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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

キャプテン・アレクシア
「……これから船に戻るところさ。ついてきな」

 知らない子供相手にも親切に応対する。口調は荒っぽいがそこまで排他的な集団ではないらしい。あの日の襲撃者と比べれば格段に話ができる部類だろう。


「あんたら、名前はなんて言うんだ?」

 砂浜の先へ足を踏み出しながら、バーボチカは少しの船上での冒険に胸を膨らませた。

「アタシはグレーテル、こんななりでも副船長なんだよ」

 グレーテルの声は、自身の地位に誇りを込めながらも、控えめであった。彼女の振る舞いには、船上での経験と責任感がにじみ出ているようだった。船首で風に舞う彼女の髪が、冒険の中で培った経験を語るかのように舞っていた。

「私はバーボチカです」
「わらわはスカジじゃ」

 それにしてもグレーテルは副船長でありながら妙にもったいぶった口ぶりである。自慢できる地位にいながらなぜかそれを誇ろうとしない。そのことにバーボチカは違和感を覚えた。
 だが、その理由はすぐに分かった。

「あ、ついたよ。あれがアタシらの船さ」

 高く掲げられた骸骨の帆。これこそ彼らが海賊であることの証。
 しかしそれはバーボチカにとって些細な問題であった。なぜなら彼女の視線は別のものに注がれていたからだ。

「こらそこ! タラタラすんじゃないよ! シャキッとしなよシャキッと! 魔物でも来たらどうすんだい!」

 彼女の目線の先にいたのは、怒号を飛ばす女。重厚な三角帽子と黒革のコート。他の船員より身なりがキレイである彼女が船長だ。

 手入れされた緑がかった黒髪は美しいが、顔は少ししわよっている。

「ん? グレーテル、遅いよ! あんたまでタラタラしないでくれ!」
「あ、ああすまない、姉御」
「アタシの代わりを任せられるのはあんただけなんだよ! しっかりしてくれ!」

 副船長すら無遠慮に怒鳴りつけるあたり、彼女の気性の荒さと地位の高さがうかがえる。

 二番目に偉いサブリーダーですら地位の間が大きく開くほどの彼女が、海賊達の長として君臨するその姿に、バーボチカは圧倒されていた。

 その存在感にバーボチカは思わず息を呑む。

「ん? なんだいそのちんまいガキとデカイ女は?」

 だがいつまでも呆けているわけにはいかない。バーボチカ達はようやく船にたどり着いたのだから。

「ああ、そうだ。こいつらが船に乗せてくれって言うんだ。話を聞いてやってくれないか?」
「ふーん、わかったよ」

 他の船員達と共にさっき来た道を戻って行くグレーテル。そして残されたバーボチカとスカジ。

 バーボチカは改めて海賊達の船を眺める。船の形自体はごく普通の帆船だ。
 船首と船尾からそれぞれ一本ずつマストが伸びている。木とロープで作られた船体は所々傷つき、甲板の上には大小様々な木箱が不規則に並べられていた。

「……で、あんた達。なんでアタシらの船に乗りたいんだい?」

 先ほどまでの態度とは打って変わり、海賊の長は静かな口調で話しかけてきた。大声で指示を出していた彼女の、驚くほどの変わりよう。静かに話ができる人ではあるようだ。

「急いで大陸に行かないといけないんです。もしこれから大陸に行くなら乗せてもらえませんか?」

 バーボチカのお願いを聞き、吹き出す船長。

「アッハッハ、確かにアタシらはこれから大陸に行くところさ」

 その言葉にバーボチカは安堵の表情を浮かべる。この船長の気まぐれに救われたようだ。

「だ・け・ど・さ」

 しかし海賊の長は、話はまだ終わりではないとでも言いたげに顔の前で手を組み、バーボチカをまっすぐ見据える。船長の帽子の下から、鋭い視線がバーボチカに突き刺さる。
 そして、海賊の長はゆっくりと口を開いた。

「なんでアタシらがあんたらをタダで船に乗せてやらないといけないんだい?」

 即答の拒否。もっともな理由だ。彼らにとっては乗せても得になることがないのだ。断られて当たり前だろう。

「そんな……」

 絶望した表情を見せるバーボチカ。だがバーボチカは諦めない――ここで引き下がってはいけない。ここで諦めたら大陸にたどり着くことはできなくなる。

「船に乗りたいなら自分がどれだけ役に立つか示してからにしな」
「およ?」

 その一言に、黙って聞いていたスカジは食いついた。

「それなら考えてやるよ」

 そのまま彼女は指示出しに戻った。再び響き渡る怒号の数々。バーボチカはその背中をじっと見つめていた。
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