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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

大蛇の夢
 光のない荒野、そこは紫色の霧に包まれていた。それは月のない漆黒の空すらも覆いつくしている。そこに、磔にされたかのように仰向けで少女が地面に倒れていた。
 毒があるわけではないが、息苦しい霧の中。彼女は苦悶の表情を浮かべていた
 なぜ私は、ここにいるの? そんな思いをしながら。自分は離島の森の中で眠っていたはずなのに。

――その回答は、願う間もなく与えられた。覆い隠す霧の中から、悪夢の主が現れたのだ。

「――!?」

 その姿は巨大な蛇であった。まるでこの世にある紫という色を全てちりばめたかのような鮮やかで禍々しい鱗を持ち、開いた口から覗く牙は並の職人が作る剣よりも鋭く巨大である。

 あっという間にその蛇は、全身を使い少女を取り囲み――締め上げた。なぜか痛みはない。

 だが、彼女にとっては痛みのないことが何よりの恐怖だった。それはなぜか。理由は二つのことを確信したからだ。一つは、ここが夢の中であること。そしてもう一つ――この苦しみはすぐに終わらないということを。

 夢でなかったら、この瞬間に自分は死んでいる。そうであるのにも関わらず痛みは全くない。不快な圧迫感だけが全身に押し寄せたからだ。

『コムスメ……ョ』

 不気味に反響する、女性の声。

『オマエハ、ワラワノシマヲ……ケガシタ。ソノバツヲ……ウケロ』

 その時――頭から蛇が、噛みついてきた。




 朝が近づいてきた。彼女はその時には悪夢から解放され、ただの無意識の闇にいた。
 夜が明けた。今日は島に帰還する日。旅が終わる日になる――そのはずであった。

「――チカ、バーボチカ!」

 起きるのにはいささか早い、まだ朝日が昇りたての時間。スカジが必死に揺り動かし、バーボチカを起こした。

「……なんですか、妖精王様?」

 日頃から早起きを心掛けて生活している彼女も、こんなに早く起こされるとは思わなかったらしい。

「魔物の気配じゃ! 取り囲まれたらしい!!」
「えっ」

 その時、岸から一斉に響いた水音。飛び出したのはギルマン。それも槍で武装した戦闘部隊。

「……ギルマン!?」

 ギルマンは極めて排他的な種族。縄張りに入った者は決して生かさず、侵攻を仕掛ける際は子供すら無慈悲に殺す存在。そんな彼らが武器を持って迫ってくる。
 大人達から水地に決して近寄ってはならないと言われ続けてきたのは彼らがいるからだ。

「…………」

 せっかく帰還が目前のところまで迫ってきたのに。彼女の冒険はここで終わってしまうのか。

「まずいぞ。この数は二人では捌けん」

 強行突破にはあまりにも分が悪いが、説得が通るような相手ではないから戦うしかない。

「……お前達が、バーボチカと、妖精王スカジだナ」

 その時たった一人でギルマンが前に出た。一番背が高く、最も上質な槍を持った者だ。恐らくリーダー格だろう。

「…………?」
「……は、はい」
「じゃが、なぜお前さんらがわらわのことを知っているのじゃ?」

 相手が相手だから、攻撃より先に対話が来るとは思わなかった二人。困惑せずにはいられなかった。

「我らが主、メドゥーサ様から、貴様らを連れてこいと、命じられタ」
「メドゥーサ……じゃと!?」

 スカジはその名を聞いたことがあるらしい。

「大人しく、ついてこイ。そうすれば、殺さなイ」

 円形に取り囲んできた。攻撃はしてこない。ただ逃げ場を奪うためだけに武器を構える彼ら。

「……どうします?」
「やむを得ん。従おう」

 不本意だがスカジは従うことにした。その真意がバーボチカを守るためだということは、もはや言うまでもないことである。



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●作者コメント

 どうも如月千怜です。いつもお世話になっております。
 本エピソードと関連する話なのですが、メドゥーサが初登場した第25話「炎の妖精王フレイヤ」は実は元々のプロットには存在しない話でした。
 そもそもメドゥーサ自体が、原本の連載後期に急な方針転換を行う必要が出来た結果、伏線の少ないまま登場してしまったキャラクターです。
 これからもバーボチカの冒険をよろしくお願いいたします。
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