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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
休息の時
魔法使いの弟子を見送ったバーボチカ。ようやく休める時が来たようだ。
「アフロディーテ様、妖精王様は?」
「今は里で休んでいます。先程の戦いで魔力を使い果たしたため一週間は動けないそうです」
「…………」
回復するまで一週間。その頃にはもう二週間目。残り時間は半分になる。
焦りが顔に出ていたのだろう。もう一人の微笑みながら優しく話しかける。
「大丈夫ですよ。元から一週間以上休むつもりで話が通っていますので」
依然としてうかない表情のままのバーボチカ。一番心配しているのは時間よりもスカジのことだった。命に別状はないにしても魔力を使い果たすほどの戦いをしたのだ。何かあったらと思うだけで気が気ではない。
アフロディーテはそんな彼女の気持ちを見透かしたかのように声をかける。
「……もしかして、スカジのケガを心配しているのですか?」
「はい」
「それなら何も心配いりませんわ。あなたと一緒にいたのは彼女の化身。どんなにケガをしたとしても島に残っている本体は無傷です」
旅が長くなって忘れていた事実であった。すぐそばから助言を受けていると、本物の彼女が隣にいるとつい錯覚してしまう。
あくまで隣にいたのは化身の姿。仮に失われても本体が無事なら新しい器を後から用意できる。
「……さあ、着きましたよ。ここが妖精の里です」
たどり着いたのは無数の花々が咲き誇る花畑。外の花と違いここの花は美しい姿をしていた。まるで大好きな島の花畑に帰ってきたかのような景色であった。
これがアフロディーテの住む世界。妖精族が住む楽園である。この美しさを目にすれば誰もが心を奪われてしまうだろう。
大地の妖精の住む草木の緑に溢れた場所や小さな池のほとり、まさしく幻想的な風景だった。
――だが、それは入口だけ。奥に進むほど戦闘の痕跡が多く残されていた。乱暴に踏みにじられた花に、荒く切り倒された樹木、ワイバーンのブレスが作り出した無数の焼け跡、そして天を覆い隠す凍り付いた茨。
いずれも激しい戦闘を想起させる、見るからに痛々しい二次被害。これを見てここが楽園だったと気づけるものは、恐らくいない。
「この凍った茨は……?」
「スカジの魔法によるものです。これでワイバーンのブレスを防ぎました」
天を覆う茨にも無数の焼け跡と穴があった。ワイバーンのブレスですら完全に破壊することができなかったということはかなり堅牢な守りだったのだろう。これを維持するためにスカジは魔力を使い果たしたのだ。
「スカジはベッドに寝かせています。あなたも休んでください。来るべき日のために」
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