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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

彼は帝国憲兵の使い
 スカジは海賊船の上で起きたことを全て正直に話した。
 特にバーボチカと一番の友達であったコックを彼が惨殺し、その死をあざ笑ったことを。

「……そうですか。あなた方が巻き込まれた民間人だったのですね。申し訳ございません」

 主人はドミニクの素性を把握しているらしい。無理矢理従わされているわけではないようだ。

「あなたも謝った方がいいわ。どう考えても男としてサイテーよ」
「……ごめんなさい」

 船の上での凶行からは信じられない、正直な謝罪。彼も思うことがあったのだろうか。

「……穏便な対応感謝する。今のわらわらにはお前さんと戦う時間はないからの」

 スカジは深追いする気はないようだ。

「妖精王様……しかし!!」
「バーボチカ、気持ちはわかるが抑えるのじゃ。この結果は本を正せば我々の無知が招いたものじゃ」
「…………」

 主人から伝えられたドミニクの言い分、それには彼なりの正義があった。
 この店は主人とドミニクのたった二人だけで経営されている冒険者ギルド。表向きには一般の冒険者も所属しているのだが、本業の依頼はドミニク一人が請け負っている。

 その本業は犯罪者狩り。これは憲兵の弾圧に加担しているという風評が付きまとうから一般のギルドが取り扱いたがらない依頼だ。それを彼が一人で引き受け、あの時のように組織に忍び込み内側から破壊しているのだ。

 ドミニクが始末した海賊達、彼らはバーボチカの目から見れば気のいい船乗り達だった。しかし実際の彼らはこれまでの海賊行為で数多くの人間を殺した。一般の漁船や旅行船、同業者の船、襲った船の乗員は例外なく皆殺しにした。ついには単独行動をしていた軍船すら毒牙にかかったため、ドミニクに依頼が回ってきたのだ。

 バーボチカと同行した時は拠点に財宝を持ち帰るため戦闘を控えていただけ。彼らは多くの命を奪ったれっきとした犯罪者集団なのである。

 ドミニクは彼らを裁くために送られた暗殺者。魔物でありながら人間に貢献しているのだ。彼が自ら憲兵の軍門に下ったのか、憲兵の方から彼を引き入れたのかまではさすがに教えてくれなかったが、いずれにせよ二人が知らないうちに彼の仕事を邪魔したことには変わりない。

「……ドミニクさん、一つだけ聞かせて下さい」

 だが真相を教えられても彼女には納得できないことが一つだけ残っていた。

「……なーに?」
「なんであなたは戦うことができないジェフ君を真っ先に殺したのですか?」

 真っ先に手にかけたものが、あの船の上でできた一番の友達であった理由だ。
 他の船員と違って戦うことのできない弱者をねらい撃ちにした、その事実はどんな正義を語っても決して受け入れることはできなかった。

「確かに。最初に闇討ちするのは指揮官の船長か自分の次に強い戦闘員の方がよいはず。その方が後々の全面戦争を有利に進められたはずじゃ」

 憎しみの感情だけを理由に聞いたバーボチカと異なり、戦術的優位の観点から指摘するスカジ。戦えないジェフを殺しても対して有利にはならない。

「……ああ、それ? あいつがあの船で一番あくどいから」
「…………?」
「あいつがあの船で一番、犯罪者であることの自覚が足りなかった。だから真っ先に裁いた」

 衝撃の一言。彼の思うジェフの人物像、それはバーボチカの思い描く優しい男の子ではないようだ。

「噓だ……あんなに優しいジェフ君がそんな――」
「違うよ。ジェフは確かに優しかった。だからこそ僕は彼を許さない」
「なんで!!」

 怒りのあまり机を叩き伏せるバーボチカ。だがドミニクは動じずに話を続ける。

「あいつは仲間が人殺しをしていると知っていてご飯を作っていた。それのおかげであいつらは元気に人殺しができたんだよ。つまりあいつが一番人殺しに貢献していたってことさ」

――どんな生物でも食事で栄養を得ないと生きることができない。誰かが背負わないといけない罪である。

「殺す前に僕は彼に対して、いかに罪深いことをしているかを説いてあげたよ。そしたら彼、なんて言ったと思う?」
「…………」
「僕は誰も殺してなんかいない。みんなに美味しいご飯を食べてほしかっただけだって」

 途端にドミニクは机を殴りつけ、怒った。

「いい加減にしろよ、あのクソガキッ! 最後まで自分の罪から逃げちゃってさあ! その自分勝手の所為で何人死んだと思ってるんだ!!」
「…………」

 突然の怒りに全員が静まる中、アフロディーテが重い口を開く。

「確かに、あなたの証言が全て正しいなら、そのジェフという青年には犯罪者の仲間であることへの自覚が足りていなかったと思います」

 まさか彼女がドミニクの証言を支持するとは、バーボチカは決して思わなかっただろう。ただ現場を見ていないからこそ、中立で正しい意見というものもある。納得するしかなかった。
 もっとも心では許せない気持ちがまだ残っているだろうが。
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