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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第7話 流行り病と異世界料理
「おお、ハヤト殿、よく戻られたの」

 館に着いた俺たちは、早速キールに今後の方針について相談を持ち掛けたのだが、いざ話し合いに入るとキールは急に表情が険しくなった。

「いや、実はウチから人手を出すのはの……」

 資金や資材の援助には快諾してくれたものの、インスぺリアルから職人たちを貸して欲しいという俺の頼みには、渋い顔をするキール。

「ハヤト殿には気を悪くしないで欲しいのじゃが、なんというかその……かの地では、風土病がの……」

 キールはそう言うと、申し訳なさそうにため息をついた。

「わらわはブラックベリーに行ったハヤト殿が、あの街のことをあきらめてくれたらと、密かに思っていたくらいなのじゃ。いっそのこと、別の地に一から街を造るのもいいかと思うがの」

「そのことなのですが。かつて祖父がこの地でしたことを、詳しく教えてもらえませんか。自分の考えが合っていれば、ブラックベリーは復興するかもしれません」

「そう簡単には行かぬと思うがの……」

 キールは、唐突に思える俺の問いかけに戸惑いつつも、口を開いてくれたのだった。


◇◇◇


 今から何十年も前のことである。
 当時、インスぺリアル領では、手足のしびれや足のむくみを訴える者が多く、中には足元がおぼつかなくなったり、寝込んでしまったりする者までいた。
 そんなときこの地に偶然立ち寄った祖父は、この病に苦しむ患者たちに奇妙なことをしたという。

「それがの。病人を椅子に座らせて、膝の下を小さな木槌でコンと叩くのじゃ。健康な者は、例外なく脚が上がるのじゃが、不思議とこの病に侵された者は脚が動かんかったの」
「で、では、一体どんな治療をされたのでしょう?」

 いつの間にか、前のめりになっているドランブイ。
 初めて会ったときは、黒のロングドレスという服装もあってか、どこか暗い印象だったが、最近は明るい色の服が多い。特に胸元が大きく開いた丈が短めのワンピースがお気に入りのようで、華やいで見える。

「治療などはされなかったぞ。ただハヤト殿たちに振る舞った異世界料理を広めてくれたことかの」

 祖父がしたのは、新しい食文化をこの地に伝えたことだった。これまで食用とされてこなかったものを食材として奨励したのである。

 例えばマメは家畜の餌にするのが当たり前であり、エルフたちは口にすることが無かった。
 肉についても食用のための畜産は行われておらず、基本的に狩りで得るものとされていたそうだ。動物の内臓も全て肥料にしていたらしい。
 しかし、これらの食材を使った料理を何日か食べると、エルフたちの病はすぐに治ったという。

「最初は、食べる習慣のないものばかりじゃったからの。正直嫌々じゃった。そんな我らを見かねてサネユキ殿は様々な料理を教えてくれたのじゃ」

 マメは、さっとゆで上げたものを炒めて塩をかけると絶品のつまみに。さらに乾燥させて粉にしたものはさまざまな料理や甘味に使われた。肉の内臓は新鮮なうちによく洗って臭みを取ると、焼いたり鍋に入れたり。家畜の肉には衣をつけて揚げるとカツという料理になった。

 これらの料理は、病気が治る上に味もいいということで、祖父の教えた料理を生活の中に取り入れ、習慣的に食べるようになったという。
 今では大切な客人をもてなす際は、必ずこれらの料理を振る舞うというほど生活に根付いたものになっている。

「ドランブイ。ブラックベリーで流行ったとかいう病はどんな症状だったのか、皆に教えてくれないか」
「はい、それが……今しがたキール様がおっしゃられたものと、同じでございます」

「何だと! 誰ぞおらぬか!」

 キールは勢いよく立ち上がるや、すぐに指示を飛ばしたのだった。


◇◇◇


 一週間後、俺たちは三十名の職人と共に、再びブラックベリーに向かうことになった。
 今回の荷物は、資材に食料などなど膨大な量である。もちろんお代は、ドランブイを通して立て替えてもらっている。
 そしてモルトには、王都へ人集めに行ってもらうことにした。

「頼んだぞ」
「はいっ。任せて欲しいっす!」
「本当に大丈夫か?」
「何言ってんすか、余裕っすよ~♪」

 楽観的なモルトはいささか気になるが、これでもトーゴ家の筆頭執事。領主館で働いてくれる者や、ブラックベリーへの入植者が見つかるといいのだが。

「では、行って来るっす!」

「くれぐれも無理するんじゃないぞ」
「危ないときは一目散に逃げてね」
「財布は持ったか?」
「水筒は大丈夫?」
「迷子になるなよ」

「……励ましてもらうのはうれしいんすが……何だかダメな子が心配されているみたいで複雑な気分っす」
 
 護衛としてモルトに同行してくれるのは、ここに来るとき会ったピニャとその妹。二人とも普段はキールの屋敷でメイドをしているそうだ。

「レオン様お久しぶりです。こっちは妹のコラーダです」
「初めまして。姉がお世話になりました。よろしくお願いします」

 二人とも旅装を整え腰には半月状のシミターを付けている。
 メイド服姿もいいが、こんなフード付きマントを身に付けたエルフたちも凛々しい。
 
 俺たちはモルトを見送ると、ブラックベリー目指して再び出発したのだった。
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