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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

アルミュール帝国上陸
 ボートを漕ぎ漁港までたどり着いた二人。ドミニクが追ってくることはなかった。足止めが成功したのか、彼が自分の意志で追わなかっただけなのかはわからない。

 一つだけ言い切れることがあるとしたら、ヴァンパイアという強敵と対峙して消耗することなく逃げることができたのは不幸中の幸いということだ。

 ここが侵略者の母国であるアルミュール帝国。人類の国家では最も強力な軍を持つ国であり、その統治はその名の通りの強権的な帝政である。

「……侵略者は東に進んだ先の港にいる。奴らの名はピーチロード商会。古代ヤーポンの神話に存在する桃から生まれた英雄から名付けられたそうじゃ」

――ピーチロード商会。開拓事業と軍需産業を推し進める企業だ。かつて桃から生まれた英雄が離島に赴き魔物を打倒したように、彼らも未開拓領域を人類のものにしようとしているのだ。

「じゃが、軍に癒着して暴利を貪っている連中に英雄の器はない。むしろ武力で自然を踏み荒らし大地を私物化するのは摂理への反逆と言えるであろう」

 まるでかつても体験したことがあるかのような言葉。歴史というものを何も知らないバーボチカにその真意はわからない。

「……難しい話はわかりませんけど、彼らの船を壊しちゃえばいいってことですか?」
「まあそういうことじゃな」

 市場の露店に挟まれた石道を進む二人。しかしスカジはなぜかどんどん山側へ行く。

「……あの、妖精王様。港からどんどん離れていますけど」
「ああ、それは援軍を連れてくるためじゃ」

 話し込んでいる間に馬車とすれ違った。しめたと言わんばかりに持ち主に飛びつくスカジ。

「おーい、お前さん」
「何だい、あんた?」
「この馬車はどこへ行くのじゃ?」
「カマーン村だよ」
「おお、丁度いい。わらわらも乗せておくれ。カマーン村に用があるのじゃ」

 初対面の相手に図々しくお願いするスカジ。優れた力を持つがため、傲慢なところがあるのだろうか。

「いや、乗せろって言われても……」

 当然断ろうとする持ち主。おそらくあの時の海賊達と同じ気持ちだろう。

「なーに、タダで乗せろとは言わんさ。この宝石十個をお駄賃にあげよう」

 袋を取り出し自慢気に見せたそれはサファイアだ。形も輝きも最高級のものである。それを見つめる商人の顔はみるみると喜びの色に染まった。

「うえ、こんなにもくれるのか!? よしわかった、乗ってくれ!!」

 途端に喜んで二人を馬車へ押し込む男。文字通り現金な奴であった。
――そして、数十分後。
 三人を乗せた馬車は山道を越え、目的のカマーン村へ到着した。
 道中、スカジは御者席に座っていた。そのためかすっかり意気投合しているが、残念ながらもうお別れの時間である。

「カマーン村の近隣にはフォレノワールという森があるのじゃ。そこにわらわと同じ妖精王であるアフロディーテが里を持っている」

 彼女達の力を借りて戦力を増やす。合流してから攻撃を始めても間に合うように話しを付けているのだろう。

「しかしフォレノワールには危険な魔物がたくさんいる。里に近寄るのは容易でない。人間が侵略してくることはないだろうが、気を引き締めて行くぞ」
「なるほど……気をつけます」



――カマーン村にたどり着いた二人。寄り道して留まる理由も特にないため、そのままフォレノワールへ向かった。

 だが二人はそこである集団の悪事を眼にする。

「……あれは?」

 槍と盾で武装した男達が、一人の木こりに脅しをかけている現場だった。

「この木材、全部で20万アルムで買うぞ!」
「そんなあ! あっしらがこれだけ用意するのにどんな思いをしたと思っているんじゃあ!!」

 そう、彼らが例の商会の私兵だ。

「つべこべ言うな! 新造艦を造るためのものとして、一つでも多く20万アルムで寄越せ!」

 彼らは村人達に木材の納入を要求していた。

「出来ぬというなら、ここで死ね!!」

 嫌がる村人達に、とうとう彼らは槍を向けだす。木こりの男も口で抵抗したが、武装した兵士の前では何もできずにいた。

「……奴らが商会の私兵じゃ」

 スカジの言葉でバーボチカは初めて、敵がどのような悪事をしているか知った。

「ひ、ひどい……」

 繰り返すが、アルミュール帝国の統治はその名の通りの強権的な帝政である。敵も味方も武力で苦しめるのだ。その結果の先は、服従か死のいずれのみ。

――その時、兵士が二人に気づいた。

「お前ら、何を見ている! これは見世物ではないぞ!!」

 こちらを見て顔をしかめる兵士達。彼は仲間の一人を呼びつけ、何かを話し始めた。きっと噂話をしている現場を見て気分を害したのだろう。
 バーボチカの怒りは既に限界に近づいていた。

「――バーボチカ、今はまだ戦うな」

 ここで戦闘になると民間人が巻き添えになる可能性がある。それを危惧しての行動だが、どうやら向こうはその気のようだ。
 私兵の男が一人、こちらに向かってきた。
――その男はバーボチカの前まで来ると、睨みつけてこう言った。

「まさかお前らも、皇帝陛下に反逆の意思があるのか?」

 幼い喉元に、槍の穂先が迫った。だがバーボチカは、動じない。

「いえいえ、この子は初めてあなた方の事業の様子をみたものでして。どんなお仕事をされているか教えていたのです」
「ふうん」
「あとで厳しくしかっておきますので、どうかお許しください」
「そうか。ならガキのしつけくらいちゃんとやっておけ」

 バーボチカがにらんだことを、決して見逃さなかった彼ら。一度損ねた機嫌は中々直らないらしいが、それでも見逃してくれたのは幸運だった。彼らは再び木こりの所へ戻った。

「……彼らが、ピーチロード商会

 民間人に極めて横柄なその様は、武力だけを第一に特権階級が全てを支配するこの国の成り立ちを表している。
 バーボチカがそれを知る余地はないが商会の悪事を目にして、決意を新たにしたのであった。



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●作者コメント

なんか、どこかの作品で聞き覚えのある地名が出てきましたね(すっとぼけ)
確か二月に関するユザネの作者様の作品だったような気がするのですが……(お前じゃい!)
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