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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

妖精達の作戦会議
 一週間後、スカジの器はようやく動けるだけの魔力を取り戻した。

「……ふーう、やっと動けるようになったの」

 ベッドから降りてバーボチカとアフロディーテに元気な姿を見せるスカジ。

「おはようございます」
「おお、バーボチカ。元気にしておったか」

 一週間ぶりの再会。島の本体が元気なことを思い出したから、復活した化身の姿を見てほっとしたのか二人とも笑顔になっていた。
 スカジは早速アフロディーテと今後の予定について話し始めた。

「アフロディーテ、頼んだアレは用意してくれたか?」
「油と粉塵は用意できています。爆薬はまだ数が足りません。もう一週間待ってください」

 今から一週間経てば出発してから二十一日目。そろそろ急がなくてはいけない頃になる。もう時間がないのは明白だ。
 だが、アフロディーテには秘策があるようだ。彼女は自信に満ちた表情でこう告げる。

「安心してください。必ず間に合うようにしますから……」
「おお、遅れないよう急いでくれ。じゃが慌てる必要はないぞ」

 用意してもらった椅子に座るスカジ。二人もそれに座った。
 バーボチカは何か言いたいことがあるようだったが、空気を読んで黙っていた。

「みなさーん、作戦の打ち合わせを始めますよー!」

 妖精王の号令の下、集う妖精達。四方八方から里にいる全ての妖精が飛んできた。
 三人はテーブルを囲むようにして会話を始めた。
 話題はやはりこれからのこと。スカジとアフロディーテがどうやってピーチロード商会を倒すか、最後の打ち合わせが始まる。

「それじゃあ作戦を話そう。今回攻撃するのはピーチロード商会の造船所。爆薬を使って船を破壊する」
「……爆薬?」

 それは初めて聞く名前だった。バーボチカの村には火薬の製法は伝わっていない。一方で人知を超えた英知を持っているスカジはその製法を知っていた。それも商会が使うよりはるかに高性能のものを。
 そんなことも知らずに話を進めようとするアフロディーテ。スカジは慌てて止めに入った。

「おっと、バーボチカには説明していなかったな。爆薬は巨大な火花と衝撃を発生させるものじゃ。高性能なものだと城壁すら一瞬で破壊できるのじゃよ」

 そんな恐ろしいものがあるとは知らなかった。それを使って彼女らは船を焼こうと言うのだ。
 バーボチカは自分が乗ってきた船のことを思い出す。これから破壊する船が同じく木造船ならばどうなるか、想像しただけで背筋が凍り付く。

「起爆装置を作動すれば設置したもの全てが一斉に爆発します。これで船をまとめて焼くのが今回の作戦です」

 バーボチカの困惑をよそに説明をする王達。二人の目は完全に平静としていた。

「あ、あの……」
「どうした?」
「もしその火に人が巻き込まれたらどうなるんですか?」

 素朴な疑問であった。船は木でできている。燃えやすい木材で作られた建物と同じ。もしも引火したら……。
 だが困惑する彼女の質問にスカジは即答した。

「無論死ぬじゃろうな」
「ええ!?」
「――爆弾による火災は大規模なものに発展しやすいです。一度火の手が上がればたちまち辺り一面を焼き尽くします。それだけの火薬を使うのです」

 アフロディーテの補足説明にさらに衝撃を受けるバーボチカ。心優しい妖精王と思っていた二人が、自分が知らないところであまりにも無慈悲な作戦を立てていたと知ったからだ。

 特にアフロディーテは里を守るための戦いで、オーガに無理矢理操られているワイバーンに一切傷をつけないために防戦を強いられていたと聞かされていた。
 望まない戦いを強いられているなら敵ですら救う彼女が、無関係な人を巻き込みかねない作戦に賛同してあまつさえそのための道具を用意しているなど、信じられるはずがないだろう。

「でも、そこで働いているだけの人達を巻き込んじゃったら――」
「バーボチカ、罪のない人間を殺すのが嫌という気持ちはもちろんわかる。じゃが彼らを守るためにそなたは故郷を奴らに差し出すことができるのか?」
「…………!!」

 ここに来ている自分が背負っているのは、自分の命だけではない。自分が失敗すれば故郷が失われるのだ。
 そして彼女達が考えていることは、決して間違っていないのだ。自分や仲間、そして妖精の里を守るために必要なことなのだ。
 バーボチカは理解してしまった。そして同時に自分が何も決めることができないことも悟ってしまった。

「私もスカジの頼みでなければ絶対に断っていたと思います。ですが島を守るためにはやむを得ない犠牲です」
「ああ、わらわも本当は頼みたくなかった。己の民を守るためとはいえ、一番優しい心を持った友であるお前にこんなことをさせるなど……」

 王達二人も葛藤の末に実行を決定したらしい。ここまで聞かされたらもう反対できなかった。

「……わかりました。一番守らないといけないものを私は忘れるところだったみたいです」

 ここでようやくバーボチカは覚悟を決めた。もう迷わない。
 こうして、彼女は自分が守るべきもののために戦うことを決めたのだった。
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