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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
狩人への試練
「どうしましょう、このままじゃ乗せてもらえなさそうです」
「何を言っているのじゃ」
――そこに、スカジが前向きな一言を放った。
「え?」
「今こそ絶好の大チャンスではないか」
バーボチカを連れて船長の方へ向かうスカジ。船長に歩み寄る二人を見て、周りの船員達は怪しげな目を向ける。
この気難しい船長相手に二度目の交渉をする様子を見て、何をするのか警戒しているのか。
バーボチカは不安そうな表情を浮かべる。スカジがどのような提案をするのか、彼女もわからないから。
「船長さん、船長さんや」
「何だい? まだ用でもあるのか?」
船長は不機嫌そうに言った。
船のデッキでは、風が心地よく船帆をなびかせている。遠くでは海の波が静かに打ち寄せ、船員たちの声や作業の音が混ざり合っている。
「出発するのはいつじゃ?」
スカジが尋ねると、船長は手元の地図をじっと見つめながら答えた。
「遅くとも夜になる前には出るつもりだよ」
「なら出発までにわらわらが食料を採ってくる。これでどうじゃ?」
スカジは自信たっぷりに提案し、船長に微笑みかけた。彼女の言葉に船長は不信そうな表情を見せたが、同時に興味も覗かせていた。
周りの船員たちは、二人のやりとりに興味津々で耳を傾けている。彼らもまた、この異例の交渉に興味津々であり、何か面白い展開が起こりそうだと感じていた。
スカジはバーボチカとともに、どこか自信に満ちた様子で船長に向かい続けた。その姿勢は、まるで自分たちの提案が船の運命を左右するかのように見えた。
「食料を採るって、どうやってだ?」
船長が問い返すと、スカジは満面の笑みで答えた。
「わらわとこの子が狩りをしてこよう」
旅に食料は必要不可欠。海の上だと補給は限られる。多くて困ることはないだろう。
しかし、海賊の長は迷っているのかなかなか首を縦に振らない。それどころか、バーボチカ達の方に目を向けようとすらしなかった。
食料の蓄えのことを思案しているのか。
「まあいいや。食料には余裕があるけど、魚とパンばっかで飽きていたところだ」
食料の心配がないのであれば、すぐにでも首を横に振るはずだ。それをしないということは……
「……そうだねえ。久しぶりに肉が食いたくなってきたよ」
そう、彼らは変わり映えしない食事に飽き始めていたのだ。
「何でもいいから全員で一食食えるくらい肉を用意してきな。それなら乗せてやるよ」
彼女の答えを聞いて、スカジは満足げにうなずく。
「ほうほう、ならば任せるのじゃ。こう見えてもこの子は狩りの達人でな」
バーボチカはほっと胸を撫でおろした。これからするのは自分の長所を生かせる試験。自信をもって臨めば難しくないはずだ。
「ところでお仲間さんは何人いるのじゃ?」
「アタシ含めて二十四人だよ」
二十四人とは普通ならかなりの数だろう。だが狩りの達人であるバーボチカにとっては決して捌けない数ではない。
「だったらイノシシ二頭も仕留めれば充分ですね」
イノシシ一匹で三十キロの生肉が用意できる。これだけでも可食部は二十人分以上あるが、多めに見積もっているのだろう。
「ふーん、大した自信だねえ。あんたみたいな子供にイノシシが仕留めれるのかい?」
「大丈夫じゃ。この娘はこう見えてもかなり優秀な狩人なのじゃ。イノシシくらいなら簡単に狩れる」
その言葉を聞いて、船長は口元を歪める。
獲物はウサギではなくイノシシ。魔物ではないとはいえ、力が強く足の速い相手だ。子供が楽して狩れる相手ではない。
そして、もし彼女が言うことが本当なら、この娘の実力は――そこまで考えた時、船長はニヤリと笑った。
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