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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
鏡写しとなった原罪
「――命をッ! 何だと思っているのッッッ!!」
その叫びは、憎悪なのか。嘆きなのか。小さき狩人が発した怒りの涙――それをぬぐうものは、この場に誰一人いない。
『……甘ったれたことを言うなッ!!』
そこに向けられた、逆上の言葉。
『そもそもなぜ奴がこの島に戦争を持ち込んだか、忘れたわけではないな!? 他ならぬお前がスカジにそそのかされて、奴らの造船所を爆破したからだろうッ!』
「――!?」
――その瞬間、一気に彼女の眼にその景色がフラッシュバックした。
目の前の光が一瞬で消え去った途端、映し出されたのは炎が燃え盛る夜の景色。自分を引っ張っていた戦士長はいない。まるで夢のような――それも、絶対に見たくない悪夢のような景色。
「……ここって?」
そこは紛れもなく、ピーチロード商会の造船所の一角。彼女達が爆弾によって焼き払った、現場だった。
「……アツイョォ、アツィョォ」
足元から聞こえた、苦しみの声。そこには全身を炎で焼かれたであろう黒焦げの人間がいた。
「タスケテ、タスケテェ……」
また一人、聞こえた声。足元にまた一人惨く焼かれた人間がいた。
「ナンデ、コンナヒドィコト……」
男なのか女なのか、それすらもわからない亡骸達。あっという間にそれが、彼女の足元を埋め尽くした。
「――これって!?」
『……愚か者め、やっと気が付いたか。己の罪に』
再び聞こえた、メドゥーサの声。そう、これ自体はメドゥーサの作り出した幻術だが、彼女は実際にスカジと共にこの惨たらしい景色を作り出していたのだ。
『この者達はお前がスカジにそそのかされたために、死んでいった者達だ。彼らと私が見殺しにした地上魔物の、何が違う? 答えてみろ、バーボチカ』
「…………」
言葉が、出ない。憎悪と悲壮しか存在しないこの景色を前に、バーボチカは何一つ答えることができなかった。
『これを見てもなお、お前は私とその配下達を非難する資格が自分にあると言えるのか?』
「…………」
『答えろ、答えてみせろ! バーボチカ!!』
――そう、この殺戮のメイルシュトロームを作り出したのは、彼女自身であったのだ。
直接的に手を下したのはクラークだ。メドゥーサやギルマン達が自分を騙してこの惨たらしい作戦に加担させたのも紛れもない事実である。
だが、その全てが始まるきっかけを創ってしまったのは、彼女であった。スカジの言葉を信じて故郷を守るために旅だった彼女は、スカジの読みが浅かったがためにより戦争の火を激化させてしまった。
ふとした瞬間に、現実の景色が戻ってきた。この短い間に遠くまで逃がされたみたいで、今は建物の中にいた。
「――目ヲ、覚マシタカ!」
「――!?」
血相を変えた戦士長の顔、忌々しいその姿が真っ先に飛び込んできた。
「ナント、無茶ヲするお方……メドゥーサ様、コノ小娘を叱咤するために、戦闘中ニ幻術ヲ用イルトハ……」
メドゥーサの見せた幻術によって、彼女は一時期何もできない状態となり戦士長の手で運び込まれた。元より力づくでここまで撤退させるつもりだったのだろうが、前線の兵士の目線で見たら想定外の行動であったことは間違いない。
「……戦況は、どうなっているのですか!!」
――電撃的に駆け抜けた時間の中で、バーボチカは再び戦う意識を取り戻した。
「今ハ、最悪ノ極ミダ。ダガ、ソレト同時ニ、反撃ノちゃんすガ、確実ニ、近づいてオル」
連れ込まれたのは木材で造られた建物で、水平なスリット状に窓が取り付けられている。覗き込むだけでも大地が血に染まった様子が見える程であった。
「オマエタチ、アレは用意できたカ?」
「ハハッ! 準備、万ッ端デ、ゴザイマス!」
戦士長の質問に返されたのは、即座の敬礼。この建物を使った仕掛け、それが彼らの切り札だった。地上魔物を見殺しにしてまで作りたかった反撃のチャンス、それを凝縮したのがこのエキドナポイント。
「ヨシ! 早速シカケロ!!」
戦闘服を着た手下達は建物の奥から協力して何かを持ってきた。布をかけているから何があるのかわからないが、車輪の転がる音から、大規模な仕掛けがされている武器らしい。
「――!?」
彼らが引きちぎるかのように布をはがした時、そこにあったものにバーボチカは驚愕した。
そこにあったのは、車輪に載せられた巨大な固定弩――バリスタであった。人力では撃てない矢を発射するために造られた兵器、それが三つも並んでいる。
「ココラカナラ、一回ダケ奴ニ気取ラレズ、砲撃ヲ行エル! 砲術士ハ、オ前ガヤレ、小娘!」
――彼らの狙いは単純明瞭、地上魔物を囮にすることでクラークの目をそらさせ、仮設したこの砲台からの攻撃で確実に仕留めるというもの。
たった一度だけだとしても、闇討ちでクラークを仕留めるチャンスを作り出したのだ。
「…………」
操作台に立たされたバーボチカは、スリットから外を覗き込み、クラークを狙っていた。
犠牲になった者達が浮かばれるような作戦では決してないが、追い詰められた者達の非道の決断の成就は、確実に迫っている。最後の一手は、彼女にゆだねられた。
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