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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
決意と贖罪の一矢
「……アーッハッハ!」
血に酔った雉は、己の羽を紅く染めていた。無造作に足元に転がした無数の屍の数々が、その惨状を物語っている。
立ち向かった戦士達の剣は折れ、槍は届かず失われ、盾は砕かれた。
「どいつもこいつも、半端な腕しかないザコばっかり」
無傷な翼から滴る、無数の魔物達の返り血は、既に戦いが終わり彼女が勝利したことを示しているかのようだ。
「……さあーて、どこに逃げたのかしら。あのお嬢ちゃんは?」
眼鏡から覗き込む悪魔の眼が、再び標的を探し出す。この無数の地上魔物の屍も、彼女にとってはバーボチカを抹殺するまでの手順の一つにすぎない。
「……ん?」
そんな中で、飛び回りながら彼女はあるものに気が付く。
「あれは?」
極めて原始的な藁葺きの木造建築の数々、その一つの中に、全く造りの異なる奇怪な建物が一つあったのだ。
藁を全く使用していない、木材だけでできた謎の小屋。異様に角張ったそれは、中に何があるのかを隠すためだけに存在しているかのような、他にも増して芸術性が何一つない建物だった――そして、その建物は、不自然に横長な穴でくり抜かれていた。
「――!?」
光の反射が微かに見せた飛翔物――それに気が付いた時は、もう遅い。細長い金属の杭が、彼女の片腕……いや、翼を貫き、撃ち落とした。
「アアッガアア!!」
あふれ出る血液は、さっきまでまとっていた殺戮者の証ではない。正真正銘、彼女の体からあふれ出た血液であった。
苦痛にのたうち回る彼女は、もう飛べなくなっていた。それどころか自力で止血をする判断すらできないほどに、激痛は彼女を苦しめていた。
「――イマダッカカレ!!」
聞こえた謎の号令、それと共にローブを着こんだ槍兵達が一斉に建物から駆け出す。それについてきたのは――彼女がさっきまで探し続けていたバーボチカであった。
「――!?」
痛みよりも先に出た怒りの形相、それでバーボチカをにらんだ彼女。槍兵達は攻撃せずに包囲を維持し、それをかすかに乱しながらバーボチカは迫ってきた。
譲り受けたファフナーの牙、それを両腕で構えて迫る。侵略者の額にそれを向け、一言。
「もう終わりです。降伏しなさい」
敵将の怒りが強まっていく。その様は確実に、この景色を屈辱と感じている証拠であった。
「敬意のないわがままで多くの罪を重ねたことを悔い改めるのです。そうすればせめて、優しく殺してあげます」
「……お前ェッ!!」
相手を助けるつもりはない。それでも悔い改めるなら最後の慈悲をかけると敵将相手に約束するその姿は、これ以上敬意のない虐殺は決してしないという誓いの現れだった。
「あれだけの、あれだけの被害を出しておきながら、のうのうとォッ……!」
だが目の前で船が焼かれる様を見たクラークは、即座に怒りの反論をぶつける。
「お前だって同じだァ! 我らが心血を注いで建造してきたジャンダル級を、造船所ごと焼き払った挙句、デコイ同然の扱いで仲間を無駄死にさせたお前にィ! そんな思いあがった口を利かれねばならん言われなど、あるものかあ!!」
――怒りの言葉と共に、強い魔力光が発せられた。それはただの逆上ではない。
「――!? みんな、逃げて!!」
警告とほぼ同時に、魔力の発する大きな予兆音が、響き始めた。これは間違いなく、大魔法を放つためにエネルギーを集約させている音だった。
「小娘ェッ……! 私と共にッ! 地獄に落ちろォォォォォォ!!」
憎悪を凝縮させた、怒りの叫び――それは即座に轟音へと、変わった。
「魔法名――デスパレートッ! ブラストッ!!」
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