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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
傲慢たる使徒●
「ヒャッハー!」
迫る男が放った乱拳、それが衝動の赴くまま空を切る。
「……えい!!」
だがそれに合わせてバーボチカが地を蹴った。己の姿勢を重力に合わせ、はるかに大きい男の肩へ飛び乗る。
「なに!?」
これでは自慢の拳も届くはずがない。
「ねえお兄さん、あなたは今まで何人殺したんですか?」
首を囲うのは足、ナイフをつきつけるのは右手。
「そんなの知るかよ!」
「ふーん、そうですかあ」
余裕を見せながら笑うバーボチカだが、次第に怒気を強めていく。敵は殺しを楽しんでいる。それを確信したからだ。
「私はあなたが殺したおじさん達がどのお友達のお父さんなのか、みんな一人一人覚えているのですよ?」
平静を装う裏に、どれだけ強い怒りがあるのか。
「うるせえ! 未練がましいんだよ! そんなに好きなら今すぐそいつらのところに送ってやるよ!!」
逆上した男が奇手に出た。地面にめがけて背面飛び、これで潰すつもりだ。
「おや?」
それに対するバーボチカの動きは、見事な垂直跳びだった。
「ウゲッ!?」
男が仕留めそこなったことに気付いた時には、少女が重力を活かして飛びかかっていた。
「とおっ!」
胸に飛び乗ったバーボチカが両手に握ったナイフを全力で突き立てた。
「痛ぇ!?」
「えいえいえいえーい!!」
浴びせられた追撃は別のナイフによる連撃であった。しかし相手の鍛えられた肉体にはほとんど痛手を与えられない。丸太につけた切り傷みたいに浅い。
「――フンッ!」
案の定反撃のチャンスを与えてしまった。男がとっさに両手で掌底を放つ、それをモロにくらい、バーボチカは強く跳ね飛ばされてしまう。
「うわああ!?」
ナイフを落とし吹っ飛び、思いっきり尻もちをついてしまった。
「その程度か、クソガキ?」
男が嘲笑交じりにナイフをブーツで踏み潰し、破砕。これでもう、彼女に戦うすべはない。
「ウフフフ……」
だが不思議なことに、彼女は笑っていた。
「……何がおかしい?」
「皆さん、敵は私が討ちました。安らかに眠って下さい」
「……ハァッ!?」
まさかの勝利宣言。逆上する敵を背に、村長の待つ村の方へ走った。
「……ふっざけんじゃねえー!!」
「村長さーん!」
仕留めた獲物を拾いなおして戻ってきたバーボチカ。その背にはあの男が。
「いかん、逃げろ! そんなものに構っている暇はない、殺されるぞ!!」
「待ちやがれぇぇぇー!!」
その時だった。叫ぶ男の口から勢い良く血液が飛び出す。
「――!?」
さらに胴からも出血。出血性の劇毒だ。元から即効性の高いものだが、この男が些細なことで激昂することで血流が良くなっており、通常より早く毒が回ったのだ。
倒れる男。もう立ち上がることはない。確実に死んでいた。
「……な、何が起こったのじゃ?」
「お母さんが元気だった頃、強力な毒の作り方を教えてくれたんです。いつか必要な時が来るから忘れずに持っていなさいって」
その毒とはあの彼岸花から抽出したもの。バーボチカの母はシャーマン。生前の頃からこのような事態を予知していたのか、事前に対策を打っていたのだ。
「村長、ご無事ですか!?」
逃げた村人達が戻ってきた。同族ではない背の高い女性を連れて。
「あ、ああ……じゃが、なぜ戻ってきたのだ」
「妖精王様が賊を倒すために来て下さったのです!」
「なんじゃと、それは本当か!?」
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