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灰銀の楽園

#2 シシュウへようこそ!
 シシュウ中央都市。
 地龍大陸ケルコス地方に存在する巨壁に囲まれた科学発展都市であり、その技術力は旧時代の技術力に並ぶと、旧時代研究家達から評されている。

 元々、ケルコス地方は鉱物資源が非常に乏しく、七十年前までは行商団によって長い時間をかけ、他地方からの輸入に頼っていた。

 しかし、七十年前にクロムウェル五世によって開設された海龍商会によって運営されている世界列車が登場したことによって一気に流通が潤うこととなった。

 その世界列車No.6がシシュウに建てられた世界駅に向かい、ゆっくりと減速し、停車した。
 扉が開き、流れるように乗客達が降りてゆく。
 
 その様子を真面目に見つめている青年と、顔にハンカチを掛けている状態でベンチに横になっている壮年が居た。

「中山先輩起きてください。もうそろそろお客さん全員降りますよ」

(少しぐらい寝かせてくれよぉ……)「……ん〜あと五分……」
「……チッ」
中山遊星なかやまゆうせい仕事に従事させていただきまーす!」

 壮年の男――中山はベンチから勢いよく立ち上がると、乗車車両の後方へ走る。

(怖ぇー……何?最近の子って先輩に舌打ちするわけ?怖すぎるわー)

 中山は目的の車両にたどり着くとほぼ同時に鍵を開け、扉の開閉ボタンを押す。

(ササッと運んで終わらすか〜)

 中山は次々と貨物を運び出す。

 一時間もかからないうちにひとつの車両を空にする。

「フゥー!終わった終わった」

 中山は涼しい顔で額の汗を拭うと、すぐにトランシーバーの通信を繋ぐ。

「多田〜、そっちは終わりそうか?」
『こっちはもう終わりですね。』
「そんなら最後尾の応援行くか」
『分かりました。今行きます』

 青年――多田と中山は合流すると共に列車の後方へ向かう。

「作業慣れたかー?」
「全然。でもすぐ慣れます」
(強がりだなぁ)
「ちなみに先輩はどれくらいで慣れました?」
「俺はまる一年だな〜」

 会話の最中に互いの共通点を見つけ、話が盛り上がりそうになった時、二体はすでに最後尾に着いていた。

「――ってやつがあってさ」
「先輩、もう着きましたよ」
「あ、そう……」
「ササッと終わらせますよ」

 やる気を見せる多田に対して、中山は気だるそうに車両の中に足を入れる。

 中には数こそ少ないが、大きな木箱が綺麗に並んでいる。

「そんじゃ、俺はこっちからやるから――」

 その瞬間、轟音ごうおんが中山の声を遮ると同時に警報が鳴り響く。

 その轟音の元は中山らが居る車両の真後ろだった。

 屋根に大穴が開き、砂煙が視界を遮っている。

 しかし、中山は見た。

 砂煙の中でうごめく巨大な翼を。

 多田は見てしまった。

 砂煙の向こう側からこちらを覗く鋭い瞳孔どうこうを。

「多田、走るぞ」
「え?」
「いいから、早く!」

 中山はすぐさま多田の腕を引き、砂煙とは反対の方向へ駆け出す。

 多田はそれに逆らうことなく、共に駆けだした。

 二体がひとつの車両を移動した瞬間、最後尾の車両が弾け飛んだ。

「え?」
「馬鹿!振り返んな走れ!」 

 状況を理解していない多田に対し、中山は声を荒らげて走るようにうながす。

 二体はさらに速く、次々と車両を後にする。

 そして二体を追う何かが、後方の車両が次々と弾き飛ばしながら迫る。

 そんな時だった。
 多田はつい先程まで前を走っていた中山がいないことに気づいた。
 そして後方を見ると、息が上がり、いびつなフォームで走る中山の姿があった。

「先輩!?」
「ハァ゙……もうダ――ゲッホゴッ……」

 中山の視界はすでに酸素不足によって歪んでおり、まともに歩くのさえ困難となっていた。

 そして、そんな中山に何かが迫っていた。

 多田は確かにそれを、はっきりと見た。

 砂煙によって隠されていたその肉体は、多田が知る生物のそれではなかった。
 
 ひとつの車両を包み込めるほど巨大な蝙蝠コウモリのような翼。
 鷹のような構造をした筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした脚。
 その二つの間にある水かきが付いた小さな手のようなもの。
 そしてウサギ型に切られたりんごのような形状をした頭とそれに取って付けたような巨大なトカゲの目。

 偽祖龍ぎそりゅうとも呼ばれる天龍類、ネフリティスがそこにいた。

 なぜこんなところに天龍類が現れたのか、防衛省は一体何をしているのか、生き残るには、見捨てるのか、多田の脳内に様々な思考が過ぎる。

 多田の脳内に、足に噛みつかれ引きずり込まれる姿が浮かぶ。

 咄嗟に中山の手首を掴んだ。
 引いた。
 
 ネフリティスが弾け飛んだ。 
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