設定を選択してください。
黄金の魔女フィーア (旧版)
押し寄せる屍の潮流
「ッシャー! 行くぜ!!」
最初に動いたのは味方。剣士アレックスが前方に突進。迷わず正面のゾンビに切りかかった。
「全く、無謀な突撃だな」
「そうッスね、ああいう奴は真っ先に死にますぜ」
とりあえずあちら側はあのパーティに任せましょう。数は反対側の方が多い。
「グラーネ、後方に突撃! 一匹残さず蹴散らしなさい!!」
「リョォッカイッ……!!」
命令を受け、戦闘態勢に入るグラーネ。後ろ脚だけで立ち、威嚇の後に突撃。
その戦果は、ティファレトさんの予想通り圧倒的だった。突撃するなり接敵したゾンビを踏み潰す。一撃の下にゾンビは肉体を引き裂かれた。
予想通り群がってくる。だけどあんな小さな生き物の爪でグラーネの装甲には傷一つつけられない。
反撃するグラーネ。跳ね回り、周囲のゾンビ全てをひき潰す。
たまにグラーネを無視してこっちに来る個体もいたけど、ティファレトさんとテオドールが二人がかりで抑えて近寄らせない。
「……片付いた、かしら?」
――もう周囲に残っているのは死肉だけだ。アレックス達の方は、どうなっているかしら?
「む、あれはまずい!!」
振り向くと、剣士アレックスが重症を負い倒れていた。
グラーネが後方のゾンビを殲滅している間に集中攻撃を浴びていたようで、遠目に見るだけでも危険な状態のことがわかる。
弓使いブライアンと魔法使いエミリーはたまらず後退していた。
「ちょっとあんた達! 後ろばっか見てないで助けてよォ!!」
よく見たらさっきよりゾンビの数が増えている。後方を殲滅している間に別個体が寄ってきたのか……
「全く、今にこうなると思ってたッスよ」
言い草は他人事みたいだけど、助けに向かうようだ。
「行くぞ、テオドール君!」
「おうっ!」
後を追うティファレトさん。武器の重量をものともせず肉薄。
「ハアァァァァッ!!」
テオドールの一撃。さっきまでの冷めた態度からは想像できない雄叫びだ。それと共に腐肉に叩きつけられた鉄塊は、たったひと振りでまとまっていた三体を両断してしまった。
「行くぞ!!」
ティファレトさんも跳躍。剣術には詳しくないけど、おそらく大技を繰り出すつもりだ。
「ムラクモ流剣術奥義! 鳴動剣!!」
飛び降りる勢いで刃を地面に突き刺す。その瞬間、大地が裂け地面が隆起した!
すごい秘儀だ。周囲のゾンビが皆粉砕される。
きっと彼もこれまでの修行で必死に努力しながらこの技を身に着けたのでしょう。
その後も彼らのペースで戦いは進む。二人共長柄の武器を使っているからか、軽く横に振るだけで簡単に複数体を両断してしまう。
グラーネを呼び戻す暇もなかった。残ったのは胴体を引き裂かれた死体のみ。新米なら間違いなく苦戦するような数をたった二人で殲滅してしまった。
「ふう、片付いたッスね」
「さあ、村長の屋敷に行こうか」
――戦いは終わった。本来の任務である調査に戻ろう。神経質に殲滅する必要はない。むしろ後々のことを考えたら消耗は避けるべき。それに急いで移動しないと次が来るかもしれない。
「アレックス、しっかりして! 傷は浅いわよ!!」
「グググ、いてぇぇぇ!!」
一方あのパーティは必死に手当てをしていた。
「ダメだエミリー! この薬草じゃあ治せそうにない!!」
弓使いの言う通り、このままだと彼は助からない。放置したら時期失血死する。
「ちょっと! あんた達も手当てを手伝いなさいよ! 特にあんた!!」
なに、あの女……私のことをにらんでいる……?
「うわ、勝手な人ね! あんなにフィーアの悪口言ってたくせに!!」
その通りね。さっきまで私を蔑んでいたのに、困った時だけ助けを求めてくる。身勝手極まりない女だ。
「当然でしょ! あんた達が後方ばかり見ていたからアレックスに攻撃が集中したのよ! 今アレックスが死にかけているのはあんた達の所為よ!!」
譲らず反論するエミリー。それは間違いない。支援がおろそかになったのは落ち度だろう。だけど後方の方が手強い相手だったのも事実。後方に戦力を集中させたことが間違っていたとは言い難い。
「なんですってぇ!?」
「ミレーヌ、やめてくれ。彼女らの言う通りだ」
「どこがよ!?」
「勝手な言い草に腹が立つのはわかる。だが支援をおろそかにしてしまったのも事実だ。確かに後方の数は多かったが、あれだけ新手が来ていたならせめて私だけでも彼らの支援に回っておくべきだった」
――そう考える気持ちもわかる。私達と違って優しい人だ。積極的に賛同はしないけど、集団行動をするには最低一人、こう考える必要が必要だろう。
「それでもあんた! あんなにひどいこと言われたのにあいつらを助けるの!?」
「確執はあっても同じ班の仲間だ。私は見殺しにはできない」
これは譲るしかないわ。全く言い返せない。
「とにかく、手当ては私がやる。ミレーヌ、君が嫌なことは全部私が代わりにしてあげるから、これ以上無用なケンカはしないでくれ」
他のみんなが積極的に助けることを拒む中、彼だけが一人歩み寄る。
「……わかったわよ」
ミレーヌはもう止める気すら残っていなかった。
X(Twitter)で共有する