら、生物でもできる。だけど無から欠損部位を延長することなどは決してできない。

「だったらよぉ……」

 彼は自分自身の剣を無事な左腕で指さす。

こいつを、義手の代わりに使ってくれえ……」

 その提案は、私自身ですら想像できなかったものだった。

「……いいの、あなた?」

 思わず確認してしまう。自分の身体の一部を武器にすると言いだすとは。

「ダメよアレックス! そんなことしちゃあ!」

 私が承諾を確認するより先に、エミリーが制止する。

「そんなことしたら! そんなことしたら!」

 泣きながら首を振るエミリー。
 彼女にとって、アレックスは大切な友達なのだろう。だから助かってほしい気持ちは強いはず。だけどその手段が、彼女の想像できる範囲をあまりにも超えていた。

「……ここから帰った後で、みんなからバケモノって言われても、構わねえ」

 痛みに耐えながらも、声を絞り出して語る彼。
 ここまで来て、やっとわかった気がした。

「だって俺は……後に恩人になる人とも知らずにバケモノでもない人間を侮辱してしまったから……」

 そう、彼は私を邪悪な魔女だと侮辱したことを今も悔いているのだ。それに対してはもう和解した件だ。なのに彼は自分を責め続ける。

「俺は、恩を仇で返して死ぬのだけは、絶対に嫌だ……こうすれば、まだ戦えるかもしれねえ……」
「……わかったわ」
「ええ!?」

 エミリーはまだ反論する気満々だったが、私の決意は変わらない。
 私は命懸けで戦うと決意した戦士のために、チャンスを与える。
 ちぎられた腕の肉を、柄に貼りつけ、そことアレックスの腕の断面に土を塗る。

「大地よ、彼の者の新たな血肉となりたまえ……ソイル・リジェネート!!」

 宣言と共に、塗り付けた土が傷を埋めていく。次第にそれは肉と皮膚になり、失った腕の代わりとなる彼の剣を彼自身につなぎ合わせていく。

「うぐぐぐぅ!!」

 だが前の傷を埋めるだけの治療とは段違いの反動が、彼にかかっている。拒絶反応の比は、ただ傷を埋めるだけとは比べ物にならない。――それでも彼は耐えきった。
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