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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

ざわめきの静まった後
 立ったまま果てた亡骸とそれを貫く土の槍がたたずむ中で、バーボチカは倒れた妖精達の手当てをしていた。

「……ふう、どうやらこの薬草で大丈夫みたいです」

 一匹の妖精が元気に立ち上がり、再び飛べるようになった。近くにあった薬草にたまたま魔法の効果を打ち消せるものがあったのだ。
 物理的に体を損傷していなかったため、飲ませてすぐ回復したのだ。大変幸運なことである。

「他のみんなにも飲ませてあげよう。手伝ってくれる?」
「う、うん……」

 手分けして薬草を与えていく二人。あっという間に全員を治すことができた。

「あなた達、無事でしたか!?」

 そこに現れたのは、もう一人の妖精王。

「あ、アフロディーテ様!!」

 妖精達が彼女の元へ集う。スカジと同じ形の茶色い服を着た、童顔気味のピンク髪をした女性だ。スカジは連れてきていないが、ここに来たということは無事里を守ることができたようだ。

「怖かったですー! あのオーガにまとめてやられた時はもうダメだと思いました!!」

 涙ながらに体験した恐怖を訴える妖精達。バーボチカの助けがなければ間違いなく一人残さず殺されていただろう。

「あなたがバーボチカですね? この子達を助けてくれてありがとうございます。おかげで全員無事のまま乗り切ることができました」

 子供相手に丁寧に感謝するアフロディーテ。同じ王であるスカジが古風で尊大な口調で話すのと違い、彼女は誰が相手でも腰の低い話し方をするようだ。

「いや、私だけでは勝てませんでした。この子が魔法で助けてくれたおかげでみんな助かったんです」

――守ると誓った少女に守られた。普通の戦士なら少なからず不甲斐なさを恥じる場面だろう。だが彼女は自分の戦いぶりを卑下することなく、ただ純粋に感謝していた。

「……なるほど、これは幼いながらも優れた技術ですね」

 たった一発でオーガほどの大物を仕留めた。それもバーボチカを巻き込むことなく。怒りと恐怖に支配された中でここまでも正確な制御を行うのは、熟練していても容易ではない。

 現場を見ていない彼女がそれを理解しているわけではないのだが、隆起の大きさから見える彼女の魔力量は格段に優れている。まだ荒削りだとしても大きな将来性を感じさせるものなのだ。

「フィーア! どこ行ったの!? 早く出てきなさい!!」

――また別の女性の声。それが聞こえた途端、フィーアは再びバーボチカに張り付き離れなくなった。

 そう、今のは彼女の師匠の声。勝手に抜け出したことを間違いなく怒っていた。

「あ、ここにいた!!」

 彼女に気づき迫る師匠。

「あ、ああ……」
「なぜ勝手にいなくなった、このバカ! 魔物に襲われたらどうするのよ!!」

 頭ごなしな叱責。怒る理由は間違いなく正当なものだが、逃げ出した理由までには考えが回っていない。その証拠に、彼女の視線はフィーアにしか向いていなかった。

「ほら、帰って続きをするわよ! あなたは魔力量が良くても他の出来が悪いんだから! 少しでも長く時間を取らないと私の後を継げる魔法使いにはなれないわよ!!」

 バーボチカはその光景を見て引いていた。怒号を浴びせられても怯えて従わないフィーアが、より一層バーボチカを掴んで離さなくなった。間違いなく嫌がっているのだ。
 それを見たアフロディーテは無言のまま固い表情をしていた。

「何よ、その反抗的な目は!」

 それに気づいた師匠がさらに声を大きくする。だが、それでも師匠の方を見ようとしないフィーア。
――その時だった。

 パンッ!! という音が響いた。同時に弟子の頬が赤く染まる。
 それは師匠が平手打ちをした音であった。
 叩かれた衝撃で怯むフィーア。だが彼女は暴力なんかで従わないと言わんばかりにさらに怒りの感情を強めた。

「言っておくけどあなたの命は私のものよ! 後を継ぐ気がないならもう世話しないからね!!」

 その一言を聞き、バーボチカはナイフを構えた。

「あなた、さっきから静かに聞いていればなんですか? フィーアちゃんの気持ちを何一つ考えないでわがままばっかり言って。どう考えても嫌がっているじゃないですか」

 怒りにらめつけるバーボチカ。その強さはさっきのオーガを相手にしていた時よりも激しい。その横やりに、師匠の表情が一瞬にしてますます険しくなる。

「ちょっとあなた、どこの子? よその子が私の教育に口を挟まないでくれる?」

 彼女も負けてはいない。バーボチカを睨みつけながら一歩前に出る。
 優れた魔女であるこの女と、優秀だとしても所詮ゴブリンであるバーボチカ。両者の力の差は歴然。しかし、バーボチカが退くことはなかった。

「その子には私の後継者になる義務があるのよ。甘やかすような口でそそのかしてうちの子の将来を潰さないでくれる?」

 身勝手な言葉にバーボチカの怒りはさらに増す。

「私の将来を一番壊したのはお前だあ!!」
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