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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

海の上での絆
「……はぁーあ、やることないなー」

 ベッドに寝ころび天井を眺めるバーボチカ。彼女の初めての船旅は退屈極まりないものである。

 水地が危険な島で育った彼女は船の上での楽しみを何も知らない。弓を使った狩りは海ではできない。大好きな花も海にはない。大陸に着くまで何一つやることがないのだ、

 もちろん遊びで旅をしているわけではないことは自覚している。それでも楽しみが何一つないのは辛い。

「もしもーし、バーボチカちゃーん。入っていいー?」
「あ、どうぞー」
「はーい、こんにちわー!」

 入ってきたのは甲板で釣りをしていた船員だった。

「バーボチカちゃん、もしかして今退屈かい?」

 見事に現状を言い当てる船員。彼の名はジェフ。この海賊団唯一のコックである。仕事は調理と釣りによる食料確保。力仕事は苦手なので宝さがしの際は船の見張りをしている。

「……そうですけど」
「だったら僕と一緒に釣りでもしない? 楽しいよー?」

 嬉々として掲げられた釣り竿とバケツ。その中身は空っぽだ。釣りが趣味と言うだけあって準備は万端らしい。

「あ、いいですねー!」

 無論これにバーボチカが乗っからないはずがなかった。



「わーい、また釣れたー!」

 釣れたのはパープルイワシ、釣り入門にはピッタリの魚だ。これでもう十匹以上。一方隣のジェフは大きなアギトスズキを五匹程釣ったようだ。

「おおー! 初めてなのに上手だねー!」

 実は彼女、今まで釣りをしたことがないのである。というのも、リョート島の水地はどこでもギルマンが現れるから川で魚を取ることはできないのだ。

 だからと言って海まで出るのも内陸だから移動に時間がかかる。そうなったら陸地の獲物ばかりに興味が向くのが自然なことである。

「そういえばジェフ君、ドミニクさんはなんで昨日ご飯の時間に来なかったんだろう?」
「それなんだけど彼は自力で用意するからいらないって条件で雇ってもらったらしいよ」

 ジェフは少し眉をひそめ、船員たちの中で一際孤立しているドミニクのことを考え込んでいるようだった。

「あの時は船長、そんな美味しい条件で用心棒になってくれるのかって喜んでいたね」
「ふーん……」

 再び竿に注視しながら、バーボチカは話を続けた。

「あんなに美味しいのにもったいないですねー……」
「それなんだけど、実は船長に内緒で何度か彼の部屋にご飯持って行ったんだよね」

 美味しい食事は、孤独な航海生活においても心の支えとなり得るものだった。

「そうなんですか?」
「うん、でも毎回追い返されたよ。だから彼に料理を食べてもらったことは一度もないんだ……」

 一方で、彼女が何度も追い返されたことには少し驚きが隠れていた。その態度には謎めいた何かが漂っているようだった。
 料理人なら自分の作る料理を喜んでもらえないことはつらいだろう。なぜそこまで拒絶するのか、それすら教えてもらえないのはあんまりであった。

「お魚、嫌いなのかなー?」
「さあ、僕にはわからない……」

 そう言いながら、ジェフは竿を引き上げた。針には餌しか残っていない。
――その時である。

「そうだ、ドミニクさんが魚が苦手なら、魚が苦手な人でも食べられる魚料理を作ろうよ」

 バーボチカの発した何気ない提案。

「――そ、その手があったのか! いいねえそれッ!」

 だが、それは彼にとって天啓に等しかった。

「じゃあバーボチカちゃん、釣りが終わったら一緒に考えてみないか!?」
「はーい!!」

――それから彼は、思い思いに魚が苦手な人でも食べやすい料理を考察し始めた。熱心な二人はすぐに意見を出し合い、時には喧嘩になり、そして妥協案を出しては試食してみる。

 そして、ついに一つの結論に至った。これなら魚が苦手な人にもお肉と同じ感覚で食べられるというものを、造り出した。

 だが二人の思いは、想像を超えた形裏切られることになる……。
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