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黄金の魔女フィーア (旧版)

石橋にて
 住宅地を抜け、山道に入った。木の葉が枯れた寂れた森。ゾンビが大量発生したことの影響か、動物は全くと言っていいほど見かけない。いるとしたら小さな虫くらいでしょうか。普段なら材料として喜んで集めるところだけど、今は仕事だから自重しとく。

「うむ、見えてきたぞ」

 先頭に立ったティファレトさんの言う通り、石橋がもう目の前まで見えている。
 対岸はこちら側よりも深く樹が生い茂っており、何があるかはわからない。

「おいブライアン、あの先が村長の屋敷なんだよな!」
「ああ、そうだ」

 元気を取り戻したあのパーティが後ろで叫んでいる。さっき生死をさまよっていた人間の言葉と考えたらまるで危機感がない。子供のピクニックみたいだ。

「あそこに美術品がいっぱいあるんだろ? 早く取りに行こうぜ!!」

 駆け出すアレックス。足早にティファレトさんすらも追い越して行った。

「あ、待てよアレックス! 置いていくなよ!」

 そのまま追いかけるのね……二人共足が速いから、もう橋の真ん中まで行ってしまった。
 エミリーも追いかけるが、他二人と比べたら格段に遅い。ちっとも追いつく気配がない。

「……なんだあれは。安全確認もなしか」

 本当ね。あの人達は失敗から学ばないのかしら。

「でも丁度いいッスよ。あれなら橋の先に魔物がいた時には真っ先にあいつらが襲われる。おかげで安全に接敵できますぜ」

 そしてあなたはまだ、囮にする前提で考えているのね。一応私、彼らと和解したのだけど……いくら戦場を知っている人間の言葉とはいえ、そんな言い方されたら悲しいわ。

「まあ立ち止まっていても仕事にならん。我々も橋を渡ろう」

――そうよね。もしテオドールが言うように橋の先に敵がいたら、ここからでは助けられない。だから彼らを追わないといけない。
 私達三人は走って橋を渡る。後ろにはグラーネも随伴して。
 テオドールだけはゆっくり歩いていたけど、別に何も言わない。彼には彼の考えがあるから、私はそれを尊重した。

「おーいエミリー! 早く来いよ!」

 二人はもう橋の向こうまでついたらしく、アレックスは両手を振って呼びかけてくる。

「待ってよぉ! 二人共早すぎー!!」

 エミリーが頑張って走る。二人を止める気はない。

「バカ、何をしている! そんな無警戒なやり方が戦場で通用すると思っているのか!?」

 見かねたティファレトさんがついに怒鳴る。他人の危険に無関心なテオドールと違って、思いやりのある言葉だ。

「ちょっと、そういうのはあの二人に言ってよ!」
「あの二人も含めて言ってるんだ!!」

 一言言い返したらエミリーを簡単に追い抜き、橋の先へ向かうティファレトさん。私はもう息が上がりそうだった。ミレーヌもエミリーに追いついたところで走るのをやめているのに。

「お前達、いい加減に――」

 その時だった。ティファレトさんが橋の先の近くについた時、具体的には橋の七割程を渡った頃。謎の咆哮が響いた。まるで女性の金切り声のような、悲痛な叫び。

「…………!?」

 その瞬間、ティファレトさんの足が止まる。後ろ姿だから表情はわからないけど、何か危険を察知したかのようだ。

「ん? どうかしたか?」

――あまりにも間抜けな一言。それがブライアンの最後の言葉だった。頭上から来た何か、その足が彼を踏み潰し、一撃で粉砕。彼はそのまま血の滴る肉塊となった。

「キィシャァァァァァッッッッ!!!!」

 そこに立っていたのは、何とも形容しがたい魔物。肉体が腐敗していることからゾンビのようだが、それにしては巨大すぎる。頭部も人間のものではない。まるで牛の頭のようだ。
 だったらミノタウロスなのかしら? いや、それはない。ミノタウロスはオスしかいない種族。アンデッド化が原因で肉体が変化したとしても、こんな甲高い咆哮は上げないはず。
 こんな魔物は見たことがない。今目の前にいるのは全く見たことのない脅威。

「うわああ!? バケモノ!!」

 抵抗するアレックス。しかしこんな至近距離で迎撃できるはずもなく、一振りで右腕を引き裂かれる。

「うぎゃあああ!!」
「キャアァ!? アレックス、ブライアン!?」

 あまりにも凄絶すぎる友の死。仲間の名を叫び、慟哭するその声を聞きつけて魔物がこちらをにらむ。

「まずいぞ!!」

 彼の言う通りだ。足場が狭い橋の上では分が悪い。

「ミレーヌ、逃げるわよ! エミリーを連れて引き返して!」
「わかったわ!」

 テオドールも気づいた。二人と魔物を見た途端、さっきまでのんびりしていたのが嘘のように、後ろへ走り出す。

「キアアアァァッ!!」

 負傷したアレックスに向かって、獣の魔物が突進。

「うわああっ来るなあ!!」

 片腕で必死で剣を振り回して追い払おうとするが、あれでは絶対に助からない。

「やめろっ!」

――その時、ティファレトさんが腕を上げて何か放った。

「ッッ!?」

 鉄の塊のようなもの、それが天から獣めがけて降り注ぐ。

「お前の相手は私だ!」
「キィィアアアッ!!」

 胴体を強く起こした咆哮。敵が標的を変えた。

「さあアレックス君、今の内に逃げるんだ! いいな!?」
「――ッ!?」

 友の亡骸を置き去りにして、必死に走るアレックス。とうとう私とすれ違い、元来た方向へ。

「グラーネ、あの魔物を攻撃しなさい! 少しでも時間を稼ぐのよ!!」
「リョォッカイッ……!!」

 駆けるグラーネ。ティファレトさんとすれ違い、敵と対峙する。

「フィーアさん、逃げるぞ!」
「ええ!!」

――私達が逃げている間にも、あの魔物の咆哮は聞こえてくる。同時にレンガが壊れるような轟音も。
 恐らくグラーネが押されている。当然だ、あくまでグラーネは対人用のゴーレム。あんな大型の魔物と戦わせるために作ったものではない。用途が違うもの、勝てるはずがないわ。
 こんなにも早く捨て駒に使うことになるとはね。でもこうしないと逃げ切れないわ。

「もう少しだ! 急げ!!」

 なんとか戻ってこられた。橋を抜けてすぐに、近くの樹々に隠れる。



「みんな、大丈夫……?」
「ああっ、アレックス! しっかりして、しっかりしてえ!!」

 ブライアンを殺された上アレックスも重症を負ったからか、エミリーは完全に恐慌状態となっていた。

「何ッスか、あの魔物は!?」

 冷静なテオドールすら、戸惑いを隠せないこの状況。間違いない、このままだと全滅を待つだけだ。

「わからん! だが、物凄く手強い相手なのは間違いない!!」
「ああ、見て! グラーネが!?」

 橋の先を確認すると、もうグラーネが破壊されていた。胴体はバラバラにされた状態で橋の上にぶちまけられており、面影を残すのは足だけに。
 そして魔物の咆哮。上半身を起こし、一層大きな金切り声を響かせる。さしずめ勝利の雄叫びと言ったところかしら。
 魔物はこちらを向いたまま、橋の上を離れない。もしあの魔物が知能を持った上で行動しているなら、おそらく橋の見張りをしているのだろう。
 間違いない。あの魔物は何者かが人為的に生み出した存在だ。橋の見張りをしているのは造物主の命令。
 つまりここから先にある村長の屋敷には何かがある。こんな魔物を生み出してでも知られたくない何かが。そもそもあの魔物自体が、その知られたくない何かの一部なのかもしれない。

「ちょっと!? あの変な馬でも倒せない奴なんて、どうやって倒すのよォ!?」
「それをこれから考えるんだろ! うろたえるな!!」

 ……まあ、そんなことは今考えるべきではないわよね。真実を知るためには、あれを倒すしかない。それこそ私が今すべきこと。
 どうする……?
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