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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

攻撃準備
 翌日の昼、一行はある山へと向かっていた。ピーチロード商会の本社と私兵部隊の基地、造船所の裏にある山だ。森の中から下見をしている。
 妖精達は上空から立地を確認して、手分けして地図を作っている。

「これが、彼らの基地なのですね……」
「ふうん、思ったより見張りが少ないのお」

 本社と私兵部隊の基地は守りが固められている。しかし造船所の見張りは人数があまりいない。各倉庫に二人組がいるだけ。しかも注意を向けているのは正面入り口がある海岸側だけ。

「どうやら裏側から忍び込むのが良さそうじゃな」
「アフロディーテ様、地図ができました!」

 妖精達が飛んで戻ってきた。もう一つの紙にまとめたらしく、一枚だけを差し出した。

「お疲れ様です。私が写しを作ります」

 地図はできた。あとは潜入のプランを作るだけ。

「お前達、次は裏から侵入できそうなところがないか調べておくれ」
「はい!」

 再び飛び去る妖精達。まず敵地へ侵入する経路の見定めをする。
 しばらくすると、偵察に行った妖精の一人が戻ってきた。
 空高く舞い上がると、ぐるりと一周旋回してから降りてきた。
 地図に書き込まれた造船所。そこに裏口があることが確認できたのだ。

「ここなら簡単に入れそうだよ」

 造船所の裏口は鍵の構造が弱そうだ。上手くやればファフナーの牙で壊せそうである。その気になれば窓を壊すことでも潜入は可能だろう。

「あれ、みんな何してるのー?」

 すると後ろからまた聞き覚えのある声が。
 三人が振り向くとそこにはドミニクがいた。これまでに出会った私服姿と違って、女性用のものだが全身に青い鎧を着ていた。

「……お前さん、なぜここに?」

 スカジが戸惑いながら尋ねる。

「ちょっとー、それを一番聞きたいのは僕だって。これから大事な下見があるのに」

 引っかかる一言。ここから先にあるのはピーチロード商会の本拠地。まさか彼も商会に用があるのか。

「……勝手にすればいいじゃないですか。妖精王様の邪魔をしないなら」

 バーボチカは口を利きたくないのか、冷たく突き放して望遠鏡を覗いていた。
 友達を殺したこの男は悪びれる様子もなく、ヘラヘラしている。バーボチカはそれが許せないようだ。

「……お前さんも商会に用があるのか?」
「え、そうだけど? もしかして君達も?」

 沈黙する三人。どうやら彼は自分達と共通の敵を追っているらしい。だがいくら同じ敵を追っているとはいえ、自分達の目的を部外者に話すのはまずい。
 協力してくれるなら都合がいいのだが、自分達みたいに破壊工作が目的ではないだろう。

「……とりあえず、造船所には近寄らないようにしておくのじゃな」

 一言、そう告げて自分の作業に戻るスカジ。

「ええーなんでー?」

 能天気な笑顔を見せるドミニク。その態度がさらにバーボチカの怒りを募らせた。

「ねーねー、教えてよ。僕がこれから何をするつもりなのかも教えてあげるからさ」

 理由を知りたがるドミニク。詳しく聞かないと自分の仕事に支障が出ると思ったのだろうか。

「うっとうしいですね……」

 バーボチカは怒りのままに背を背けると、そのまま望遠鏡に目を向けた。

「……わらわ達は船を破壊しに来たのじゃ。自分の島に侵略者が来る前に」
「ふーん……」

 さっきまでの楽し気な表情は消え去り、真面目に話を聞くドミニク。

「それだと僕の仕事が難しくなっちゃうなあ」
「お前さんは何をするつもりじゃ? 自分から言いだしたのだから、約束は守ってもらうぞ」
「……いいよー」

 それから彼が話したのは、商会の上層部を暗殺するつもりだったとのこと。彼らは海軍に癒着して汚職をしているらしい。

「……憲兵が軍の仲間を攻撃するよう依頼したのか?」
「うん。海軍と陸軍の仲が悪いみたいだから、陸軍系の人達から依頼が来た」

 軍の思惑がどうなっているのかは知らないが、彼らも一枚岩ではないらしい。互いの不正を暴くのは正当な権限の範囲内だろうが、国家の利益になることはない。

 彼自身は造船所に直接用はないらしい。問題は攻撃の後に他の守りが強化されることだ。警戒が強まった中で暗殺に出向くのは彼でも危ないと判断した。厄介なことに、海賊船での杜撰な作戦の数々を自分なりに反省しているらしい。

「……そうか。邪魔をしてすまないな」
「だから僕は君達を手伝うことにするよ」
「……何?」

 まさかの告白。彼の方から協力を申し出てきた。
 協力する方法は警備兵の陽動及び交戦。万が一見つかれば戦わなければいけない警備兵を減らしてくれるのはありがたい。魅力的な提案だ。

 だがバーボチカだけは浮かない顔のまま。心ではまだ彼を許していないが、自分のわがままで恩師の妖精王に迷惑をかけたくない。その葛藤のせいで提案を反対できなかった。

「……もしかしてバーボチカちゃん、まだ僕のこと許してくれてない?」
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