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黄金の魔女フィーア

亡者の激励
 馬車を降り、村へ入る。あのパーティとは距離を取りながら、それでも離れすぎないように。
 言葉を交わしても互いが不快になるだけ。だからと言って別行動もできない。たどりつくまでは同じ道を行くしかない。

『目的地が同じならそこにつくまでは囮に使おう。あいつらの使い道はそれくらいしかない』

 馬車でテオドールがそう言った。和解できないことがわかり切っているとしても、その提案には抵抗を感じた。他人を盾に使って生き延びるようなことだから。
 でも彼は元軍人。この提案はかつての経験に基づいたもののはず。断じて遊び半分ではない。
 初めて戦場に立つ私にできることは、他の仲間を信じること。わがままを言っても迷惑をかけるだけだ。

 それにしてもひどい有り様だ。ガレキだらけの道に、泥と血にまみれた家。何よりひどい腐臭。死体が手付かずで放置されているから当然ね。

「うわっクサ……うっかりしたらご飯吐き出しちゃいそう……」

 大丈夫? そんなこと考えてたら本当に吐き出しちゃうわよ?

「そういえばフィーアさん、ゴーレムはどうしたんだい?」

 彼女と違いティファレトさんは平然としていた。テオドールも何一つ不平を口にしない二人共実戦慣れしているのだろう。

「ゴーレムなら大丈夫。遠隔操作で呼び出せる呪符を持ってきているから」
「ほう、そんなものがあるのか?」

 ふふふ、食いつきがいいわね。これでこそ披露する甲斐があるというもの。

「この青い呪符が呼び出し用なの。同じ刻印の赤い呪符が一組になっているのよ」
「ほう。どう使うんだ?」
「使い方は簡単、普通にちぎるだけ」

――だけど今はダメだ。呪符を使うと光と音が発せられる。音で間違いなくゾンビが寄ってくるだろう。

「ふうん、これが陛下も絶賛した発明なのか」

 テオドールも少なからず興味を感じてくれたのか、私の手にある呪符をじっと見つめていた。

「フィーア! 上見て!!」

――その時、ミレーヌが叫んだ。そこにいるのは無数のカラスの群れ。

「こっちに来るわ!」

 カラスをゾンビに改造したのか。奴らは人間の肉を好んで食らう。

「走れ!!」

 テオドールの声に反応して駆け出す。他の三人も必死の形相でついてきた。
 カラスたちは私たちを追いかけてくる。幸いにも足はそれほど速くない。

「……フィーア、私がやるわ!」
「頼んだわよ」

 ミレーヌが魔法で迎え撃つことにしたようだ。彼女は両腕を構え呪文を唱える。

「フラッシュバスター!!」

 すると光の球が次々と放たれカラスに命中していく。
 だが数が多すぎる。全てのカラスを撃ち落とすことはできない。

エミリー! 頼んだぜ!」
「わかったわ!」

 向こうのパーティーも魔法使いが動く。

「フレイムストーム!!」

 そして彼女の杖から炎の渦が放たれる。直撃したカラスは全て黒焦げになり地面に落ちていった。

「へえ、あの子なかなかやるじゃない」

 ミレーヌは少し悔しそうだが感心している様子だった。

「だったら私も、大技で行くよ!!」

 今度は両手を前に突き出して魔力を集め始める。おそらくあれを使って薙ぎ払うつもりだろう。私は巻き込まれないように離れることにした。

「フラッシュバスター・ストリーム!!」

 ストリームはさっきの光弾を帯状に繋げて撃つ魔法。それが天を薙ぐように次々と撃ち出されていく。
 まるで天に昇る流星のような閃光は、迫りくるカラスを次々と打ち落としていった。
 やがて全てを倒し終えるとミレーヌは疲れ果てた顔を見せた。

「おい、次が来たぞ!」

――その時、テオドールが叫んだ。今度は人型のものだ。早いわね。
 ゾンビは視覚と嗅覚が衰えているから、聴覚を頼りに行動する。これだけ激しい戦闘をしたら無理もないか。密度にムラはあるけど囲まれたみたい。

「……どうやらやるしかないようだな」

 皆、一斉に構えた。これはゴーレムを出すしかないわね。手数を増やすのと同時に、私もナイフの準備を……

「ティファレトさん、ゴーレムを出すわ!」

 呪符の魔力が解放され、それが青く発光する。

「うお!?」

 突発的な光に驚いたのか、ティファレトさんは腕で目を覆った。まあ初めて見る人は驚いて当たり前かしら。
 光が消えた頃には呪符の効果が正常に発動しており、私の目の前にゴーレムが呼び出された。

「これは……馬か?」

――意外と驚きが薄いわね。その通り。

「ええ、馬型のゴーレムよ。名前はグラーネ、私が今まで作ったゴーレムの中で最も対人戦闘に優れる個体よ」

 グラーネが完成したのは去年。私の開発したゴーレムでは比較的新しいもの。
 胴体は木材に動物の骨を張り付けたものであり、内部には動物の死肉を使ったコアがある。足は金属で作っていて、特にひずめは最も堅牢かつ高価な金属、オリハルコンを使った特別製。
 グラーネの蹴りを受けて無事な奴はおそらく人間にはいない。村人の死体から適当に作ったようなアンデッドなら確実に一撃で葬るでしょう。

「うわっ何だアレ!?」
「あいついきなり魔物を呼び出した!?」

 となりの他人が騒いでいるけど、無視ね。もうあの人達は私が何をしても悪口を行ってくるはずだ。

「安心しろ、これは味方だ。恐れることはない」
「それより先に、ゾンビを片付けるッス」

 ティファレトさんとテオドールが、剣を抜いて指揮を執る。

「……確かに、その通りだな」

 三人も正気に戻ったのか、一斉に武器を構える。

「ッシャー! 行くぜ!!」
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